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第31話 入国審査

「オラァァァッ‼︎」


掛け声とともに裂帛の気合いで赤髪の少女ココが相対する身構えた小さな少女に飛び掛かる。

目にも止まらぬスピードで繰り出されたその突きと蹴りは小さな少女によっていなされ腕を掴まれるとココは投げ飛ばされた。


「フンッ!やるなっ!エイコォォ!」


しかし猫型の獣人の身体の筋肉や関節は柔らかく単純な投げではダメージは与えられない。

ココの身体は空中で回転すると砂浜に足を着地させ反転して突撃を始める。


あっという間に再び距離を詰めるとココはエイコに向けて再び攻撃を繰り出す。

獣人らしい疾い突きと蹴りだったが次々と一方の少女は躱し続ける。


始めは猫耳の少女ココとの組手におっかなびっくり対処していた少女、勇者エイコも攻撃を見切って躱せるとわかって落ち着いてきたようだ。


「いいですね。エイコさんどんどん動きが良くなっていきます」


「エイコちゃん、身体とスキルの使い方さえ覚えれば一気に強くなりそうよね」


離れた場所で2人の組手を見守るのはカタリナとパティだ。

性格的なものだろうか、エイコはココの攻撃に対して受け身だが全て見切っているようでここまではまだ一撃もダメージを受けていない。


「……えいっ!」


やがてエイコは向かってくるココの拳を掴むと再び投げを放つ。


しかしココの反応は更に速くなり地面に叩きつけられる前に空中で身を捩り反撃を繰り出す。


「オラァァァッ‼︎」


「くっ……!」


空中に浮かんだままのココの蹴りがエイコのガードした腕に命中する。


少し痛むがエイコはそのままココの脚を掴むと次はぶんぶんと回転しながら振り回し始めた。


「うおおおおっ⁉︎」


回転数はすぐに上がりココの視界が揺れる。

7、8回転ほどしたかと思うとエイコはその勢いで海に向かってココをぶん投げた。


数十メートルの距離をグングンと吹き飛びやがてココの身体は海の浅瀬へと

音を立てて着水した。


「……くっそ!もう一回だ!エイコ!」


ココは泳ぎながら叫ぶがタオルを取り出して彼女を迎えたカタリナは首を横に振る。


「……ここまでにしておきましょう。彼女も連戦で疲れてるようですし」


瑛子の方を見ると砂浜に座り込み肩で息をしていた。

魔力の放出にゴーレムとの連戦に今のココとの対戦でそろそろ疲れが足にきているようだった。


「……くそっ!次は負けねえぞ!エイコ!」


悔しそうにココは猫耳をピンと立てるが瑛子はもう聞いてはいないようだった。

パティの差し出したタオルとドリンクを受け取りゴロリと砂浜に横になる。


「はあぁ……どうなってんスか?私の身体……」


可もなく不可もなく。

学校での瑛子の体力テストの結果なんてパッとしないものだった。

動かせば動かすほどに以前との違いに驚く。


カタリナが寝転がったエイコの横に腰を下ろす。


「お疲れさまです。すごい動きでしたよエイコさん。これが貴方が女神から授かった能力ということです。今日1日でかなりのポテンシャルを自覚できましたね?」


「……うーん、なかなか慣れないっスねえ」


息を整えながらエイコは戸惑いを口にする。

しかしいずれ魔物と戦わなくてはいけないのだ。

不安感は拭えない。


「ああ、でも魔物とか魔族とかに負けないってことっスね……センパイたち元気かなあ……」


ここの地理は分からない。

自分がどこから連れてこられたのかもわからなかったがエイコはぼうっと静かな波のさざめく青い海を眺めた。












傾いた日が街道に並んだ馬車の列をオレンジ色に照らす。

関所の前で王都セタランナへの入国審査を待つ列からは気だるそうな気配が流れる。


王都への入国審査は厳しく特に時間がかかる。

現在、関所ではとある一団の入国審査が長引いていた。


「ねえ旦那がた、そろそろ勘弁してもらえませんかねえ……こうして書類は揃ってるでしょう?この方たちは国の偉いさんのお客人なんですよ。ゴツいのもいますがこの御時世だ、兵隊から芸人に転職なさったんですって。色々あったそうですよ?傷跡は負傷のあとだ。あんまりジロジロみちゃあ可哀想ってもんじゃないですか?他に何か御不審でも?」


一団を率いるとみられる王都によく出入りする商人が冷たい視線を向ける役人に揉み手で答える。


関所を取り締まるその役人は思案顔でじっとその商人と一団を見比べる。

商人はともかく連れの4人は風体が良いとは言えない。

4人が4人とも目つきも心なしか鋭く兵隊上がりというよりはまるで盗賊上がりといったほうが相応しかった。


それでも入国を拒否せず慎重に審査を続けているのはこの商人がダッケルト公爵のお墨付きの証書を手にしているからだった。

それに隣国と王都を行き交うこの商人は普段ならこんな怪しい客人など連れず真っ当な商売をしている男であった。


しかし役人はこの一団に何か感じるものがあった。

意を決し所々に傷の入ったとりわけ大きな体の男に声をかける。


「ふむ、確かに書類は揃っている。だがそこの者、少しだけ質問をさせて貰おうか」


声を掛けられた男はピクリとも動かず聞こえてないかのように表情も動かさない。

商人はため息を吐きながら呼ばれた男に懇願するようにその肩を叩く。


「……はあ、なあアンタ。頼むよ。アンタが答えないと通れないよ。粗相の無いようにな」


商人の懇願に大きな男は表情を崩すことなく立ち上がると役人の前に出る。

多くの通行人を審査してきたその役人は内心でたじろいだ。

大きい、といった以上に何やら威圧感のある男だった。

役人は仕事を果たすために尋問を始める。

今日は入国審査を厳しくしろとの国のお達しがあった。

魔軍がこの国に攻めてくる、との噂もある。

場合によってはここで彼らを切り捨てなければならない。


「……お前、名前は?」


「ライノ」


役人の質問に何の感情も籠らない声で大男は応える。

書類の名前とは合っている。

役人は質問を続けた。


「セタランナに来た目的は何だ?先ほど芸人と聞いたがたしかに商売人という顔ではないな」


「……ダッケルト公爵に呼ばれた」


男はまるで片言のように役人の質問に答える。

その態度に役人はますます不審の色を強める。

まるでこの国にもはや3家しかない公爵の名を隠れ蓑にこの場を切り抜けようとしているように感じた。


「答えになっていないな。お前の出身地はどこだ?国名ではなく街の名前とどのような所だったか答えよ」


役人の追求はますます強くなる。

商人を見ると頭を抱え青ざめているようであった。


「……サルターンのギバス。暑いところだ」


大男は南の国の小さな街の名を挙げた。

マイナーな街だが役人も行ったことがある。


「ギバスか。私も行ったことがある。あそこはホルドフィッシュの丸焼きが美味いな」


役人は柔和な笑みを浮かべ旅の思い出を語るように大男に問いかける。


「……ああ。よく食べた」


役人は机を叩いて立ち上がった。

彼の合図で槍を構えた兵士がぞろぞろと出てくる。


「ホルドフィッシュの丸焼きはガルドスの名産だ。ギバスには本当に何もない。貴様、何者だ?通すわけにはいかんな。別室に来て貰おうか。全員だ」


商人はがっくりと肩を落とし震えながらこの世の終わりのような顔をする。

残りの3人は目の前の兵士たちをまるで意に介さないかのようにただそこに佇んでいた。

その異様な反応に役人は恐怖を覚える。


「くそっ……!なんなんだお前ら?さあ引っ立てろ!」


役人が兵士たちに命令を下した時だった。

野太い男の声が役人の後ろから聞こえてきた。


「お勤めご苦労だな。関所の所長さんよ。何やら滞っておるようだな」


「ダッケルト公爵……⁈」


この者たちの書類を作成した人物だ。

つまりこの者たちに入国許可を与えた男。

長い髭を生やしたこの国の公爵、ダッケルトが高そうなスーツに身を包み役人の肩に手を置いた。

一団を拘束しようとしていた兵士たちの動きも止まる。


政治的には第一線にいるとは言えないがこの男の権力はまだまだ少しくらいの無茶を通すほど強いものがあった。


ダッケルトは笑みを作り役人を取りなすように話し始めた。


「この者たちはな、みな私の客人だ。一座を開いて芸人になるということでな。旅先で出会ったときに気に入ってね。出資するから今後の活動方針を練るために特別に我が家に招いたのだよ。お騒がせしたね」


「しかし、公爵……!」


納得できない役人は尚もダッケルトに食い下がる。

こいつらは、特にライノと名乗るあの男はどう考えても尋常ではなかった。


しかしダッケルトはそんな役人を嘲笑うかのように煙に巻くような説明を続ける。


「この者は戦で頭を打って以来ずっとこうなのだよ。記憶に齟齬があったとしてもそんなに追求しては可哀想ではないか。それとも君のルールでは障害を持つ者はこの街に入れないのかね?」


「……いえ」


内心で歯噛みしながら役人は漸く追求を諦める。

どうあってもこの男は一団を押し通すつもりだろう。


「それに私を信用できないかね?この者たちの身柄は私が保障する。では失礼するよ。これは君が仕事熱心だから起こったトラブルだ。問題にはせんよ。これからもお勤め頑張ってくれたまえ」


白い歯を見せると役人の視線を背に公爵は一団を引き連れ関を超えていった。

そうして芸人と名乗る一団は公爵とともにセタランナの街に入国した。


……役人たちは後に語る。

後日起こる惨劇を予想出来ていれば身を張ってでも奴らを止めていただろう、と。

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