6.分かれ目
ゴーンと重い鐘の音がかすかに聞こえる。
体が重い…
背中が痛い…
肩も痛い…
腕も痛い…
あれ?これだいぶまずい状態なのでは?
という考えに至ったと同時に意識がはっきりとし、目を開ける。
目に入ってきたのは、知らない天井。
ではなく、隣のベットで唸って横になっているソーンだった。
「アホなくせに中々いい面しやがって…むかつくわぁー」
と悪態をつく。
しかもコイツ家柄も良くて剣の天恵持ちなのだ。
天恵--それはこの世界において常人より遥かに突出した才能、体質のことを指す。
例えばある魔術がめちゃめちゃ得意で信じられない火力が出るとか、身体がべらぼうに強いとか、ソーンの場合は剣でその中でも速さに特化したものだ。そのため本当にどうでもいい才能や、めちゃめちゃ強い才能などひとえに天恵といってもピンからキリまである。
ちなみにソーンの剣の天恵はだいぶ強い方の天恵だ。
そう考えるとますます腹が立ってきた。なので顔の前に片手をだし、
「主食が芋虫の世界に転生した夢をコイツに見させて下さい」
一応呪いをかけておく。
こんぐらいの呪いならバチも当たらんだろう。
「あ、起きました?」
「うっっ!」
びっくりした。
恐る恐る振り向くとそこには白衣を着た白髪の女の子がいた。
保健室にこんな人居たっけ?
年齢を見るに俺と同じか少し上という感じだ。
「ど、どちら様で?」
「申し遅れました。私はゼルさんのお供のレレラ・スミスです。レレスとお呼び下さい。今はあなた達を見張るように言われております」
ゼルさん?
見張る?
よくわからないがなるほど。
とりあえず気絶していた俺たちの様子を見てくれていたということか。
では何故保健室の先生ではなくこの人がいるのか…
「えっと、他の人は?」
「?もう帰られたと思います」
「え?」
慌てて時間を確認する。
午後五時。
授業はとっくのとうに終わっている。
夢の中の鐘の音は最終下校のものだったのか。
戦ったのは、五限目の歴史の後だ。
つまり二時間以上気絶していたってことか!
「気絶にしてはちと長すぎやしませんかね?」
「気絶ですか?睡眠をかけられていたのではなくて?」
「すりーぷ?」
「はい。すりーぷ」
確かに気絶にしてはソーンの寝息がいい。
「うぅぅ…」
うなされているがまあ気絶ではない…?
ということは
「おい、起きろソーン。起きろ」
ソーンを揺さぶる。
「ん?んぁ? !!!嘘だろ!キースにお嫁さんができたのか!?嘘だろぉぉぉ!絶対キースにはお嫁さんなんてできないと思ってたのに!しかも美人!」
「なっっ!アホッッ!」
バチンッ
寝ぼけているソーンに一発ぶちかます。
「??????」
わけもわからないのか口をぱくぱくさせて何か言おうとしている。
「ここは夢じゃないぞ。それとこの人は先生のお供していて俺たちの様子を見てくれていた人だ」
「レレラ・スミスです。レレスとお呼び下さい」
レレスさんがソーンの様子を見てくすりと笑う。
「ソーンシス・ランドリです。以後お見知り置きを(?)」
慌ててソーン自己紹介をするが頭が回っていないようだ。
そのため俺に耳打ちしてくる。
「キース。全然よくわからない。俺今さっきまでミミズが主食の世界に転生してたんだよ!誰なんだこの別嬪さんは!とにかく短く簡潔に頼む!」
あれっ?ミミズが主食の世界?なんかちょっと違うが本当に呪いが効いたのか?
「俺もお前と同じで起きたばっかなんだよ。ただすまない、一応謝っておく。ごめんな」
「何言っているんだ?おいキース!お前俺に何をした!」
これからどうするべきかと悩んでいた時扉が開き、先生--
ゼル・エリアスが入ってきた。
「すまない。二人はもう起きているか?」
「はい。起きていますよ ってゼルさん!?どうしたんですか!?」
げっそりとした先生の姿にレレスさんが悲鳴をあげる。
「後始末をしていたんだ…大量の書類と先生方との会議…それとこいつらの家へ訪問をした」
その言葉にソーンが飛び起きる。
「大丈夫だったんですか!?」
ランドリ家は魔術名門の貴族の家だ。
貴族の子供をボコボコにしたとなってはただでは済まない。
軽くて左遷。重くて教職員免許の剥奪ぐらいならされかねない。
「ん?ああ。ランドリ家のことか。こっ酷いことを言われたが最後には許してもらえたよ。それに教職は人手が足りていないからそう簡単には左遷されないから大丈夫だ。減給はされたがな」
嘘だろという顔をしてソーンが固まる。
「そんなに不思議か?ちょっと魔術を見せたら許してくれたぞ」
あぁ。そういうことか。
魔術名門でも先生のような人はそういない。
ソーンがそんな人の生徒なら向こうとしては嬉しい限りな訳だ。
それでも減給で済むなんて何をしたんだこの人は…
「レレス。こいつらを見張っていてくれてありがとう。万が一こいつらに逃げられて色々言われてたら面倒だったからな」
と言って椅子に腰掛ける。
コイツそれで俺たちに睡眠をかけていたのか…
「ともあれ、先の戦いでお前達は負けた。また同じようにされてくなかったら今回の航海団試験は諦めることだ」
そうか。そういう話だった。
俺たちは先生に届かなかった。
だが…
「先生がこれから俺たちを止めようとすることに対しては何も言いませんが、俺たちは航海団に入ることを諦めるという約束はしていません。なので…」
「これからは先生に邪魔されながらも頑張っていきます」
「…そうか。諦めないか…」
「はい。諦めません」
諦めないという言葉を聞きき、先生が真剣な顔から呆れたような顔になる。
「なら私が何を言っても変わらんな。お前達の邪魔はしないよ」
「えっっ!いいんですか?」
「ただ、一つだけ条件がある。これをお前達の親御さんに認めてもらうのが一番大変だったが、結果的には認めてもらった。だからこれはお前達が、決めろ」
「条件とは…?」
どんな鬼畜な要求をされるのか…
「俺がお前達を海で死なないぐらい強く育ててやるからついてこい、というものだ」
「「え????」」
「私は正直今のお前達が海で生き残るのは厳しいと思っている。だが、先の戦いでお前達が強くなれるポテンシャルを感じた。お前達がどうせ海に出てしまうのなら強く、賢くした方がいいと思ったんだ」
なるほど。
そういうことか。
俺たちは強くならなけらばならない。
この人なら安心できる。
なら断る理由もない。
むしろ願ったり叶ったりだ。
「返事は?」
ソーンと目が合う。
コイツも覚悟が決まったようだ。
「「よろしくお願いします」」
こうして新しい日々が始まった。
こんにちは脱力鍋です。
六話目にして初めての女の子が登場しました。
そして更に次回からは強化編に入ります。
どうぞお楽しみに。




