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第25話 魔力の暴走

食事が終わりトレーニングの前に私のステータスを確認することになりウィンドウを開く。

3人もそれぞれウィンドウを開き私にそれを見せてくれるが確かに私の数値は他の人に比べて高い、と言えた。

そしてやはりというべきか3人ともが私のステータスを見て驚いていた。


「……やっぱりすごいですよ、エイコさん。こんな数値と評価値は見たことありません……」


「おお……確かにジョブが勇者だなあ!すげえぜエイコ!」


「勇者ちゃんマジ勇者ちゃんなんだね!あの高い階段を平気で飛び降りた時から私はただ者じゃないってわかってたよ〜」


3人が異口同音に歓声をあげる。

……そんなに期待されても困るなあ

戸惑いを見せる私にカタリナさんが話し始めた。


「『上の世界』では高い階段から飛び降りる、なんて真似しなかったんでしょう?」


「うん……そりゃあまあ……」


流石にこの年になってそんな子どもみたいなことはしない……

いや、したんすけどね


「貴女は無意識に強化された自分の身体に順応してきてるんですよ。だから貴女がパティと出会った時も高いところから飛び降りるなんて選択を平気で選択した。あの時パティに気をひく為に指向性の誘引魔術を貴女にかけてもいたんですけどね」


「……それは今聞いて驚いたっス……私1人誘拐するためにどんだけ準備してたんスか……?」


「んー……1ヶ月くらいの仕込みだったかな?ごめんね☆エイコちゃん」


パティさんが相変わらずテヘペロみたいな笑顔で誤魔化してくる。

やれやれ……悪気はなさそうなんスけどねえ……この人たち




トレーニングに入る前にカタリナさん達は普段着とは別の服を用意してくれた。

通気性も良く運動の邪魔にならないスポーツウェア風のトレーナーだ。

こんな孤島になんでもあるのはすごいなあと不思議に思って聞いてみたら、ここでは魔法を使った小規模な畜産や養蚕もやっているので衣食住の日用品には困らないそうな。

加工の方もカタリナさんとパティさんの魔法があれば問題がないと言っていた。

トレーニング用の動きやすいシューズまで用意してくれている。


「ふう……良かった。服を汚す心配はしなくていいっスね」


「ええ。服はいくらでもありますから思い切り暴れてください」


暴れるだなんて大げさだなあ……

その時はそう思ったんだけど後から思う。カタリナさんのその言葉は大げさじゃなかった。


「オレなんかは下着と素足だけで闘いたいけどなあ。服ってやつは闘う際に面倒だあ」


「……ココ、あなたはもう少し女の子らしい振る舞いを学んでください」


ココさんがなんだか常識外れなことをいってカタリナさんを呆れさせていた。

大丈夫かな、この子……

先輩の前で脱ぎ出さないでほしいな……



それぞれ着替え終わった私たちは彼女たちのキャンプ地や農場から歩いて数分離れたところまで移動する。

案内に沿って歩いていくと充分なスペースを持つ開けた草原が目に入る。

なんだか地面まで均してあるみたいだ。


「数日前にゴーレムでこの辺整備しといたんだ。もともと使ってなかった場所だしこの島には私たち以外に住人はいないから安心して魔力を使っていいよ」


パティさんが私の方を見ながらにっこりと微笑む。

用意周到だ……

どうしよう、すっごい期待されてる。

これで私の魔力とやらがショボかったらどうしよう。


そんな不安が顔に出ていたらしい。

カタリナさんが私の肩にそっと手を置き優しい言葉をかけてくれる。


「大丈夫ですよ、エイコさん。私たちはもう一緒に同じベッドで一夜を共にした仲じゃないですか。それにここに無理やり連れてきたのは私たちです。例えあなたが勇者じゃなくったって私たちはがっかりしたりしないし、もうあなたのことを大切に思っていますよ。だからリラックスしてください」


「……い、一夜って語弊があるっス……でも、ありがとう……」


そんな言葉をかけられて私は気恥ずかしくなり俯向く。


「じゃ、じゃあ……わたしがんばるっスから。まず何をすればいいっスか?」


「ではまずはあなたの内に流れる魔力を意識しましょうか。魔力というものは私たちの身体の内や自然界に存在しているエネルギーのことでこれをコントロールすることで色々な現象を意図して起こすことができます。魔素濃度が低い土地で暮らしていたストレンジャーにとって魔力を意識し行使するということは難しいとききましたので気長に学んでいきましょうね」


……魔力

漫画やアニメでは当たり前のように出てくるワード

本当にそんなもの私に扱えるんだろうか?


カタリナさんは優しく笑いかけ説明を続けてくれる。


「難しく考えなくていいですよ。ゆっくりとその感覚を覚えていきましょう。まずは目を閉じて深呼吸しましょうか」


私は言われた通りに目を瞑り深呼吸を始める。


……すぅ


数10秒くらいそうしていただろうか。

カタリナさんは目を閉じた私に次の指示を送る。


「ではあなたの身体を血液のようにエネルギーの塊が循環し流れているイメージを持ってください。それはそよ風のようなものでもあるし激しい熱のようなものでもあるし劈く冷気のようなものでもあります。形にとらわれずあなたの思うがままにイメージを広げてください」


私は目を瞑ったまま言われた通り意識する。


……自分の身体の中に流れるエネルギー


時間がどれくらい経っていたのかはわからない。

でも私はその時自分の身体の中にある何か・・を見た気がした。

それはさらさらとした清流のようであり熱く燃え上がる火炎のようでもあり……


「……さん。エイコさん!」


呼びかける声に私は目を開く。

3人が突風に煽られたように顔を顰め私の方に向かいながら何か叫んでいる。

向かい風の中を行くかのように3人の足取りは重く長い髪をもつ子のその髪は風に激しくたなびき乱れていた。

……まるで私から突風が吹いてるみたいっスね


「エイコさん!魔力の放出を抑えてください!流れる水を堰き止めるようなイメージを描いて……」


そこで私は初めて気づいた。

この突風の発生源は──


「うおぉ⁉︎これ!わたしから出てるんスか⁈」


よく見るとこの広場で小さな嵐のような現象を巻き起こしているのは私のようだった。

私の周囲数メートルだけは無風地帯となっていてそこから先はまるで嵐が舞っているよう。明らかに私がこの嵐の中心だった。

金色のエネルギーのようなものも嵐に沿って舞っている。

……いったいなにが


「落ち着いて魔力の放出を抑えてください!イメージは人それぞれですが蛇口をひねるように溢れ出るエネルギーを堰き止める意識をイメージしてください!」


「魔力切れで倒れちまうぞお!エイコ!」


「エイコちゃん!力を抜いて!」


嵐の中の3人がそれぞれ私に助言を送ってくる。


なんとかしないと……


焦る心を落ち着かせて私はアドバイスに沿って私の中の荒ぶるエネルギーを鎮めようと念じる。


「ふーー……ぬ……ググググ……」


「それ力んでるぞお!エイコ!」


「マジっスか⁉︎くっ……!いったいどうすれば……」


困った……

魔力の使い方なんてわからない……

手詰まりになった私は頭を抱える。


3人は一定のところからは私に近づくこともできないようで立ち止まって相談をしていた。


「なんて魔力量なの……⁈こんなことになるなんて……」


「魔力切れになっても気絶するだけですみますが……私が止めましょう。責任は私にあります」


「カタリナ……よっし頼んだぞ!」


カタリナさんが何か呪文を唱え嵐の中を突っ切るようにこちらに向かってきた。

青い魔力のオーラがカタリナさんの身体から立ち上っていた。


「カタリナさん……」


「魔力を纏えばこのように身体強化の魔法だけでなく普段は出来ないことだって出来るようになるんですよ。貴女にはとびっきりの才能があります。今確信しました」


そう言ってカタリナさんは金色の嵐を突っ切り私の元へやってきた。

そうして私の頭と肩を包むように抱きしめると優しく語りかける。


「ではもう一度目を瞑って……あなたが1番好きな花でも思い浮かべましょうか」


「……うん」


そうしてまた目を瞑る。

そのイメージは思考と言えるものではなかったのかもしれない。

……そう

魔力は理屈ではなく感覚でコントロールするものだったんすね。


目を開けるといつの間にか嵐は収まっていた。

暴走ってやつだろうか。

とんでもない現象を起こしてしまったけど、今魔力の一端というやつを垣間見た気がした。



──しかしそれにしても



「うわわわわわわ‼︎高い‼︎高いっスよ!カタリナさん!どうするっスか⁈」


魔力を抑えたのは良いけど私は私を抱きしめるカタリナさんと一緒に上空にいた。

どうやら自分の魔力で高く飛ばされたらしい。

下を見ると残った2人の表情は見えるくらいの距離だけど、これ怪我するんじゃないっスか?

私は今度は恐怖で目を閉じる。


「大丈夫ですよ。パティがなんとかしてくれます」


カタリナさんがそう言うとそんな気がしてくるけどでもどうするんだろう?


そんな事を思っているうちにもどんどん地面は近づいてくる。

衝撃を覚悟したその時ふわりと私の身体を何かが包み落下感が止まった。


「……うーーん」


「目を開けてください。エイコさん。無事着地しましたよ」


目を開けると私たちは何だか白い膜のようなものの中にいた。

やがてパカリ、と膜の一方が開くと先ほど立っていた草原の光景が広がる。

どうやら私たちは本当に不時着したらしい。


「……ふう、びっくりしたよ〜〜。間に合ってよかった。ゴムゴムくんありがとうね☆」


私が白い膜と思っていたものはパティさんのゴーレムらしかった。

特殊なゴムで出来ているから『ゴムゴムくん』というらしい。

白い塊のような身体を持ち顔らしき部分には目だけがある。

その柔らかい不定形の性質を使って私たちに怪我がないように受け止めてくれたそうだ。


「大丈夫かあ!エイコ!カタリナ!吹っ飛んでいったときはどうしようかと思ったぜ!」


ココさんも私たちの元へ駆けつけてくれる。

2人とも怪我はなかった。

しかし魔力というのは怖い。でも面白い。

戦いの道具としてだけではなくパティさんみたいに面白い使い方も出来るようだ。


「大丈夫ですか?エイコさん。魔力が暴走してしまったみたいですね。ごく稀にですが初めて魔力を使った者に起こることです」


カタリナさんが私の服の土を払いながらエーテルという水を渡してくれた。

魔力を回復させる効果があるらしい。


「びっくりしたっスけど大丈夫っス。頑張ってコントロールを覚えるっスから……」


それにしても体感してわかったけど人1人が持つには余りにも勇者という能力は大きい力だった。

こんな平凡な女子高生の私に与えるなんて女神ってやつは何を考えてるんだろうか。


「……ちょっと女神に会ったら文句言ってやりたいっスね」


聞こえないくらいの小声で私は呟いた。

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