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第22話 見通す目

久しぶりの投稿です。

しばらくは執筆の時間が取れそうです。


この時間、ニッポンノワールの繋ぎに読んでいただければ幸いです。

宵闇が街を覆うころ、俺たちはジェド本部へと急いでいた。

街の様相も昼間の喧騒から夜の静謐かつ薄い毒を含んだような独特のものへと変わりつつある。



瑛子が謎の女たちに誘拐されてから2、3時間。

奴らと戦っていた広間でいたところを見咎められた俺たちは衛兵の事情聴取や説明やらに時間を取られた。

何しろ使っていない部屋が荒れに荒れていたんだから職員も部屋の有り様をみて驚いていた。

博物館は「マレアの首飾り」を盗まれたということで大騒ぎになっていた。

時価数億という宝を盗まれ館長がぶっ倒れたそうだ。


まあそんなことはどうでもいい。

攫われた瑛子の捜索を衛兵にも頼んだんだが奴らはやはり首飾りの行方の方が気になるらしい。一応は話を聞く素振りをしていても口ぶりや身振りからわかる。

女たちの使った転移魔法の魔力の残骸から軌跡を辿ろうともしてみたらしいんだが、追跡防止の術式も組まれていたそうで巧妙にその軌跡も消されていた。


そんなわけで事情聴取も終わり何も追跡の手がかりが跡には残ってないと判断した俺たちはジェド本部へと向かっている。

そこにはストレンジャーの長であるバーゼルがいて頼めば瑛子の捜索にも人手を回してくれるだろうからだ。

ヤヨイさんとキャリーちゃんがそう提案してくれた。



暗くなり街灯が灯り始めた街並みを多くの人が行き交う。

聞こえてくる会話のだいたいは夕食や酒の話ばかりだ。


俺も昼間からいろいろあって疲れているはずだがそれほど疲労感は無い。

それより焦燥感のほうが強い。


──はやく瑛子を取り戻さないと



「草薙さん、怖い顔になってますよ。気持ちはわかりますけど落ち着いてください」


ふと糸井さんに宥めるような声をかけられた。

周りを見るとヤヨイさんもキャリーちゃんもフォンさんも気まずそうな顔をして沈痛な面持ちだ。

責任を感じてるのだろうか。

そう言えば先ほどから一言の会話もない。


「そんなに険しい顔してたか?俺」


「はい、気に入らないことがあれば今にも飛びかからんばかりには」


少し冗談を交えて糸井さんはそんなことを言った。


俺は彼女たちを責める気持ちは全く無い。

むしろ傷つきながら懸命に戦ってくれたことに感謝している。

全面的に悪いのは誘拐犯なのだから俯かないでほしい。


でも俺の表情のせいで彼女たちを俯かせてしまっていたのだとしたら申し訳ない。


「ああ、ごめんな。俺はあんた達に対してはちっとも怒ってなんかないんだぜ?むしろ感謝している。俯かないでほしい。俺が悪い雰囲気をつくっちまってたみたいだな。ごめんな」


「……いえ、ナツキさんは必ず取り返します」


「私もごめんなさい、私が気絶しちゃったから……」


「私も全然歯が立たなかったアル……」


3人ともが一様に頭を下げてくる。

……俺の態度のせいで悪いことしちまったな


「もう謝るのはやめてくれ。俺なんか棒立ちしてただけだ。それにそんなに心配してないんだ。楽観的かもしれないけどあいつらのあの言い方ならエイコはそんなに悪い待遇を受けてないはずだ」


場の雰囲気を変えようと思い、3人の顔を見渡しながらポジティブな推測を伝える。

そう、誘拐犯の言うことなんか全面的には信頼できないが恐らく瑛子はひどい目にはあっていないはずだ。


……そう思いたい







「もうすぐブライアンは参りますので暫くお待ち下さい」


俺たちはジェド本部に到着するとすぐに客間に案内されブライアン・バーゼルと面会できることになった。


そこは広い建物で案内者がいなければ迷いそうなくらい長い廊下だった。

この客間も落ち着いた作りではあるがお金がかかってそうだ。

ソファーも高そうな素材で座り心地がとてもいい。


10分ほども待たされるとお茶も飲み干してしまって手持ち無沙汰になる。


なにか話でもしようと思ったころ、糸井さんが俺に話を振ってきた。


「そういえば、草薙さんと瑛子さんって中学生のころに出会ったんですよね。学年も違うのに何がきっかけで仲良くなったんですか?」


俺の方をじっと見つめるその茶瞳が興味津々といった感じで聞いてくる。

……やれやれ


俺は茶菓子を齧りながら曖昧に応える。


「べつに……仲良くねえよ。そうだな……そんなに愉快な出会いじゃなかったぞ。あの出会い方で今も付きまとってくるあいつはやっぱりおかしい」


少し記憶を整理しながら二枚目の茶菓子を齧り始める。

うん、あの頃はまだ子どもだったなあ。何しろ中学生だ。


「え〜〜なんですかそれ?ますます気になります」


ますます興味を深めたのか糸井さんはさらに突っ込んでくる。


「……勘弁してくれよ〜、また気が向いたら話すからよ」


「いいじゃないですか、けちですね」


糸井さんがこの話を打ち切ろうとする俺に不満そうにむくれる。


──コンコンコン


そこへノックの音が聞こえてきた。

ヤヨイさんたちが「どうぞ」と応えると扉がゆっくりと開く。


がっしりとした体格の白髪の初老の男がしっかりとした足取りで客間に入室してきた。

それに続いて更に筋肉質の眼光の鋭い男が初老の男の後を歩く。


やがて初老の男は俺たちの対面に立つと人懐こそうな笑顔を浮かべストンとソファーに腰掛けた。


「こんばんは。私はブライアン・バーゼルという。よく来てくれたね。ある程度事情は聞いている。大変だったな。楽にしてくれ。少し話をしようか」


そう言って俺たちを見渡した。







「もう寝入ったか」


「はい、ココとパティも一緒に」


遠くに潮騒が聴こえる。

島の森では老人と碧髪の女の話に混じって虫の声だけが響く。


サイモンの話が終わってから動揺した瑛子は泣き始めた。

勇者という宿命は彼女に背負わせるには余りにも重い運命であった。

泣き出した瑛子はカタリナたちが宥めあやしながら先ほど寝入ったようだった。



「……本当に彼女は勇者なのでしょうか?私には……」


言いかけてカタリナは自身の口を噤む。

それ以上は口にしてはいけない。

彼女への侮辱となる。


サイモンはその心情を見透いたように薄く笑みを浮かべた。


「そう思うのも無理はない。先ほどの様子ではな。だが私にはわかるのだ。間違いない。彼女は三代目勇者だ」


サイモンはカタリナの目を見据え微笑みながらそう答える。

カタリナは問い詰めることを諦めたようにため息をついた。


「あなたがそう言うのなら間違いないのでしょう。……訓練は明日の朝からでいいですね?」


「ああ、お前に任せる。いや、お前たちに、か」


そう言って辺りの草木を見つめるサイモンにカタリナは問い掛ける。


「いったい、どれくらいまで未来さきが視えているのですか?あなたはあまりに語らなすぎます」


サイモンはその昔、魔王エドワードとの死闘が終わった後、女神により未来を予知する目とこの世で起きている出来事を見通す目を授かったという。

その詳細については義娘であるカタリナも彼からほとんど聞いたことはなかった。


「……そうか、それはすまんな。だが私に視えている未来は一つだけではないのだ。未来というものはいくつもの分岐がある。……ただ今は魔王が復活する破滅の未来を防がんとしている、それだけだ。希望ゆうしゃは我々の手の内に掴んだ。カタリナよ、後のことは頼んだぞ」


サイモンはカタリナの方を見返した。

そんな父を見てカタリナは諦めの表情でため息をついた。


「……身勝手な親を持つと子は苦労します」


それを聞いて笑うサイモンをカタリナは強く睨みつける。


サイモンは夜空を見上げた。

なにも無いこの孤島からは月も星空もはっきりとよく見える。


「子に恨まれんともその次の、そのまた次の世代のため、だ。悪く思うなよカタリナ」


見上げる空にユグドラル特有の美しい星々が瞬く。

人類の危機など知ったことではないとばかりに。













−−約30年前 ルルーブ歴751年8の月 王都ヴェトコン 儀礼の広間


三つ目の魔王と化したエドワード・ルブジネットが敵対者たちを見つめる。

戦士たちの大半は魔王の攻撃を受けある者は四肢の一部を欠損し、或いは血を失い意識を失っていた。


魔王エドワードは凶々しい笑みを浮かべる。


「ふん!他愛もない!余が少し撫でてやっただけでこのザマよ!さて、あとまともに戦えそうなのは龍殺しと裏切り者だけか?よし……」


魔王は傲然と言い放つと地面を蹴りその身体が一瞬にして彼方へと移動する。


「まずはサイモン!貴様じゃあ!何をこそこそしておる!うっとうしいぞ!」


たちまちのうちに距離を詰めると術式を展開していたサイモンに向かってその拳を振り下ろそうとした。


──ガシィィィン!


その刹那、魔王の攻撃を防ぐように地面から氷柱が突き出る。

その氷柱は鋼よりも硬く魔王の拳でも当たった部分に凹みがついただけであった。


「ちっ……!龍殺しめ!邪魔をするな!」


術式展開中のサイモンを守るべくミユキが発動した呪文の効果であった。


魔王は標的を変えミユキへと飛びかかる。


行動を予測していたミユキは待ち構えていた姿勢から技を繰り出した。


「氷の型……!氷花絶綾ひょうかぜつりょう!」


ミユキが袈裟斬りを振るうと魔力でできた氷が幾千もの刃の形となり魔王へと襲いかかる。

吹き荒れる刃の吹雪を魔王は負傷と再生を繰り返しながら突き進んだ。


「龍殺し!先ほどはしてやられたがこれが!こんなものが貴様の全力か⁉︎余の首には程遠いわ!身の程を知れい!」


凄絶な狂笑を浮かべながら魔王は氷刃の嵐の中を突き進み、ミユキとの距離を詰め全力の突きを繰り出した。


「喰らえい!目障りな英雄もどき・・・が!」


魔王の恐るべき拳がミユキに当たったかと思うとそのが粉々に砕け散る。


「ちぃっ!どこだ龍殺し!逃げるだけしか能がないのか?少し期待外れだぞ!」


砕けたのはミユキの作り出した身代わりの氷像であった。

魔王は煽るように叫ぶが返事はなくただ自身の声が部屋へと響くだけだった。


魔王エドワードは不意に反転すると己の首筋に迫る刃を掴む。

ミユキの不意打ちを察知し瞬時に反応したのだった。


「くっ!必殺のタイミングだったのにねえ、やるな!エドワード!」


ミユキが防がれた刀を引き戻そうとするが魔王の手元からはピクリとも動かない。

とんでもない膂力だ。


「くくく……!そうか余は古龍を倒した貴様ですら驚愕するほどに強くなっておるのか……!どれ、少し遊んでやろう!さあその剣でかかってこい!」


凄惨な笑みを浮かべた魔王はミユキの刀を手放す。

その瞬間ミユキの斬撃が次々とエドワードの身体を切り裂いた。


「なめんじゃないよ!狂王!その舐めた判断を後悔させてやる!」


──頚、手首、目、大腿、腹部


斬撃の嵐が魔王を襲った。

エドワードの急所という急所をミユキの「鬼龍」が切り裂くが断ち切ることは出来ず更に数拍ののちにその傷は自然に再生回復した。


手詰まりになるミユキを見て魔王は嗤う。


「くくくくくく……!フハハハハハハハハ‼︎もはや!この場に!いやこの世界に余を斃せるものなど居らぬ!さあもう用無しだ!くたばれ!龍殺し!」


魔王の拳が唸りをあげミユキに到達せんとした、その時だった。


──ガシィィ!


魔王の身体にタックルをかます2人の男がいた。


「ちっ!死に損ないめ!そのまま寝ておればいいものを!」


「魔王!死ぬのはお前だ!」


「この場でカタをつけてやる!エドワード!」


テツタロウとギンジロウの兄弟が負傷を押して渾身の力で魔王の身体を押し留める。

テツタロウの右腕は肘から先が無い。

その先にはただ止血の布だけが巻かれている。


「無理をするな!お前たち!子が親より先に死ぬなんて認めないよ!」


ミユキは渾身の力でその刃を魔王の右眼に突き立てた。


「グオオオオオオオ!うっとうしいぞお!お前ら!勝ち目など無いぞ!貴様らに!殺してやる!殺してやるぞお!」


凄絶な叫びが広間に木霊する。

しかし勇者の末裔たちは一歩も怯む様子を見せず魔王を押しとどめ続ける。


「そんなことは無いぞ!くらえ!」


「があっ!」


更に空から飛んできたかと思うと思い切りエドワードの顔面を殴りつける者があった。


「おのれぇっ!ブライアン・バーゼルか!どいつもこいつも!」


ブライアンの特殊甲冑は先ほど受けた魔王の攻撃により腹部が損傷しておりパワーダウンしていた。

しかし構わずブライアンは魔王にパンチをたたき込み続ける。


「うるせえっ!てめえは人を舐めすぎなんだよ!死んで生まれ変わってやり直してこい!このボケェ!」


「おのれ!この下郎がっ!黒き怒りは塊となって我が敵を押しつぶす!いけっ黒怒憤球フンボルト!」


その身にミユキの斬撃とブライアンの拳撃を受けながらも魔王エドワードは呪文を唱え魔力の凝縮した黒い球を作る。


「ぐっ!」


「うおっ!」


黒い球をかわすべくミユキは勢いよく横転し、ブライアンはテツタロウとギンジロウの2人を抱え避難する。


黒球は壁にぶち当たると轟音を響かせその部分に大きな穴を開けた。

その穴からは向こうの夜の景色が見える。


「もうこれ以上抵抗するな!貴様ら!死ぬのが先になるか後になるかだけなのだ!……フゴォ‼︎」


傲然と言い放つ魔王が急に吐血を始めた。

足取りも重く立っていることもままならずその膝を地につける。


かぶりをふり魔王は辺りを見回した。


「何が……!何が起きている⁉︎余の身体に……!くそっ……!魔族になった代償か?こんなときに……!」


膝をつき苦しそうな狂王にコツコツと石畳を進み歩みよる者がいた。


「いや、代償ではない。無様だな……!エドワード!なんて姿だ……!母上が見たらさぞ嘆くだろうな……」


サイモンが床に跪く狂王の赤黒い肌を冷たい眼差しで見つめる。


よく見ると広間の床全体が薄く神々しく光っていた。


狂王は憤怒の形相で声の方を見返した。


「サイモン……!きさま……!そうか、貴様の仕業か……⁉︎いったいなにをした⁉︎」


憤怒を持ってしても立ち上がれぬ身体を押して狂王はサイモンに怒号を発する。


冷ややかな目でサイモンはじっと己の腕と剣を見つめる。


「魔術には疎いので時間がかかっちまったよ。『光神魔滅陣こうじんまめつじん』だ。その昔、魔王を崇める狂信者の集団がお前のように魔族化したときに編み出された禁呪法。闇の属性を持つ者は身体機能を著しく損ない無力化する。それだけでは無い、魔族にとってはこの光は毒性を持つ。聞いたことはあるだろう?これで終わりだ、エドワード……お前はここで討たれる」


エドワードは目を見開き戦慄き拳を床に叩きつける。


「きさまっ……!その呪法は……!わかっているのかっ⁈きさまもしぬぞっ⁉︎そこまでして余を殺したいのかっ‼︎」


狂王の絶叫が部屋へと木霊する。


「そうだ。俺も死ぬ。だからお前も死ね、エドワード」

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