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第十話《招かざる『珍客』》

 時は経ち、戦後一年。


 まだ、戦争の記憶は新しく、国境付近へ向かえば、火薬の残りカスや防具なんかが落ちている。


 風が吹けば、土煙と共に鉄の錆びた匂いが鼻をくすぐる。


「お兄さん、面白いね!」


 土いじりをしていたカイに、玄関先で子供たちが騒いでいるのが聞こえた。

 客なら、カイのもとに誰かが伝えに来るはず。


「お! いたいた!」


 顔を覗かせたカイに、迷わず向かって走ってくる男。


「よお! アルディアの『英雄』さん」


 カイは近くにあった(くわ)を、男の喉仏へ突きつける。

 無駄のないその動きに、現役時代の気配が滲み出る。


「いやあ! 流石だな。カイ中尉」

「何者だ。返答によっては黙っちゃいないが」


 ヘラヘラと、カイの行動をかわす。


 只者ではない。

 子供たちを守らなければ。


 カイの行動は素早かった。

 使っていた土を、男の顔を目がけて投げる。


 土をかわすために、目を瞑った男の足元に潜りこむ。


「わ! え! ちょ!」


 カイは男を完璧に制圧した。


「わー! カイさんすごい」

「さすが、カイさん!」


 子供たちの歓声が背後からする。


「縄を持って来い」

「ちょっと! 待っててばー!!」


 男はカイの拘束から逃げ出した。


「本当に敵じゃないし! いや敵だったけど!」


 男は頭をかきむしり、何かを必死に考えている。


「この顔に見覚えない?」


 新手の詐欺かと思った。

 警戒体制を解かないまま、記憶を辿る。


「……ザルガスの兵士。最後の、戦場跡であった」

「大正解っ! よかった。覚えてくれてて」


 テオを探しに行った、あの日。

 拳銃を向けた相手だ。


「まま、聞きたいこといっぱいあるでしょ? だけど、英雄に会うために野を越えて山を越えてきたのさ。もてなしてくれ!」


 馴れ馴れしい男。

 カイは鋭い視線を向けたまま動かない。

 背後ではこの「珍客」を興味津々で子供たちが見つめている。


「武器の所持は」

「ないよ! どこ見てもいいよ」


 手を上げ、目を閉じてカイに身をまかそうとする。


「分かった。お望み通り、もてなしてやる」


 腑に落ちないが、勝てない相手ではない。

 仕方がなく、男を来客室へ案内をする。

 短剣と拳銃を腰に携えて、男の目の前に座る。


「そんなに警戒しなくても……別に今は敵でもないじゃん!」

「……味方でもないだろ」


 男は口を開けて驚いたのちに、大声で笑い始めた。

 カイは片眉を上げて、男を睨む。


「いや、ごめんごめん。俺は、ヴィン。よろしくな『英雄』カイ中尉」

「俺は、カイだ。退役済み。『英雄』と呼ばれるのは好きじゃない」

「おや、これは失敬。よろしくね、かいっち!」


 かいっち


 カイは、短剣をヴィンに向けた。


「え、不評? 仲良くなる秘訣はあだ名をつけることじゃなかったけ? リア嘘ついたの?」


 ぶつぶつと独り言を呟くヴィン。

 警戒している己が馬鹿馬鹿しく感じてきた。


「そういえば、」


 ヴィンが手を叩いた。


「テオ中尉の遺体、見つかった?」

「……ああ。既に墓に入っている」

「よかった! 本当にね」


 ヴィンが目を伏せる。

 意味ありげな行動。

 カイの警戒がまた上がる。


「テオを知っているのか」

「もちろん! 燃え盛る砦からザルガス国民、一人の男の子を助けたまさに『英雄』! って僕はずっと思ってる」

「ミロのことを知っているのか」

「個人的にね」


 聞きたいことは多くあるが、簡単には口を割らないだろう。

 何度か、足を運ばせて情報を差し出させる、その方向で決まった。


「宿は」

「取ってないよ? そこらへんで寝よーかなって」


 カイは頭を抱えた。


「金は」

「ないよ? 持ち歩いたことない」


 どこまでが本当で、どこからが嘘か。

 読めない男だ。


「泊まっていけ」

「やりぃ! さすが、かいっち!」

「……こっちが目的か」


 完璧に嵌められた。

 己の頭をペチンと叩く。


 だが、策略をかけられた時のような不快感はなかった。


 敵と味方。


 殺されるか、殺すかの世界に身を置いてきた。


 元より、人と人。

 ただ、少し離れた土地に生まれたというだけ。


「憎まずにいられる。これが、“普通”なんだよな」


 己の大切な、親友を殺した国。

 不思議と、復讐をしようという気持ちにはならなかった。


「いい風だ」


 カイの頬を撫でる風が、季節の移ろいをそっと教えてくれる。


「カイさーん! みんなで鬼ごっこしよ」


 庭から、ルカが呼ぶ。一つ、息を吐いてから窓から飛び出した。


「うし、やるか!!」

「じゃあ、かいっち鬼ね?」

「ほざけ! ヴィンお前が鬼だ!」

「えー! いいよ! いーち、にーい――」


 カイは何も知らない。


 ヴィンの腹の中で、カイの人生を大きく歪ませる計画を練っていることを。


 そして、もう一人、居候が増えることも。



 カイの願う“日常(しあわせ)”から大きく外れることも――

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