第19話 攫われた勇者
漸く執筆の時間が取れました。
久々の更新です。
室内に風切り音が響いたかと思うとヤヨイさんが後ずさるように飛び退く。
飛び退った後の床にはガツガツ、と金属音が鳴り響き爪痕のように抉られる。
ヤヨイさんは素早く逃げるがその後を高速の人影が追う。
採光の悪い室内で素早く動かれ何が起こっているかわからないがどうやらヤヨイさんが何者かに襲撃されているようだった。
「ヤヨイさん……⁈」
「うおお!大丈夫アルか?おい、ヤヨイさんに何するアル⁈」
鉤爪を装着した何者かがヤヨイさんを追い回す。
フォンさんは憤って立ち上がっていた。今にも飛びかかっていきそうな勢いだった。
「くっそ……武器を使えないのか……」
武器を預かっているキャリーちゃんは糸井さんの膝で気を失っている。取り出せるのもこの子だけだ。
この為にいきなりこの子を眠らせたのだろうか……
「大丈夫です。あなた方は自身の身を守ることに徹してください」
ヤヨイさんが敵の攻撃を躱しながらチラッと振り向き俺たちに再びそう言った。
「オラァッ‼︎よそ見してる余裕あんのかよォッ‼︎ボケェ!⁈うおっ‼︎」
人影が怒鳴りヤヨイさんに飛びかかった−−−
瞬間、ヤヨイさんの身体が後ろ向きに沈み込み代わりに襲撃者の身体が前転するように浮き上がるとその身が地面へと叩きつけられた。
どうやら襲撃者にヤヨイさんの巴投げが決まったらしい。
ヤヨイさんは回転した勢いのままストン、と立ち上がり投げつけた敵を確認する。
−−いない⁈
碧色の髪の女性がにっこりと微笑む。
「さすがやりますねえ。そうでなくっちゃ。ですがその子も強いですよ?油断なさらずに」
女が言い終わるや否やヤヨイさんが素早く横転するように飛び退った。
と、同時に先ほどまでヤヨイさんがいた辺りの床に襲撃者の蹴りが炸裂し木製の床が砕ける。
比較的採光のいい場所で漸く確認できたその襲撃者の姿は女性だった。
赤色の髪に褐色の肌、そして頭に小さな猫のような耳がついている。
「あいつ、獣人アル!猫科タイプの獣人は近接戦闘で無類の強さを誇るアル……!」
フォンさんが心配そうな顔で戦闘の経緯を見守る。
その女は快活そうな笑顔でヤヨイさんに鉤爪による攻撃と蹴りを次々と仕掛けてきた。
ヤヨイさんは滑らかな動きでその攻撃を全てかわしていく。
「ハハハハハハ!楽しいなあ!アンタやるじゃあねえか!聞いてた以上にやりやがる‼︎」
猫耳女は闘いが好き系の人なんだろうか?こんなのジャン◯だけの住人だと思ってたぜ。
しかし猫耳女は心底嬉しそうに鉤爪を振り回しヤヨイさんにピタリと貼りつくように追い縋る。
「わりいなあ!剣を持ったフルスペックのあんたとやりたかったが2人に止められたんだ。殺す気はないからもうちょっとこのオレとおどろうぜぇ?」
「……その鉤爪、毒か何か塗ってますね?あなた方は何者なのです?何が目的ですか?」
相手の攻撃を軽やかに躱しながらヤヨイさんは尋ねる。
こういう相手からまともな答えが返ってくるとは思えないが。
「ハハハハハハハハ!そいつはまだ言えねえなあ!でもなあ!オレたちは悪者じゃないんだぜ?それは信じてくれ⁈」
「いったいなにを……ナツキさんは何処ですか?あなた方が攫ったのですか?」
「……あ〜〜、ナツキちゃんな?攫ったって人聞きがわりいなあ?預かってるだけだぜ?あの子は。大事に扱ってるから心配すんなって……うわっ!」
女の言葉を聞いて逃げ回っていたヤヨイさんが反撃に転じた。
ヤヨイさんは猫耳の懐に一気に飛び込み攻撃で伸びきっていたその腕を掴むと猫耳女の身体を弧を描くように床へと叩きつけた。
−−−きれいな一本背負いだ
ヤヨイさんはそのまま女と一緒に床に倒れこむと女の身体を足で押さえ込み腕を掴んだまま腕ひしぎを極めた。
「い、イテテテテテ‼︎くっそ!やるなあ!ほんとやるなあ!アンタ!うれしいぜえ〜〜‼︎イデデデデデデ!」
こんな時まで猫耳女は嬉しそうに笑っていた。腕ひしぎが完全に極まってて苦しそうではあるが。
「ざっまあねえアル!私もヤヨイさんと組み手やってるといつの間にかああなるアル!よっしゃあ〜〜‼︎そんままやっちゃうアル!」
「……なんで誇らしそうなんだ……?」
フォンさんの余りのふんぞり返りぶりに思わず突っ込みを入れてしまう。
「やっぱりあなた方が……ナツキさんを返しなさい。折りますよ?」
ヤヨイさんが腕ひしぎの態勢のまま猫耳の女と碧髪の女を睨みつけプレッシャーをかける。
しかし碧髪の女は余裕の笑みを崩さずヤヨイさんと猫耳に語りかけた。
「流石ですねえ!それでこそ勇者の末裔というものです。ね、ココ?だから言ったでしょう?その子と戦うなんて無謀だって」
−−−勇者……?
「うっせえ!いてててて‼︎くっそおおおお!まだだ!まだオレはまけてねえからなあ!」
猫耳女は腕ひしぎを外そうと懸命にもがくが完全に極まったヤヨイさんのホールドはぴくりとも動かない。
「それではここまでにしましょうか。あなたの負けですよココ。やんちゃは終わりです。いい体験にはなったでしょう。はいおしまい!」
「おい!待て!まだだって……おい!」
碧髪の女が指をパチリと鳴らすとヤヨイさんにホールドを極められていた猫耳女の身体がズブズブと床へと沈んでいった。
一緒に引き込まれる前にヤヨイさんは腕ひしぎを外し飛び退る。
猫耳女が何か言いながらも床に完全に沈み込むと今度は同じ場所から何かが出てきた。
それは白髪の女の子と何か煉瓦のようなもので作られた人型の生物だった。
そしてその生物の背には−−−
「エイコ!」
「瑛子さん⁉︎」
思わず俺と糸井さんは叫ぶ。
どうやらすっかり熟睡してるらしい瑛子がそのロボットみたいな生物の背ですやすやと寝息を立てていた。
確かに怪我はなさそうだが……
やはりこいつらが瑛子を攫ったのか。
「おい、瑛子を返せ!人攫い!」
「ごめんなさい。それはできません。この子には大事な用がありますから。傷1つつけてませんのでその点はご安心を」
碧髪の女が慇懃無礼に頭をさげる。
「いったいなんなんだよ!俺たちはもう帰るんだよ!何の用があるってんだ⁉︎」
「いいえ、帰すわけにはいきません。この子には世界を救ってもらわないと。何しろこの子、ナツキエイコちゃんはユグドラルの希望、新たなる勇者なんですから。ねえ、そうでしょ?クサナギくん、イトイさん?」
なんで俺たちの名前まで知ってやがるんだ?瑛子が勇者ってことまで知ってやがる……
「我々の父はこの世界を見渡す目の持ち主でして……おっと!」
話の途中だったが女が話している隙を見てヤヨイさんが飛びかかった。
「ノームの精霊よ、我らを守りたまえ」
しかし白い髪の女の子が呪文を詠唱すると地面から石壁が現れヤヨイさんの進行を妨げる。
その隙に碧髪の女が何やら長い呪文の詠唱を始めた。
「清流の営みよ……我に理があり正義を為す者と思うならば助けたまえ」
碧髪の女が何か呪文を詠唱したかと思うとヤヨイさんの身体の周りに泡のような水が現れまとわりつき動きを止めたかと思うと水球となりヤヨイさんの全身をその中に完全に封じ込めた。
ヤヨイさんは水中でもがくが水の膜から外へは出られなかった。
「良かった……暴れないほうがいいですよ。あなたの能力は研究済みです。その結界は破れません。しかし安心してください。私たちが逃走した後ですぐにその結界は解きますから」
女が水の膜を懸命に叩くヤヨイさんに穏やかな笑みで話しかける。
「ヤヨイさんっ‼︎」
「ヤヨイさん!くっそ!ヤヨイさんを放すアル!」
もう堪りかねたという様子でフォンさんが矢のような勢いで駆け出した。
「いけっ!ゴーレム2号!3号!」
しかし白髪の女の子が手にした杖を振り回すと再び地面からロボットみたいな生物が現れフォンさんの攻撃をいなしてたちまちのうちに組み伏せてしまった。
「くっそぉ……!なんなんアルか!お前らは!」
フォンさんがゴーレム2体に床に組み伏せられ悔しそうに叫ぶ。
「ごめんなさい。でもこの子は私たちにとっても希望なんです。必ず数日内にはお返ししますから。どうか私たちを信じて待っててください」
碧髪の女と白髪の女の子は部屋奥の大きな窓を開きその窓枠に足を掛けた。
瑛子をその背に乗せたゴーレムも後に続く。
「ああ、最後に私たちの父サイモンからの伝言です。この街は2、3日中に魔族の襲撃を受けます。あなたがなんとかしてくださいね?ヤヨイさん」
「くっそ!まて!人攫い!返せ!」
勝手な事を言う奴らだ……
頭ではかなわないとわかっていたが俺は人攫い女たちに向かって全力で駆け出した。
「バーゼルさんにもお伝えください。『魔王の復活を狙う者が現れた』と。サイモンからの伝言と言えば彼にも分かります」
「あとこの首飾りもらってきまーす。ここの館長さんにごめんねって伝えといてくださいね♡」
白髪の女の子が悪戯っぽく笑い舌を出しながら赤い宝石が嵌められた首飾りを見せびらかす。
先ほどみた「マレアの首飾り」だ。
「ふざっっけんなぁーー!泥棒女!エイコを返せ!」
「ではごきげんよう」
「またね、クサナギくん♡」
俺は全力で走ったが全く追いつく暇もなく女たちはひらひらと軽く手を振り窓枠から外へと飛び降りた。
「おいっ⁈」
−−−−ここは3階だぞ⁉︎
しかし女たちがちょうど真下にあった貯水池に着水すると大きな水飛沫があがり青く淡い光が発生した。
すぐにその光は消えて女たちの姿もそこから消えていた。
「⁈何処へ消えやがった⁈」
女たちの姿が何処かに消えるとヤヨイさんを捕らえていた水球は弾けるように消失し、その床にただの水として飛び散ってヤヨイさんは拘束から解放された。
同時にフォンさんを拘束していたゴーレムもポンッと軽い音を立てて何処かへ消えていった。
「けほっ……!けほっ……!……くっ!」
「大丈夫か?ヤヨイさん!」
水を飲み込んでしまったのか流石のヤヨイさんも咳き込みながら床に手をつく。
俺は駆け寄ってその背を軽く叩いてやった。
フォンさんには糸井さんが駆け寄る。
「フォンさんも大丈夫ですか?」
「わ、私は大丈夫アル……くっそ……ごめんなさい……大変なことになったアル……」
ーーー瑛子が誘拐された
後に残された俺たちはただ喪失感と敗北感に打ちのめされるしかなかった。
◇
−−約30年前 ルルーブ歴751年8の月 王都ヴェトコン 儀礼の広間
ブロンドの髪を靡かせながら赤いドレスの妖艶な魔術師は魔力で作り出した黒い鎌をブンブンと振り回す。
5メートルほどもあるその大鎌を振り回す女の表情は狂喜の笑みに満ち溢れていた。
「アーハッハッハッハッハ!嬉しいぞ!こんなに美味そうな糧食が我の元に飛び込んでくるとは!陛下には感謝せねばなあ!」
魔術師の前に立つはハリー・スペンサー、テツタロウ、ギンジロウの精鋭3名。
ナラーティアは大鎌を振り回しながら3人の戦士に突進を繰り返す。
戦士たちは各々その攻撃を躱すが魔術師の動きは思いの外素早く、反撃には転じられない。
躱された大鎌の衝撃が石畳を砕いていく。
如何に熟練の戦士たちと言えどこの暴風のような猛攻には躱しながら機会を窺うしか術がなかった。
「ハハハハハハハ‼︎避けるだけか?愚か者ども!怖いか?我が⁉︎お前らは手足を切り裂いて暫く我のペットとしてくれるわ‼︎」
ナラーティアは更にその速度を上げ戦士たちを追い回していく。
その動きと膂力は女の容姿からは想像できるものではなかった。
まるで嵐のように大鎌の斬撃が吹き荒れ崩れた石畳の欠片が飛び交う。
「ナラーティアめ、速度倍加と膂力増強の魔術を自らに施しているな……厄介な」
「ハリー殿!一撃も食らうなよ?かするのもダメだ。あれを食らったらそこから腐り落ちていく!そういう呪毒がかけてある!呪文で回復も出来ないから気をつけろ!」
「⁉︎おっそろしいですね!くっそ……いっそ聞かないほうがよかった……」
攻撃を躱しながらテツタロウはハリーに注意を促す。
「フハハハハ!なにをコソコソ相談しておるか⁉︎さあ我の愉悦の糧となれ!伊達男ども‼︎」
ナラーティアは体力が尽きる様子もなく次々と3人に斬撃を繰り出していく。
その度に破壊音が轟き石畳に穴が開いていく。
足場が壊されれば壊されるほど空中を飛べるナラーティアに対して3人は不利になっていく。
そこでテツタロウは1つの決断を下した。
「……よし!ギン、あれを使え!俺とハリー殿がナラーティアに突っ込み足止めをする!いいな?ハリー殿!俺たちを信じてくれ!」
「……了解しました。私もお供しましょう」
テツタロウの決断にハリーは腹をくくる。
「わかりました……15、いや10秒ください。兄上、ハリー殿、ご武運を」
ギンジロウは頷き納刀すると両目を閉じ右手で空中に弧を描いて祈るような仕草で呪文を唱え始めた。
テツタロウとハリーは荒れ狂うナラーティアへと突進する。
「ハハハハハハハ‼︎きよったな!2人だけか?まあよい!まずは手足を削いでくれるわ!」
質量を鑑みるにこの大鎌の斬撃を2人の武器で受け止めることはできない。
まずはナラーティアの斬撃を躱すとテツタロウは胴へと、ハリーは首筋へとその斬撃を食らわせた。
魔術師の身体から赤黒い血が吹き出す。
「フハハハハ!いいぞ!伊達男ども‼︎この抵抗も食前の程よいスパイスとなるわ!」
しかしナラーティアはまるで痛みを感じないかのように再び大鎌を2人に向けて振りかざす。
「?バカな!頸動脈を斬りつけたつもりだが?」
ハリーは驚愕の表情を浮かべながらも後ろへと飛び退る。
「ハリー殿、もう奴を人間だとは思うな。あれは人の皮を被った魔物だ」
「……なるほど、納得いきました。ヤツは人間ではないのですね……」
ハリーが納得したような表情で、しかし冷や汗が石畳へと落ちる。
これまでの米軍の作戦任務より遥かに難敵だ−−−
「ヤツは俺たちに斬りつけられると同時に魔術で防御し、回復も瞬時に行っている。全力の魔力を込めた斬撃をガードされる前に食らわせるしかないな」
「なるほど……しかしどうやって……」
テツタロウとハリーの相談が終わらない内にナラーティアが再び突進してくる。
「フハハハハ!ちょこまかと!だがこれで終わりじゃ!捕まえろ!影鬼ども!」
ナラーティアの影が伸びたかと思うとハリーの足元に迫りそこから鬼のような腕が伸びハリーの足首を捕まえた。
ナラーティアの大鎌の斬撃が身動きの取れなくなったハリーへと迫る。
「……くそっ!」
「アーハッハッハッハッハ!まずはひとりぃぃーー!手首からもらってくれる!」
しかし大鎌の刃がハリーの右腕に達しようとする瞬間、その斬撃を遮るように金属音が鳴り響き同時に砕けるような音が響いた。
「グッ……!おおおッ!しねっ!ナラーティアァァ‼︎」
その折れた刃でナラーティアへと向かって放たれた斬撃は躱され空を切る。
テツタロウが自らの刃と右腕を犠牲にハリーを庇ったのだった。
「テツタロウさん!腕が!」
「フン!折り込み済みよ!……ふんっ‼︎」
そう言ってテツタロウは変色しかけている自らの右腕の肘から先を折れた刀で切断した。
「すまない……テツタロウさん……」
「すまない、なんていうなハリー殿!それより来るぞ!何処だ?ナラーティアァァァァ‼︎」
「ここじゃ‼︎愚か者ども!」
2人が声のする真上を見上げると無数の糸を背から放出したナラーティアが宙を浮いてテツタロウとハリーに迫っていた。
やがて無数の糸は2人の身体に絡まり彼らの動きを止めるとナラーティアは高速落下しながら2人の手足を大鎌で切り裂いた。
どう、と音を立ててテツタロウとハリーが地に伏せる。
大鎌を携えたナラーティアの狂ったような高笑いが室内に木霊する。
「フフフッ……!フハハハハハハハハハハハッ‼︎ざまあないのお!虫けらどもぉ!これがっ!こんなものが勇者の末裔か?あっけないものよのお!まあよいわ!じっくりといたぶってから生きたままくろおてくれる‼︎さて、あちらのもう1人も仕留めてくるかのお……」
ナラーティアが地に伏し呻く2人の戦士を確認しギンジロウの元に向かおうとした時だった。
魔術師の視界が歪み急な眩暈を覚えた……
と、同時に景色が反転し眼前に天井が迫ったかと思うと落下感を覚えやがて頭と顔面が硬い床にぶつかる衝撃を覚えた。
すぐさま立ち上がろうとするが手足が動かない。
−−−いや、手足どころか首から先の感覚がない
「う、うごかぬ!どういうことじゃ⁉︎我の身体は一体⁉︎」
戸惑うナラーティアの眼前にギンジロウ、そしてテツタロウとハリーの姿が現れる。
魔術師には理解し難いことにテツタロウとハリーの四肢は健在だった。
「きっきさまらっ⁉︎どういうことじゃっ⁈さきほどきさまらの四肢は裂いてくれたはずじゃっ‼︎」
戸惑い激昂したようにナラーティアは捲したてる。
「どうした?ナラーティア。なにかいい悪夢でもみたか?」
「たとえば俺たちの四肢を裂き完全勝利した夢、とかか?」
テツタロウとギンジロウが魔術師を見下ろすように問いかける。
ナラーティアが応戦しようと必死で立ち上がろうとするが一向に身体に力が入らない。
「立ち上がれないか?魔術師。当然だ。貴様の首はすでに俺が刎ねている」
はっとしたようにナラーティアは辺りを見回し横たわる己の胴体と動かない自分の首を見比べ理解する。
−−−魔術師はすでに敗れていた
「おのれっ!人間ごときがっ!悠久の時を生きるこの我をっ!こんな目にっ!なぜだっ⁈なぜ我は敗れたっ⁉︎」
ナラーティアは恐ろしい形相で兄弟戦士を睨みつける。
テツタロウとギンジロウが刀を構え直しナラーティアへと迫っていった。
「こちらとしても危なかった。ハリーの動きを止めた辺りまではおまえの本当の記憶だ。だがそこからお前はギンジロウの幻術に嵌った」
そうしてテツタロウはギンジロウの方を見やる。
そのギンジロウの瞳は不思議な銀色の輝きを放っていた。
「この『仙氣眼』のな」
首だけの姿でナラーティアは戦慄く。
「おのれ……!小僧……!そんなものまで使えたのか……!計算外だったわ‼︎」
−−−仙氣眼
魔術や体術に加え東方の「仙道」を修めた者だけが使えるという伝説の魔眼。
半ば伝説化したその奥義は現在では使える者などいないと言われている。
その瞳は見た者に自在に幻を見せ操ることさえできる、と言われる。
ギンジロウでさえこの魔眼はまだまだ使いこなせてはいない。
今回ギンジロウは「勝利のイメージ」を見せることで完全にナラーティアの意識を彼方へと持っていった。
最初から幻術を警戒されていればもっと長引いたであろう。
ナラーティアはそれほどの相手だった。
「……さあ、今終わらせてやる。大勢の人を弄んだ罪、もはや赦し難し」
「ナラーティア、殲滅せよ」
魔力を込められた兄弟の刀が淡く輝く。
地に伏せたナラーティアは魔の者のごとき形相で吠えた。
「おのれぇぇぇぇ‼︎勇者のまがい物ごときがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」




