プロローグ
202X年、5月1日、13時半。東京都檜原村の山中にその研究所はあった。
国家によって設立されたその研究所に名前はない。見た目はどこか廃墟のようであるが、それもそのはずでありわざと廃墟のようにしているという。
そうこの研究所の存在自体が資料上ないことになっているのだ。周囲に集落もなく完全に孤立した立地である。
元々は戦前に旧日本軍が極秘の研究を東京近郊で行うために建てられたという。戦後しばらくはGHQが管理していたがその後完全に放棄されたことになっていた。ただ実際はとある研究を行うために国家によって研究所は存続していたという。
3階建てであり1階と2階が研究室となっている。3階はその他応接などの間となっている。
今回そこではとある極秘の研究が行われていた。
「最終確認よし、実験に移行します。」
とある研究員の声がトランシーバー越しで研究所の2階に伝わる。10人ほどの研究員がこの研究所で研究を行っている。
「いよいよか、これで日本は核兵器を持たずとも世界の列強を超えることができる!」
研究室の2階で紺色のスーツを着たとある中年の男の声が響き渡る。どうやらこの実験に興奮しているようであった。
「栗山さん、うまくいけばいいですけどね、何がどうなっても分かりませんよ。」
黒のスーツを着た別の男が話しかける。見た目は40代といったところか。
「必ずうまくいく。そのためにお前らを呼んだのだからな。」
栗山と呼ばれた男がそう答え、にやりと笑う。
「そもそもこのセフィロト・プロジェクトがだいぶ無茶なのはわかっていますか。それをここまで持って行けたこと自体がまず奇跡ですよ。」
二人の会話に別の男が入る。この男も黒のスーツを着ており、見た目は40代といったところか。
「青山、そういうことは今別に言わなくてもいい。今はこの実験の成功を見届けるだけだ。」
そういって栗山は胸を張る。
青山と呼ばれた男は「はあ」と深いため息をつく。
「とりあえず最後の接続は私と黒姫で行います。だが本当にどうなっても知りませんよ。」
そう言いながら青山は黒姫と階段を降り1階の実験装置へと向かう。
研究所の1階。そこには太い電源コードに繋がれた1辺約1mの白い立方体が鎮座していた。外部は厚い金属で覆われており、通気孔のような穴がいくつも空いている。
そうこれはコンピュータである。だがただのコンピュータではない。
栗山はこう言う。
「これは世界を変える。核兵器以上の力を持つ兵器となる。日本は核兵器を持てない。ならばそれとは違う兵器を持たなければならない。」と。
これはコンピュータではなく兵器として使うとのこと。そしてこの装置の開発の最終段階が行われようとしていた。
そのコンピュータから離れたところで今回の実験は行うとのことである。
「ただいまから接続実験を行う。」
青山の声が研究室の1階に響き渡る。
青山が懐から取り出したのは1辺が約3cmの白色をした箱状の物体であった。これは白いコンピュータと無線で繋がっている子機である。
実験台の上には手榴弾が置かれている。自衛隊で実際に使われているものだ。
黒姫がその手榴弾を手に取る。そして青山から白い箱を受け取り、それを手榴弾に触れさせた。二人の周りにいる何人もの研究員が固唾を飲んで見守る。
すると白い箱がスライムのように変形し始めた。変形し始めた箱が手榴弾にまとわりつく。そして手榴弾に吸収されるように消えていった。心なしか手榴弾のサイズが大きくなったように見える。
「これで終わりか?」
青山からホッとしたような声が出る。それもそのはずだ。この実験は何が起きるかわからないと青山と黒姫の2人は察していたからである。
「やったぞ実験は成功だ!」
2階でカメラ越しに実験の経過を見ていた栗山が叫ぶ。明らかに興奮している様子であった。
「とにかく融合実験は終わった。今から即分離しなければ。まだ安全かどうかもわからない。」
青山がそう言った。そうこの実験はこの段階で終了ではない。手榴弾と一体化した子機が分離して初めての成功となるのである。
そういった矢先手榴弾が白く鈍く光り始めた。
「なんだこれは!」
黒姫が叫ぶ。
そう叫んだ瞬間手榴弾が爆発した。
周りにいた研究員も吹き飛ばされる。2階にもその衝撃は伝わっていた。
「何があったのだ!」
栗山が叫ぶ。慌てて1階に降りようとするも階段自体も崩落していた。
栗山の目に映ったのは何人もの倒れた研究員たち。そして青山と黒姫の二人は全身に損傷を負って倒れていた。この時点で2人の息はなかった。
惨憺たる現場の中白いコンピュータのみが無傷で佇んでいたのであった。




