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第28話 会議はやはり踊る

予定より更新遅くなってごめんなさい。

「では今から格闘術の訓練を始めます。防具はしっかり付けましたね?危なくなったら止めますので安心してくださいね」


「はいっス!」


私はスポーツウェアの上にプロテクターをつけ拳にはバンテージを巻かれ準備運動を終える。

シューズの履き心地を確認して歩みを進め砂浜に居並ぶ人型のゴーレム達の前に立つ。目の前のこいつらは木でできているそうだ。

表面上は落ち着いていたがこういう格闘技の経験の無い私の内心はバクバクしていた。


「じゃあ先ずは一体目から相手してみましょう。パティ」


「うん、それじゃ今回のゴーレムは人間の弱点に準拠して作ってあるから。急所をつけばそれらしいダメージを与えられるよ。エイコちゃんがんばってね」


そうしてパティさんの合図でゴーレムの一体が私の前に歩み出てきた。それほど大きくはないサイズで私より頭一つ高いくらいだろうか。

パティさんの話によると初心者の訓練用に調整されたゴーレムなのでそんなに強く無い相手とのことだがそれでもやはり緊張する。


私は何処かでみたような見よう見まねの構えをつくり戦闘態勢に入る。

きっとへっぴり腰だったことだろう。


「では、はじめ!」


──うわわわわ!


パティさんの合図とともにゴーレムが私に向かって駆け出してきた。

私は取っ組み合いのケンカなんて小学生以来したことなんてない。

やはり恐ろしいものは恐ろしかった。


しかし強張る身体を奮い立たせるように私は一歩を踏み出しゴーレムの動きを観察する。


ゴーレムの左腕が動き私の顔目掛けて伸びてくる。

驚くべきことに私にはその動きがまるでスローモーションのように見えた。

そして誰に武術を習ったわけでもないのにプロのような滑らかな動きで頭を振っただけでその拳をかわすと伸びきった腕を両手で掴み投げを放った。一本背負いだ。


──ドシャアアア!


心地よい音を立ててゴーレムは砂浜にもんどり打って倒れこんだ。

私は投げの勢いに乗ってその倒れこんだゴーレムに向かい前転するように飛び込むと頭一個分ずれた所に飛び蹴りを放った。


「まずは……私の勝ちっすね?」


自分でも信じられないけど、自分で言うのもなんだけど、今のは達人級の動きだった。

どうなってるんだろう、これ。


3人の方を見ると全員が感心したように驚きと称賛の表情だった。


「すっご〜い!エイコちゃん!」


「やるじゃねえか……次はオレとやろうぜ!」


「まだ早いですよ、ココ。お見事です、エイコさん。次はゴーレムの数を増やしてみてもいいですか?」


やはりココさんは戦いとか喧嘩が好き系の人みたいだ。私の方をみて目をキラキラさせている。うう……そんなに期待しないで欲しいっス……


でもこの訓練用のゴーレム戦は今の感じだと全然余裕だった。

相手の動きはスローモーションのように見え次に自分の身体をどう動かせばいいのか予め分かっているようだった。

自分の身体なのにまるで別人になったような不思議な感覚だ。

調子に乗って私は今度は5体一遍に相手することにする。


「大丈夫かな〜?怪我しないでねエイコちゃん」


パティさんは心配そうにそう言ったがそれでも私は負ける気がしなかった。


やがて2戦目の準備が終わり位置に着き再び合図がかかると5体のゴーレムが私を取り囲むように身構えやがて距離を詰めてきた。


私は今度は向かってくるゴーレムの一体に狙いを定めると後ろ向きに跳びながら回し蹴りを放つ。ローリングそばっとってやつスかね?

私の蹴りはゴーレムの首筋に命中するとそのゴーレムは数メートルほど吹っ飛び転がりながら倒れこむ。

その間に出来た私の着地の隙を狙って前と後ろからゴーレムが突進してきた。

ゴーレムの動きをみた私は着地すると同時に地面に手を付いたままグルグルと回転蹴りを放ち前後のゴーレムの足元に食らわせる。

私の蹴りで足元を掬われたゴーレム2体はそのままバランスを崩して倒れこんできたので私は回転の勢いでスライディングして飛び上がりそのまま2体のゴーレムの喉元らしき部位に左右の踵を落とし込んでやる。

これで3体KOだ。


しかしそこで立ち上がろうとした私の肩をむんず、と掴み持ち上げる者がいた。

残ったゴーレムのうち1体が私を捕らえたのだった。


「うっわわわわわ……!」


そのゴーレムはそのまま私を頭の先まで持ち上げると地面に向けて投げつけた。


「このっ……!とおっ!」


私は身体を折りたたむようにして回転しそのまま砂浜に両足で着地する。ノーダメージだ。

そしてすぐさま私は投げつけられたゴーレムに向かって駆け出す。


「はあっ!えいっ!」


人体で言うと鳩尾、金的、喉元、鼻先に向けて魔力を込めたパンチとキックを放つとそのゴーレムの身体にそのまま穴が空きそいつは地面に倒れこむ。

自分の予想外の力に驚いているとまた、私の後ろに迫る影があった。

残った最後のゴーレムだ。


しかし私はゴーレムの首に素早く両手を回すと投げ飛ばし一緒に倒れこむと首筋を足でホールドする。

人間だったなら呼吸が止まっていただろう。

そうして最後のゴーレムも完全に動かなくなる。

私の勝ちだ。


……自分でも信じられない。

まるで少年◯ャンプのバトル漫画のヒロインにでもなったような気分だ。


「……すっごーい!10秒で全部やっつけちゃった!」


パティさんは手にした時計を見てぴょんと嬉しそうに飛び跳ね喜ぶ。


「流石です。これでこそ勇者ですね」


カタリナさんも満足そうに笑みを浮かべている。


「よっし。次はオレが相手してやるぜエイコォォ!」


そうして指が出るタイプのグローブを両手に嵌めるとココさんが砂浜に躍り出てきた。

本当に嬉しそうだ……


「ココ……怪我させたらダメですよ?」


呆れたようなため息をつきながらもカタリナさんは私の戦いをみて安心したのかココさんとの対戦を了承する。

ココさんは瞳を輝かせいい笑顔で私の目をじっと見つめてきた。


「わーってるって!いいな?エイコ?」


「……わかったっス。じゃあやるっスよ」


私も意を決し了承する。

組手形式とは言え人と戦うなんていつ以来だろう。

若干の躊躇はあったけどそれでも私からは当初の不安な気持ちは消えていて自然に相手を迎え撃つような構えをとっていた。











トバイケル帝国──

約800年前に英雄王グレドリー・トバイケルによって建国されたサィリス大陸の北東から中央に版図を築く大帝国である。

その歴史は長く幾つかの政変を経てルブジネット王朝という安定した王政を敷いていた。

30年前に起こった「エドワード・ルブジネット討伐」により現在は平民にも参加の機会がある民主議会制が開かれ一般民衆にも政治参加の機会が訪れたのだが、実際には力のある貴族が未だに権力を持ち政治を束ねている一面もあった。

とは言え30年前の政変の際にあまりに酷いことをしてきた貴族たちは革命者たちにより排除されたので昔よりはかなりマシではある。


さて、現在の皇帝ヘンリー・ルブジネットはエドワードが斃れてから3人目の皇帝である。

1人目と2人目は傀儡の座に嫌気がさしたのか田舎へと引っ込んでしまったので王家の遠い遠い縁戚であった彼にお鉢が回ってきた。

何しろ彼はルブジネットと名乗ってはいるが元来王家の血は相当薄い。

子爵家の出身で彼の系図を眺めて王の血にたどり着くには6世代ほど遡る必要もあった。

幼年期より即位し丁重に育てられた彼は真っ直ぐな性根であるのだが、早々に政治に参加することを諦め今は日々自分の好きなことをして過ごしている。

それは目の前の海千山千の怪物たちが政治を全て取り仕切っているからである。


今現在彼は無理やり会議に参加させられてたいそう不機嫌であった。発言の機会もなく、年若い彼にとってこの場は面白くもなんともない。


ヘンリー王が臨席する場合は彼の座る上座には御簾が下げられ彼が何をしていようと干渉しないという暗黙の了解までできていた。

今も彼は御簾の中でムグムグ、と美味しそうに出来立てのケーキを頬張り最高級のお茶で喉を潤す。

はっきり言って会議の内容はほぼ聞いていなかった。

しかし会議中の空気は険悪だということはわかる。

会議開始から1時間ほど経つ。ケーキを飲み込み息をつくと彼は少しだけ会議の内容に耳をそばだててみた。


「魔軍が我が国に迫っている、という情報源は何処からのものなのでしょうか?防衛を固めると言っても金がかかります。血税ですぞ。確かな根拠無しでは手は貸せませんな」


鷲鼻のリンデン・オールディー宰相が顔を顰めブライアン・バーゼルを睨んでいるようだった。

狷介で論理的な見方を好むリンデンと気まぐれで奔放なブライアンは仲がよろしくない。

いや、はっきり言って悪い。

両者の意見が衝突する事はこうした会議での恒例の行事のようなものであった。


「ですから何度も説明したでしょう。詳しくは明かせぬが信頼できる情報源であると。私を信頼できませんか?」


眉を顰めながらバーゼルは肩を竦める。

しかしリンデンは鼻を鳴らし椅子に座り直すと一口お茶を口にする。


「残念ながら私は貴方ほど頭の回転も物分りも良くありませんでな。感覚的にこういった重大事項を決定する気にはなれません」


両者の交差する視線に火花が散ったような気がした。


……まったく飽きもせず

おっさん同士の喧嘩など全然面白くもない見せ物だ。

ヘンリーは密かに御簾の内で欠伸をする。思ったとおり退屈だ。


「まあまあ、御二方。もう少し歩み寄りましょうや。この国の首脳がこんなに揉めてちゃ敵に足元を掬われちまいまさあ」


如才ない笑みを浮かべ場を宥めるのはロイド・ウッドホールだ。

民間の商家出身の彼は目上の者とは決して争わない。

そして自分から意見を出すことは滅多に無い。


「……そうですね。もう少し冷静に議論しましょうか。バーゼル殿にも何か事情があるのかも知れませんが情報源と物証がない以上いたずらに軍は動かせませんな。かと言って頑なに妥協案を見出そうとしない宰相殿の態度も頂けませんな」


議事の進行役であるネイサン・キャンベル秘書長官が嗜めるとリンデンから不快を露わにする呻きが小さく聞こえてきた。

公爵の位を持つ貴族でありながらリンデンは感情的になる所がある。気位が高いのだろう。


「……小賢しい方策なぞ必要なし。我がトバイケル軍は精強無比。もし魔軍が散発的に攻撃を仕掛けてきても私自ら前線に立ち打ち破って見せましょう」


物静かな男、メイナード・レッサー幕僚長が数分ぶりに重々しく口を開き御簾の方を鋭い目でチラリ、と見つめたのでヘンリーは口に含んだケーキでむせそうになる。

……本当に苦手な奴らばかりだ


咳き込みそうになるのを必死で堪えヘンリーはため息をつく。


「だから、そういう問題ではないのだ!これは!根性論で解決できる問題ではない!」


懸命に抗議するブライアンを尻目にヘンリーはそろそろ、と御簾を開け立ち上がる。


場が静まり返り全員が若き王を凝視するが構わずヘンリーは扉の方に向かって歩き出す。

……ふん、構うものか


「陛下、どちらへ?」


制止するように後ろからかけられた声に振り向くことなくヘンリーは一言だけ応える。


「よっくわかった。この場では何も結論が出ないことがな。今度は時間を掛けてまとまった案になってから余の元に持って参れ。熱が出たので退出するぞ。ではな!」


「陛下!」


呼び止める声が聞こえたがヘンリーは構わず扉を開けそして会議室を後にした。

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