第六話《親愛なる『指先』》
最後の手向けを捧げるための広間。
一つ一つの音が静かに響き渡る。
天窓から差し込む光が、白く柔くカイを照らしている。
「ここに、いたのか」
祭壇に据えられた、蓋のない細長く白い箱。
迷うことなくその中に横たわる、テオの手に取った。
硬く固くなり、石のように冷え切ったテオの指先。
「そんなに力むなよ。俺だぞ、テオ」
カイは己の両手で、その指を包み込んだ。
まるで、愛しい子供を愛でるように。
流れ出る己の熱を、テオに送り込もうとする。
カイの世界にはテオのみ。
鐘の音が鳴り響き、靴の音が増える。
「……カイさん」
数多の人が出入りをし、多くの涙が落ちた。
思い出が語り尽くされる。
その全ては、カイの耳には届かず、ノイズとして消える。
多くの花が顔をのぞかせる棺。
特に、下半身を埋めるように詰められている花々。
「出棺!」
無慈悲な号令と共に、広間から一人、一人と棺が消えていく。
行く着く先は、皆同じ。
「リサ中佐、次なんですが」
「……最後にしてやれ」
「かしこまりました」
背後で交わされる会話。
リサの配慮にすら気づくこともなく、カイはひたすらテオの手を握りしめる。
不意に、手のひらの中に微かな熱を感じた気がした。
「カイ中尉。行きますよ」
肩を叩かれ、ついにその手が引き剥がされる。
「出棺!」
その声がカイを締め付ける。
テオが重い鉄の扉の向こうへ、連れ去られていく。
「テオ……」
駆け寄ろうとする足を、誰かが制止する。
「おい」
「はい!」
短いやり取りが行われる。
ガチャン
不気質な乾いた鉄の音。
扉の向こうでは、己では到底届かない猛火に、テオは包まれている。
火葬場は静寂に包まれる。
その静寂が子守唄のように、カイを深い眠りへと連れ込んだ。
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次に目を覚ました、その時。
世界は驚くほど澄んでいた。
「カイさん。……お骨の準備が整いました」
ミロにそっと手を引かれ、再び広間へ戻る。
そこにあったのは、純白の欠片たちだった。
「……綺麗だな」
ただ、磨き上げられた宝石を見るよう。
温め続けた指先は燃え尽きており、ない。
熱を帯びた骨を、大事そうに壺へと収める。
カイの顔には、清々しい微笑みが浮かんでいた。
「カイ中尉。これから兵舎で盛大にやりますけど……」
「俺は遠慮しよう。ダリスのところへ行く」
「承知しました。そのように」
ミロに手渡された骨壷。
布を被せる。
それを大事そうに抱えた。
前のように隣を歩けなくなってしまった。
小さくなってしまった親友。
「よし、行こうか。テオ」
薄暗い廊下を一歩ずつ、踏みしめるように歩き出した。




