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第20話 手厚い歓迎

「……おーい、起きろよ〜ちびっ娘〜〜」


「……もう少し寝かしといてあげてもいいんじゃない?」


「……でもスープが冷めてしまうし、どうしようかあ」


……うーんせっかく人が気持ちよく寝てるのになんかうるさいっス


しかし人の声の他になんか小動物の鳴き声に混じって美味しそうな匂いが……


そう言えばお腹も空いてきたっスねえ……そろそろ起きよっかあ



起きることにした私は薄く目を開ける。

夕焼けに照らされ緋色に広がる樹々に遠くに見えるはさらさらと流れる金色の小川……

樹々の間からは沈みかけた夕陽が見える。

私の身体の下には柔らかい藁のような葉が敷き詰められていた。


ふと見渡すと焚き火の周りで肉や魚を焼いたり鍋に入ったスープらしきものをかき回している女の子たちがいた。

……おいしそう


「……ってここはどこっすか⁉︎ふわあああああ⁉︎」


「あっ起きた」


私は思わず跳ね起きた。

……あれっ?私さっきまでセンパイたちと博物館にいなかったっスか?


「おーうおはようーエイコー!」


「おはようございます。ナツキエイコさん。ようこそアホムショの森へ」


「さあさあ、ごはんが出来てますよ。たーーんと召し上がれ♡」


私が起きたことに気づくと3人の女の子たちがなぜか歓迎モードで近づいてきた。

私は促されるままに食卓につく。

いつの間にかスープがなみなみと注がれたお椀を手にしていたので食欲に任せて私は手渡された木のスプーンでそれを食べる。


「マルク羊とフレスコーンのミルクスープだよ。私が作ったの。どう美味しい?」


「ふむふむ、うまいっス!」


白い髪のお人形さんみたいに可愛らしい女の子が得意そうに私にきいてきた。

濃厚なバターミルクの味にシンプルな黒胡椒らしきスパイスがよく効いている。美味しかったので素直にそう答えた。


「アルベサーモンとテイチョウはオレが捕まえたんだ。肉質はしっかり食えよ?戦士にはたんぱく質が必要だからな」


「……?ああ、ありがとうっス。しっかりといただくっス」


スープを飲み干し私は赤髪の女の子から串に刺さった肉と魚を手渡される。

肉質は濃厚な味わいで元の世界では味わえないような美味だった。


「ん〜〜うまいっス!」


「そうか!それは良かった!お前は本当にうまそうに食うなあ!ハハハハ!」


赤髪オレっ子の女の子は嬉しそうに笑う。

よく見ると頭に猫耳がついてて可愛い。あとで触らせてもらおっと。


……じゃなくて


「ここはどこっすかああ〜〜⁉︎」


思わず立ち上がり叫ぶ。

真っ先に確認すべきことだった。


−−−センパイたちはどこ?この子たちはだれ?ここはどこ?なんで私はこんなところにいるの?


なんとも不可解な今の状況を理解する為にいろいろと質問するべきだった。

私は卓から離れ混乱のままに喚く。


「まあ、落ち着けよエイコー。お前は結構アレだなあ、天然だなあ」


「あははっ!慌ててる!勇者ちゃんはかわいいなあ〜〜」


「がっつり食べてから自分の今の状況に気づくとはなかなかのものですね」


立ち上がり串を振り回しながら慌てる私を宥めるように碧髪の綺麗な顔立ちをしたお姉さんが私の肩にそっと手をかける。


「う、うるさいっス!ここは……ここはどこっスか⁈センパイたちは……連れとはぐれたみたいなんス!」


必死で問いかけるが女の子たちは織り込み済みといった様子で慌てる私に落ち着いた感じで語りかけた。


「まずは落ち着いてください。ナツキエイコさん。座って話しましょうか。あなたの全ての疑問にお答えします」


「デザートもありますからね。お茶を淹れましょうか?落ち着きますよ」


「戸惑うのも無理はねえよなあ〜〜済まんがオレたちの話をきいてくれ」


3人の懸命な様子に私は渋々再び食卓の席に着いた。といっても草原の地べたに藁を敷き詰めただけのものだけど。

白髪の女の子が鍋を入れ替えてお茶を淹れてくれるようだ。


「……まずは自己紹介から。私はカタリナ。精霊術師です。よろしくね」


きれいな碧髪を腰にまで伸ばした美人のお姉さんがまずは自己紹介してくれる。


「オレはココ!オセロット?の獣人らしいぜ?よろしくな!」


猫耳赤髪ショートの女の子が元気そうに挨拶してくれた。

褐色の肌につり目で勝ち気な印象を与える。この子も結構美人さんだ。


「私はパティ。ハーフエルフの魔術機巧師です。よろしくね♡」


最後に私より背の低いくらいの白髪の女の子がお茶の準備をしながら挨拶してくれる。


「……あれっ?あなたは博物館ではぐれた女の子じゃ……」


パティと名乗る女の子には見覚えがあった。

博物館で私が手を引いてあげた女の子だ。でもたしかもう少し幼かったような……


「はい!あの時はお世話になりました。まああなたを連れ出す為のお芝居だったんですけどね。私、2、3歳くらいなら自分の年齢を操作できるんです。騙してごめんね?」


そう言ってペロッと舌をだす。

うーん……なんでそんな面倒な真似を……


私がますます訝しげにしていると出来たお茶をパティさんが木のコップに注いで手渡してくれた。


「本当にごめんね。友達とはぐれて、しかも見知らぬ土地に連れてこられて不安でしょう?でも私たちはこうするしかなかったの……」


パティさんはすまなさそうな表情で私の目を見る。

真剣そのものの眼差しだ。


「……やっぱり私、誘拐・・されてきたんスね……?理由を聞きたいっス」


誘拐されたとはいえこの子たちは何だか悪い人たちにも思えない。

仕方なく私がそう応じると3人が少し安心したように目を合わせカタリナさんが代わって話を始める。


「まずここはアホムショ諸島のひとつ……私たち以外棲む者のいない島です。私たちはこのユグドラルのにあなたたちの住む世界があることを知っていました。あなた、いえ、勇者「ナツキエイコ」が昨日やってくることも女神から知らされていました」


碧髪のカタリナさんは訥々と話し始める。

いつの間にか夕陽が完全に樹々の向こうに沈んで夜の帳が訪れ始めた。


「勇者が現れる、ということは強力な悪魔、若しくは魔王がこの世界に復活するということも表しています。つまりあなたにはいずれこの世界に現れる魔王を倒してもらわなければなりません。だから今日元の世界に帰ってもらうわけにはいきませんでした」


「ちょっ!ちょっと待つっスよ⁉︎私、そんな魔王と戦うような力持ってないっスよ⁉︎」


唐突な話に思わず叫んでしまう。

こんな何の特技もない平凡な私が魔王と戦うだなんて……

恐ろしすぎる‼︎

何を言ってるんだろう……この人たち……


しかしカタリナさんは頭を横に振り相手が落ち着くような笑みを浮かべ話を続ける。


「いいえ、あなたには勇者としての力があります。ここユグドラルに来るときに女神から授かったのです。ウィンドウの画面で確認したでしょう?あなたは勇者なんです」


ウィンドウ、と言われて思い出してみる。

うーん……確かに自分の「ジョブ」ってところに「勇者」って書いてあったけどいまいちピンとこない……

そんなの数あるジョブとかいうやつの1つだと思ってた……

いきなりそんなこと言われても困る……


「……やっぱりなんかの間違いじゃないっスか……?私がそんな魔王や悪魔と戦うなんて……」


「確かにいきなりそう言われても困るでしょうね。なので少しこの森で魔法と武術の練習をしたら女神に会いに行きましょう。それからあなたがどうするか判断してください。どうか私たちにあなたの時間を3日だけくださいませんか?」


そう言ってカタリナさんが頭を下げ、ココさんとパティさんもそれに続き深々と頭を下げた。


「すまん!エイコ!少しだけ付き合ってくれ!」


「本当に勝手なお願い言ってるのは分かるんだけど、ごめんなさい!」


こんなに真摯にお願いされたらもう仕方なかった。

私は軽くため息をつき決心した。

ここは孤島。どうせ今日中にはセンパイたちの元には帰れないだろう。


「……わかったっス。とりあえずは3日だけっスよ?」


私がそう答えると3人が顔を上げ明るい表情で肩を寄せ合って喜ぶ。


「ありがとう!ナツキさん!本当にごめんなさい!」


「いいヤツだなあ!エイコ!ありがとう!」


「やっぱり勇者って心が広いわね!ありがとう!」


こんなに喜ばれたら帰るって言いにくいじゃないっスか……


3日で帰れないんだろうなあ……

私はまたそっとため息をつく。

でも3人の笑顔を見てたら幸せな気分になったからまあいいか。



不意にカタリナさんがあさっての方向を向き驚いた表情で立ち上がる。

そしてそれに連動して何かに気づいた2人も彼女と似たようなリアクションをとった。


「父さん……?」


「親父ィ……?」


「パパ……?」


私も3人の見つめる方向を見ると何か人影が樹々をかき分けながらこちらにやってくる。

見ると白髪白髭の片腕のお爺さんがのそのそと歩いていた。

3人のお父さんということだろうか。

その歩いてきたお爺さんは私の数歩前で立ち止まると目を軽く閉じこう言った。


「色よい返事を貰えたようだな……感謝するぞ、勇者ナツキエイコよ。そして非礼を詫びる。どうかこの子たちを責めないでやってほしい。私の指示でやったことなのだ。君をここへ連れてくることは」


私は息を呑む。

なんだかこの人は纏っている雰囲気が違う。


「……あなたは……誰っスか?」

























−−約30年前 ルルーブ歴751年8の月 王都ヴェトコン 儀礼の広間



「さあ、今とどめをさしてやる。じゃあな、エドワード。昔は楽しかったな……」


サイモンは握った剣に魔力を込め狂王の首に向かって歩みを進める。

首だけになっても未だ意識があり話すことすらできる。

狂王の身体が魔の物へと変質しつつある証拠だった。

一刻も早く息の根を止めねばならない。


「おのれぇぇぇぇぇぇ‼︎サイモン!貴様ごときが余を倒せると思うなよ⁉︎まだだ!ナラーティア!なんとかせよナラーティア!」


最期の時に当たっても狂王は無様に足掻く。

頼みとするものの名を呼び助けを求めた。


「無駄だ、エドワード。向こうももう決着が着いたようだぜ。潔く死ね。じゃあな」


エドワードがまだ何かゴソゴソと恨み言のようなものを呟いている。

かまわずサイモンがその刃を振り下ろした瞬間、狂王の首が消え刃と床がガチャリとぶつかる音が聞こえた。

様子を見守っていたミユキが憤ってサイモンに怒鳴りつける。


「何やってんだい⁉︎はやく仕留めないか!」


「すみません、転移魔法の詠唱をしていたのか……!くそっどこへ行きやがった?」





「おのれ……!カスどもめ……!見ておれ!今、一泡吹かせてくれる……!」


狂王とナラーティアの首がひとところに集い怨嗟の言葉を発していた。広い儀式の間の隅の方なので戦士たちに見つかりにくい。

そのとどめをさされる寸前にナラーティアと狂王は苦し紛れの転移魔法により一時的に難を逃れたのだった。

偶然にも転移先の座標がほぼ一致し2つの首が向き合っていた。

2つの首が蠢く光景はとても不気味で悍ましいものであった。


「ナラーティア!貴様まで敗れたか!おのれ役立たずめ!」


エドワードの首が魔術師を罵るがナラーティアは妖しい笑みを浮かべる。


「陛下!ちょうど良いところに!最期に!最期に我の魂を捧げる!不完全でもよい!魔王よ!世界に禍いをもたらし魔を統べるものよ!この者エドワード・ルブジネットの身体を依代にこの世に顕現したまえ!」


「⁉︎貴様なにを言っておる⁉︎余自身・・が魔王となるだと⁉︎聞いておらぬぞ!」


黒の書による血の儀式を始めるに当たって狂王はナラーティアから「魔王に万の魂を捧げたエドワードがその主となる」とそういう説明を受けていた。

己自身が魔王となるなど夢にも思っていなかった。


「気づきませんでしたか、陛下?陛下の身体には特殊な呪印を密かに施しておりますので。それはもう気づかれぬよう時間をかけてコツコツと仕込ませていただきました。儀式が進むに連れてあなたの身体は魔族に近くなっていたことにもお気づきになりませんでしたな?滞りなく魔王降臨の儀はなりましょう。あなたの狂気・・には感謝しておりますよ!ではお達者で。狂王・・さま。アハハハハハハハハハハハハハハ‼︎」


「おのれぇぇぇぇぇぇ‼︎ナラーティアァァァァァァ‼︎」


狂王の怨嗟の声が虚しく響く。

やがてナラーティアの首は黒き光に包まれ灰となり次に狂王の首に変化が表れ始めた。

まずは黒い刻印が額にあらわれた。


「グウウウウウ……!グガアアアアアア‼︎」


皮膚が硬く変質し赤黒くなり額のあたりに目が表れる。

首の下からは龍のような身体が生え始めその身体を構築し始める。


「くそっ……!悪あがきを……!」


「取り逃がしたのは詰めが甘かったか……!」


6人の戦士たちが変質を続ける狂王の前に集い態勢を整えた頃にはもうその変化は終わろうとしていた。

見上げるほどに巨大なその姿は古文書にあった魔王・・に近い姿であった。


「ガアアアアアアアアアア‼︎」


変質した狂王は凄まじい咆哮を発し戦士たちを威嚇する。

4本足で立ち鱗のような身体を持つその姿はもはや人ではなかった。


「くそっ……なんてことだ……エドワード……こんなことになるなら会った瞬間にナラーティアを殺しておくべきだった……!」


剣を握りしめたサイモンが悲嘆とも憤怒ともとれる表情でナラーティアの灰らしきものを睨みつける。


「『たら・れば』は言っても仕方ないよ!これから何を為すか、だ。気合を入れ直しな!もう一踏ん張りだ!全力を尽くして魔王・・を倒すよ!」


ミユキが号令を発し6人が身構える。


魔王は戦士たちを見咎めるとその口から轟音と共に灼熱の火炎を吐き出した。

一斉に6人が回避行動をとる。


「いっくぜえええ!魔王‼︎全力全開で食らわせてやる!」


空へと回避したブライアンが魔王の死角から黄金のオーラを纏い回転しながら両腕のパンチをその身体へと食らわせた。


「グッギャアアアアアアア‼︎」


魔王の咆哮が広い儀式の間に響く。


「全力でブチ込め!お前らああああああ!端した魔力の欠片も残すな!相手は伝説の怪物のなりそこないだ!死ぬなよ!誰1人として!生きて帰ろうぜ!」


全員が戦闘態勢に入り、ある者は己の武器に魔力を込め、ある者は呪文の詠唱を始める。


──戦士たちと魔王との決戦は最終局面を迎えつつあった。

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