第八話《孤児院の『守護者』》
「テオ。お前の体を返すよ。遅くなって、すまなかった」
軍の片隅にある幾つもの墓石が並ぶ、集団墓地。
今日、真新しい墓石の中にテオは入った。
骨壷が離れた両手は、恐ろしいほどに軽かった。
「ミロのことは任せろ。……またな。親友!」
敬礼をし、カイは背を向ける。いつか、再開するその時まで。
お前の息子は、親友の俺が守る。
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「いや……いくら、カイ様って言ってもね」
「……努力しますので」
「じゃあ、笑ってみてくださいよ! ほら、無理だね! 他を当たってくれ」
門前払いをされること数件。
剣を持てば、一騎当千の男が、職を探して頭を下げ続ける。
退職金として、金はもらっている。だが己の一生、ましてやミロの進学、となると全く足りていない。
「守るどころか、職すら手に入らないとは」
パン屋では、「笑顔が怖い」と断られ、花屋も同じ。
魚屋では、「まな板まで切る気か!」と初日でクビ。
料理屋は「包丁は食材を切るものだ!」と怯えられて終い。
街の子供たちには、「威圧感で泣かせてしまう」という、珍事件が起こり衛兵が出張ってきた。
「カイ様でしたか。人相からは予想していたのですが」
「面目ない。木に絡まっていた風船を取ったのだが、泣かれてしまって」
「かしこまりました。風船はこちらで返しておきますね」
子供たちにも泣かれ、笑顔もできない。
「やはり、軍人しかないのだろうか」
適材適所という言葉があるように。
人が次々と入ってくる、今のアルディアで職を手に入れるのは難しかった。
「うちで皿洗いでもするか? カイにでも多分できるだろう」
「多分とはなんだ」
ダリスの優しさはよく分かっていた。己を心配してのことだと痛いほど理解していた。
だが、ダリスの店に行けば、テオの影を探してしまうような気がしていた。
それは、テオへの、ミロへの裏切りだ。
「気持ちだけもらう。俺は、自分の足で立たなきゃならん」
「そうだな。まあ、どうしても見つからなかったら誘ってやるよ」
「そんな日が来ないといいな」
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「しかし、本当に困ったな……」
影が伸びる、街並み。
結局、今日も何も手に入れることができなかった。
足の行先はいつも同じ。
中央道を抜け、裏道を抜ける。
そこには少し古びた、温かな灯りが漏れる建物。
ちらほらと子供たちの遊ぶ声が聞こえる。
「あ! カイだ!」
「ほんとだ。ルカ! ミロ!」
門の前で、こちらを見つけて駆けてくる小さな影たち。
「カイさん。仕事まだ決まんねーの?」
「参ってる。全滅だ。ルカは学舎を卒業したら、何をするんだ?」
「まだ決めてないけど……カイさんよりは早く仕事が決まる気がする」
カイは、自嘲気味に笑い、ルカの頭を撫でた。
「俺、もう子供じゃないんだけど」
「何を言う。まだガキだな」
「は! すぐ追い抜いてやるからな! 俺たちは成長期だから」
「楽しみだな」
そのままルカの手に引かれ、孤児院へと入る。
「ミロー! カイさん、また惨敗だってさ」
「また? 全くどんなに不器用なんですか」
「全くその通りで」
ミロは、洗濯物を畳んでいた。周りには、幼い子供たちがミロを手伝っている。
「それよりルカ、ご飯の準備は?」
「ヤッベ! 忘れてた」
ルカは慌てて立ち上がり、食堂の方へ走って行った。
「お前たちでも仕事をしてるのに、俺は」
「……院長に聞いてみては?」
項垂れているカイを見かねたのか、ミロが提案をした。
「マリンダさんにか? だが、俺は子供の扱いも、家事も、」
「薪割りならできるでしょ。それに、力仕事もお手のものでしょ?」
カイは言葉を失う。
国のために鍛えてきた、この力が己の守りたい人のために使える。
「ミロ! 飯だよ。……おや、カイくんじゃないかい。辛気臭い顔してどうしたんだい」
食堂から顔を覗かせたマリンダ。
「カイさん仕事が見つからないんだって」
「ルカ! 熱いんだから余所事を考えない!」
「はーい」
ドタバタと騒がしい音を立てて、ルカがキッチンへと消えた。
その背中を見送った、マリンダはミロが連れてきた、幼い子供たちを椅子に座らせる。
「お前さんほどの男が、路頭に迷うとはね。軍人の再就職も一段と難しくなったものか」
「どこも、門前払いでして、その……」
カイの腕を、ミロがぐい、と引いた。
カイはひとつ、大きく息を吐いた。
「マリンダさん。ご迷惑なのは存じております。どうか、自分を雇っていただけないでしょうか」
「お前さんをかい?」
マリンダが片眉を上げる。
「はい。買い出しでも、薪割りでも、掃除でも。何でもする。不器用でうまくいかないかもしれないが。……子供たちのそばにいたい。この通りです。どうか、よろしくお願いします」
深く、真っ直ぐに頭を下げた。
静まり返る食堂。
スープの煮える音が響く。
「はあ……ルカ。もう一皿出しておやり」
「それって」
ミロが恐る恐るマリンダに質問する。
「雇うって言ってんのさ。どうせ、鼻からそのつもりだったんだろ?」
「えへへ」
マリンダは鼻を鳴らし、そっけない態度でカイに背を向けた。
「よろしくお願いします」
「あいよ」
カイの顔に笑顔が咲く。
「やった! これでいつもカイと遊べる!」
「ミロ、やっぱ天才!」
背後で、子供たちの声が飛び交う。
「ほら、すわんな」
カイの場所をと、開けられたスペースに座る。
少し狭くて、温もりが残っている。
「手を合わせて」
揃いの声が、空気を震わせる。
「いただきます!!」




