第七話『首領』
このお店に来て七年。
パンジーさんはもう立っていられなくなり、
寝たきりになってしまいました。
ウートウさんは自身の力不足を
嘆いていましたが、パンジーさんは
余命宣告より一年も長く生きています。
アタシもパンジーさんも、彼には
感謝の気持ちしかありません!
「店は休むんじゃないよ」という
パンジーさんの言葉を守り、
アタシ達は今日も花食亭を開きます。
お客さん達もパンジーさんを心配していて……
でもリコには、「ちゃんと休めてる?」って
アタシの心配をされてしまいました。
まだまだですね。
その日、アタシは店先の掃除をしていました。
すると突然ガタイのいい、怖い見た目の人が
こっちに歩いてきたんです。
お使いの途中で時々見かけはしましたが、
花食亭の近くで見た事はありませんでした。
とりあえず見て見ぬふりをして
掃除を続けます。
怖い人達がこっちに近付いてきてる気が
しますけど大丈夫ですよね!
めっちゃ近くまで来てますけど!
借金なんてしてないけど因縁をつけての
取り立てでしょうか?
ま、まさかクズ元家族共関係で……?
「おい女、ここに住んでるババアを
今すぐ連れてこい!」
「ば、ババア?」
「パンジーとか言うババアだよ!
早くしろ!」
男の人達は、パンジーさんを
店先に連れてこいと騒ぎ立てました。
でも、パンジーさんはもう立って
歩ける状態じゃありません。
「パンジーさんは病気で寝たきりです。
ご用件を先にお聞きしても?」
「うるせえなアマ!
死にかけだろうが、引き摺ってでも
連れてこいっつってんだよ!」
「チッ、もういい!
おいお前ら、中入って連れてこい。」
「ウス!」
「え、ちょっと!」
「邪魔するな!
死にてぇのか!?」
こちらの話も聞かず、ズカズカと
店の中に入っていった男の人達。
リーダー格と思われる人は、
アタシに向けて拳を振り上げました。
……それなら、アタシも黙ってられません。
話も通じない野蛮な人に、パンジーさんを
連れていかせるもんですか!!
「やっちゃいな、シンジャさん!」
「!? なっ……ゴフォッ!」
店の中で男の人達を待ち構えていた
シンジャさんがその人達を吹っ飛ばし、
アタシを殴ろうとしたリーダー格の人に
当てました!
「ありがとうシンジャさん!」
「他に願いはあるか? 女神様。」
「お母さん、大丈夫!?」
店の中から上がったのはお客さん達の歓声!
店先に出てきたシンジャさんは
慣れた手付きで、まとめてノックアウトした
悪そうな人達を縄で縛り上げます。
心配そうな顔をしたカミィも出てきて
アタシに抱きついて来ました。
「怖かったね……大丈夫だよ。
シンジャさんが今からあの人達を
捕まらない程度に、ボコボコに
してくれるからね。」
「それがお前の望みなら。」
「お母さん、怒ってる……?」
「病気のパンジーさんを、
無理やり連れ去ろうとしたんだから
慈悲なんていらないよ。」
「え、お婆ちゃんを!?
おい包帯男、法律のギリギリを狙えよ!」
「……少し、待っていただけますか?」
突然声がして、そっちを見ると
眼鏡をかけた身なりの良い男の人が
立っています。
その人は悪い人達とアタシ達を
交互に見ると、こちらへため息を吐いて
頭を下げました。
「この度は構成員がご迷惑をおかけし、
誠に申し訳ありません。
こちらで厳重な“処分”を降しますので
今回は、お許しいただけないでしょうか?」
どうやら、悪い人達より上の人のようです。
……つまりもっと偉い人なのでは!?
アタシは咄嗟にカミィとシンジャさんの
後ろに隠れました。
すると、タイミングよく目を覚ました
悪い人達がこちらに怒鳴り始めます。
「っのクソが!
てめぇら“エディブル”に逆らって
無事でいられると思ってんじゃねえぞ!」
「首領の命令なんだよ!
今に見てろ! 死ね!」
「……そんな命令は知りませんねぇ。」
「ヒッ」
「わ、若!?」
若と呼ばれた眼鏡の人は、冷たい目で
“エディブル”の人達を見ています。
さっきまでの威勢はどこへやら、
悪い人達は、顔を真っ青にして
ガタガタ震えています。
しばらく悪い人達を見つめたあと、
眼鏡の人はアタシに声をかけました。
「営業後、また改めて謝罪と
お願いに参ります。
出来れば今日、お時間を
いただいてもよろしいですか?」
「え、あ、はい。」
「ではパンジーにこうお伝えください。
「クローバーに食事を作ってくれないか」と。」
そう言って、眼鏡の人は悪い人を
引き摺りながら去っていきました。
でも、眼鏡の人とは営業後に
また会う約束をしちゃったので、
とりあえずシンジャさんに同席してもらおう……
そう思いながら、アタシは二階の
パンジーさんのところへ向かいました。
「レディ、本日はお忙しいところ、
見苦しい下の者がご迷惑をおかけして
申し訳ありませんでした。」
「いえ、そちらでも処罰されるとの事ですし。
二度とこのお店に来なければそれで……。」
「ええ、彼らは来ませんよ……二度と。
……ところで、パンジーには伝言を
お伝えしていただけましたでしょうか。」
眼鏡の男の人、グローリーさんは
お詫びの菓子折を持って営業後に
花食亭にやって来ました。
(シンジャさん達は調理場で待機)
にこやかな雰囲気の人ですが、
どこか冷たい印象を感じてしまうのは
アタシの気のせいでしょうか。
「えっと、はい、伝えました。」
「彼女はなんと?」
「……その、「アネモネ(アタシ)が
代わりに行け」と。」
パンジーさんにグローリーさんの
言葉を伝えた時、しばらく無言だった
パンジーさんに言われたのは
「代わりに行っとくれ」という言葉でした。
え、料理を作りに行くんですよね!?
そうですよね!?
「そうですか……では、
来ていただいてもよろしいですか?」
「い、今からですか?」
「詳しい内容は馬車の中でお伝えします。
そちらにも時間が無いように、
こちらにも時間がありませんので。」
「コンバンワー!
アネモネサン、ウートウ来た、ヨ……。
て、なんでグローリーサンいるノ!?」
今日も来てくれたウートウさんも
念の為、一緒に来てくれる事になり
アタシはグローリーさんの用意した馬車に
乗り込みました。
「ウートウさん、グローリーさんとも
お知り合いなんですか?」
「そーヨ、お得意サマ。
グローリーサン、どしてアネモネサン
“エディブル”連れてくネ?
アネモネサン、借金とか賭博してないヨ。
真面目で素敵な人ネ。」
「そうですね、まずは
俺の事情から話しましょうか。
……貴女が慕うパンジーは、
俺の実の祖母なんです。」
「……え?」
「アイヤー!
パンジーサンとグローリーサン、
家族だったネ!?」
「ええ、家族“でした”。」
パンジーさんは若い頃から
花食亭を切り盛りしていたそうなんですが、
その時にグローリーさんの祖父である
クローバーさんと結婚していたそうなんです。
でも、クローバーさんはこの街を
中心に活動する……あまりよろしくない組織の
トップだったんだとか。
それを隠してパンジーさんと結婚し、
グローリーさんのお母さんが
生まれたそうです。
そしてさらに二十数年後、
グローリーさんと……妹さんが生まれました。
「祖父は祖母と娘、孫の存在を
徹底的に隠していました。
ですがどこからか情報が洩れ、
俺の両親と妹は……。」
ご両親は人質として拐われそうになった際に
必死に抵抗した末に死亡し、
妹さんも……一緒に殺されてしまったんだそう。
その時に、パンジーさんは自分の夫の
正体を知って大激怒。
離婚して援助も全て断っていたんだとか。
人を雇わなかったのは、元旦那さんから
指示を受けた人が入ってくるかも
しれなかったから、だそうです。
「……着きました。
レディ、厨房と食材を自由に
使っていただいて結構です。
あぁ、祖父は高齢なのでそこを配慮した
料理でお願いしたいのですが。」
「分かりました、お邪魔しますね。」
「楽しみネ、ご相伴預かるヨ!」
「……貴方、少しは慎みなさい。」
広いお屋敷に相応しい広い厨房には、
大量の食材と最新鋭の高級調理道具!
しかもしまわれているお皿、
手に取るのも怖いブランド品ばかりです……。
グローリーさんのお祖父さんは
お歳だそうですので、とりあえずスープとか
食べやすいものを……。
そう思いながら、アタシは
手に馴染まない調理道具を構えました。
「……。」
「あ、どうでしたか……?」
「ありがとうございます、
久しぶりに完食していました。」
「グローリーサンも食べるネ?
アネモネサンの料理美味しいヨ!
毎日作て欲しイ!」
アタシが作ったのは初めてパンジーさんに
作ってもらった、あのお粥でした。
(ウートウさんには魚のフライとかを
別で用意した)
クローバーさんが食べてくれてよかった……
もしも不味い! ってなったらアタシ、
殺されてたかもしれない。
そしてグローリーさんに頭を下げられ、
「また後日お礼をしますが、
まずはこれを。」と今日使った
高級調理器具を全部いただきました。
で、その器具と一緒に
ウートウさんと馬車で帰されました。
店の前で待っていてくれたリコや
シンジャさん、カミィ達の顔が忘れられません。
クローバーさんがお粥を全部食べてくれたって
報告したら、ほんの少しだけ笑っていた
パンジーさんは……その数日後、
静かに亡くなりました。
アタシも、カミィもたくさん泣きました。
お葬式では領内だけじゃなく、外からも
たくさんのお客さんがパンジーさんへ
最後のお別れを言いに来てくれて。
アタシは葬式が終わったあと、
花食亭の前に立ちます。
……パンジーさんから、この店に関連する
権利を譲られたのはだいぶ前の事。
覚悟はしていたけど、今日からアタシが
このお店を守っていかなきゃならない。
明日はもうお店を開けます。
開けなきゃ、パンジーさんに怒られちゃう。
見ていてください、パンジーさん。
これからはアタシ達が、このお店を
絶対に守り抜きますから!
「……あの、困ります!」
「おや、ご満足いただけませんでした?」
「いただいた食材が多いんですって!
こんな量、使い切れませんし……。」
「では、このお店の物ではなく
貴女の物を買いに行きましょうね。
職人を呼んで……。」
「結構ですってば、グローリーさん!!!!」
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名前: グローリー・エディブル
この国の裏側を牛耳る組織、
“エディブル”の首領クローバーの孫。
そしてパンジーの孫でもあり、次期首領。
祖父クローバーが原因で両親と幼い妹を
亡くしており、その復讐の為に
エディブルに入った。
(自身を見る度に祖父は後悔に苛まれるから)
冷酷で容赦のない性格で
策略を張り巡らせるのが好き。
部下にも容赦しないが、
失敗は一度だけ見逃してやる。
祖母への伝言は、「貴女の元夫、クローバーは
そろそろ死にそうです」と伝える為のもの。
彼女が死にかけている事も勿論知っていたので
本当に来てもらうつもりはなかった。
アネモネの事は何とも思っていなかったが、
お粥の余りが鍋に残っていたのを食べ、
祖母との思い出を思い出してから
少し意識するようになる。
その後、アネモネの過去を知り、
惨めな生活を送りながらも生き抜いた
彼女にゾクゾク来たらしい。
すんげぇドS。
〖グラフ見本〗
危険性A……アネモネへの危険性(監禁など)
危険性B……アネモネ以外への危険性
戦闘力……どれだけゴリラか
知力……どれだけ賢いか
個別の何か……アネモネに対して抱いている何か
〖グラフ〗
危険性A……☆☆☆☆☆
めちゃくちゃ狙っている。
しかも、困らせて楽しんでいる。
危険性B……☆☆☆☆☆
裏社会の人間なので。
戦闘力……☆☆☆☆
暗殺者程度なら返り討ちに出来る。
知力……☆☆☆☆☆
この国の裏社会を取り仕切っているので
勿論頭が良い。
執着度……☆☆☆☆☆
アネモネをとてつもなく気に入っている。
誰かに好意を抱いたのが初めてなので
大量の贈り物等をして怖がらせているが、
アネモネの怖がる顔を見ても喜んでいる。




