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第23話 俺たちは帰らない

「サイモン……生きていたのか……?調査の必要はあるな……」


「魔王の復活を狙う狂信者たちを逮捕する必要もあります」


バーゼルと傍らのハリーと名乗る男が真剣な表情で対応を練っている。


俺たちは博物館で襲われたときのことや誘拐犯たちが残したメッセージをバーゼルに伝えた。


バーゼルはとりわけサイモンという名前に反応していた。

後から聞いた話だがサイモンという男はその昔エドワード・ルブジネットを倒したときの仲間だそうだ。


「とりあえず襲撃に対する調査をしよう。もちろんナツキエイコさんの捜索にも力を入れる。しかし、その子が誘拐犯たちに勇者と断定されていたのが気になるな」


バーゼルが思案顔で肩をさする。

魔族というのは大昔に魔王が暴れた際にその瘴気に触れ、魔となる資質がある者が変質した破壊の化身という。

現在では30年前にバーゼルたちによって殲滅されたエドワード含む個体以来その姿は確認されていない。


バーゼルの隣に座りメモを取る体格のいい男はハリー・スペンサーと名乗っていた。ボディーガードだろうか。


今まで主にヤヨイさんたちが経緯を説明してくれていたが「エイコが勇者」という話題になったのでここで俺が口を開く。


「俺たちはこの世界に来てからすぐステータス画面というものを確認してみた。確かにエイコの『ジョブ』という項目には『勇者』と表示されていた。だが俺にはあいつがそんな大層なものになったとは思えないんだが」


俺はバーゼルとハリーと名乗る男の顔を見ながらステータスについての情報を伝える。

しかしそれを聞いた男たちは更に考え込み眉間の皺はますます深くなる。


ヤヨイさんもその情報に驚いたのかピクリと肩をふるわせ俺の方を一瞬見つめていた。

そう言えばこの子にその情報を伝えていなかったな。

……隠していてごめん

俺は済まないとばかりに表情で謝罪の意を伝えるがヤヨイさんは内心の動揺を隠すように少し会釈するとまた視線を元に戻した。


そう言えばこの子、誘拐犯たちに『勇者の末裔』だとか言われていたな。何か『勇者』について知っているのかもしれない。


「……いや、間違いという可能性ももちろんあるだろうが、我々もこの世界に来てストレンジャーたちのステータスのサンプルを何万何千と見てきた。その中には『勇者』というジョブを持った人間は1人もいなかったのだ。サイモンが生きていたのは驚きだがもし本人ならこのような嘘をつくとは思えん。本当にナツキエイコさんは勇者なのかもしれない」


ハリー・スペンサーがメモから顔を上げ説明してくれた。


……エイコが勇者だって?そもそも勇者ってなんなんだ?


戸惑う俺たちの心情を察したようにバーゼルは『勇者』について説明してくれる。


「この世界には確かな記録がある。ユグドラルを滅ぼそうとする魔王が現れる度に我々の居た元の世界から女神に選ばれた者が勇者としてこの世界に遣わされるのだ。魔王を倒す為にな。彼女は女神に選ばれた者なのかもしれんな」


……マジかよ


割と事態が大事になってきたようで焦燥感が増す。


「確かに俺たちは来たばかりの森でモンスターと戦った。主にエイコが戦ってくれたんだがせいぜいでかいモグラやトカゲを倒したぐらいだぜ?性格的にもあいつは英雄ってガラじゃねえよ」


俺は不安になり瑛子が勇者であることを否定する。

下手をすれば俺たちは魔族とやらの戦いに巻き込まれるかもしれないからだ。


「うむ……たしかに我々としても本人に会ってみないと詳しいことは分からない。しかし気になることがある。勇者がこの世界に現れたということは魔王の復活が近い、或いは復活する可能性があるということを意味しているのだ。この世界の女神はそうしてバランスをとっている」


よくわからないが、瑛子は魔王と戦う勇者に選ばれたってことか?

もっと適正ある奴が他にいるだろうに。


「すぐに捜索チームを編成します。ナツキエイコさん誘拐犯を追うチームと魔王の復活を狙う狂信者たちを調査するチームです。見つけ次第狂信者どもは叩いておきたいですね」


ハリーが書き連ねたメモを纏めてパシッと叩く。

魔王という単語に2人はかなり反応している。


「……魔王ってのはそんなにヤバイ奴なのか?」


「ヤバイ。文献によるとその昔、魔王によってユグドラルの人類の8割が殺されたと言われている。もはや在ってはならない生物だ」


それが本当ならとんでもない破壊生物だ。

そんなのますます瑛子じゃ相手は無理だろう?


「とりあえずそのナツキエイコさんを探し、数日後にあるという魔族の襲撃に備えよう。事前に網にかかればいいんだが」


バーゼルが俺と糸井さんの方を見て尋ねる。


「草薙くんと糸井さんと言ったな?君たちは希望すればすぐにでも帰れるが……友だちが戻るまでは帰るつもりがない。そんなツラをしてるな?」


そんなこと聞かれるまでもない。

俺たちは同時に応える。


「もちろんだ」


「はい、あの子を残しては帰れません」









−−約30年前 ルルーブ歴751年8の月 王都ヴェトコン 儀礼の広間


「グゥゥゥゥゥ!サァイモォォンゥゥゥゥゥ‼︎」


「うるさいだまれ。おとなしく死ね」


崩れかけた広間に狂王の怨嗟の雄叫びが木霊する。

石畳の床は淡く光り輝き魔を封じる。

術式により動けなくなった魔王は必死でその身を動かそうとするが幾ばくかも動かない。


もはや断末魔に等しいその足掻きを尻目にサイモンは剣を構える。



──ザシュッ!



赤黒い鮮血が飛び散りその首が再び胴より分かたれる。

ゴロリ、と狂王の首が床へと転げ落ちたその時だった。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎サイモン!嚙み殺してやる!」


怨嗟の雄叫びを上げ狂王の首が勢いよく飛び出しサイモンの左腕へと食らいつく。


「フンッ!無駄な事はやめておけエドワード!どうせ俺も死ぬのだ」


光神魔滅陣こうじんまめつじんは聖光気を女神から借りることにより発動する禁呪である。

魔族に対して非常に有効ではあるが術者は引き換えに女神に魂を取られることになる。


「グゥゥゥゥゥ!ガァァァァッ‼︎」


エドワードが渾身の力でサイモンの左腕を噛みちぎる。


「サイモン!大丈夫か⁉︎」


「このっ!往生際が悪いんだよ!」


バーゼルがサイモンに駆け寄り、ミユキは狂王を串刺しにした。

鬼龍は狂王の顔面を貫き床の石畳すら貫通する。


狂王はなおも足掻き、冷たい石畳に縫い付けられ呻きを発する。

もはやその姿には賢王であった頃の面影は欠片もない。


「ぐっ……!ぐぅ‼︎」


「もはやぐうの音しか出ないか、狂王。このまま魔力を流し込んで殺してやる!」


串刺しになった狂王の顔は狂暴なまでに歪み怒りの表情に満ち満ちていた。

ミユキが刀を握る手にぐっと力を入れようとする。


「いいえ、ミユキさん。もうその必要はありません。女神との契約により聖痕を刻まれた私の身体の一部を喰らったそいつは……」


サイモンはそう言って短く呪文を唱えた。


「もはや崩壊する運命だ。今度こそ終わりだ。エドワード。地獄で逢おうぜ」


そして魔王エドワードの首の内から聖なる光が漏れ出し亀裂が入り始めた。


──パキッパキッ……!


小さくガラスが割れるような音を立てて魔王の首の光の亀裂がみるみる増えていく。

空気が震えるように光の風が辺りを舞う。


「おのれっ……!謀反人ども……!よくも!よくもこのエドワード・ルブジネットをこのような目に……!おぼえておれ‼︎いつか……かならず……」


──シュゴォォォォォォォォ‼︎


呪詛を吐き散らしながら狂王は光の渦に包まれ完全に消滅した。

首から分かたれた胴の部分も焼け焦げたように塵となっている。


魔王エドワードは完全にこの世から消滅したのだった。


「……さらばだ。エドワード。あの世で浄化されろ」


そう呟いたサイモンの頬を伝う一筋の雫は涙だったのか。

それは誰も知る由はない。

第1章完です。

次話からは第2章となります。

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