5.発砲
「やっと動ける様になったか、キース。」
「あぁ。もう大丈夫だ。先生をやっと泣かせられる」
「そうか。じゃあいくぞッ」
覚悟を決め安全装置を外し、力強く銃を握る。
スライドを引き、初弾を撃てるようにする。
ソーンが先生に攻撃する。
攻撃を防がれ、ガキィィンと音を立てるたび、ソーンの体制が崩れていくが、
必死に喰らい付いている。
銃の照準を合わせる。
一発だ。一発、掠りでもすれば俺達の勝ちだ。
先生はそう約束した。
実戦では最も有効だが、致命傷にはならないところを狙う。
不思議と外すという不安は少しもなく、
自分でも驚くほどすんなりと引き金を引いた。
ドォン!
弾は照準通りソーンの体をすり抜け、先生の足目掛けて飛んで行った。
しかし…
「は???」
ソーン間抜けた声を出した。
それもそのはず、先生は撃たれた銃弾に反応し、ただの木刀でそれを弾いたのだ。
おかしい。
そう俺も思ったが、何故かそれほど驚いてはいなかった。
いや、先生はもしかしたら銃を防ぐかもしれないとあらかじめ感じていたためだ。
そのため直ぐに体が動き、先生との距離を詰める。
呆気に取られていたソーンの隙を埋めるため、
反動を抑えながら三発撃ち込む。
それも先生に防がれるが、ソーンを一度引かせられた。
「まさか本当に撃ってくるとは。少しお前をみくびってしまっていた。すまない。だがこれからどうするつもりだ?」
どうしたもんか。
距離を離して撃っても防がれる。
距離を詰めて撃っても防がれる。
バケモンか、この人は。
だが、弾を防いでいるのは全てあの木刀だ。
なら木刀を先生の手から弾けばいいのだが、正直木刀を先生から離すことはできる気がしない。
となると
木刀を間に入れない超至近距離からの発砲。
なんだこれ。本当に人と戦っているのかわからなくなる。
しかしそれしかない。
ならやるしかない。
「ソーン、もう超至近距離から撃つしかない。サポート頼めるか?」
「あぁ、まかせろ!」
ソーンの頼もしい言葉を信じ、照準を合わせる。
「作戦は決まったか?なら来い!」
「やってやんよ!」
第二ラウンドの始まりだ。
今回は先生の正面から正々堂々撃つ。
勿論その弾は防がれるが、その隙にソーンが一気に前に出る。
そのして俺は先生の死角になるよう、ソーンの真後ろに続く。
俺が死角に隠れるのを警戒してか、先生も距離をとりつつ右に動くが、
発砲し、それをできる限り阻止。
ならばと先生もこちらとの距離を詰めてきた。
先生とソーンの剣が交錯する。
先生の勢いも加算され、凄まじい衝撃になるはずだがソーンはそれに耐え、鍔迫り合いになった。
ここだ!今しかない!
そう思い、ソーンの影から抜け出し先生の左足との間僅か五センチのところまで銃口を持っていく。
腕に先生の左手で弾かれる衝撃がくるが、最後の力を振り絞り発砲する。
頼む!当たってくれ!
しかし、願望も虚しく先生の声が聞こえる。
「壁」
跳弾に気を遣ってか、角度のある障壁で防がれる。
まじかよ。木刀がなくても弾防げるのかよ…
クソッ。
「お前達…正直ここまでやれるとは思っていなかったんだがな…本当に。 衝撃…」
という声を最後に意識が途切れた。
―――――――――
キースとソーンから先生と呼ばれる男。
ゼル・エリアスは、葛藤していた。
キースとソーンシスが、自分の想像を上回ったからだ。
正直彼らの覚悟は甘過ぎるし、
普通なら航海団に入れるなんて言語道断の年齢だ。
そのため完膚なきまでに打ちのめし、強引にでも諦めさせるつもりだった。
教師が子供の夢を潰すのかと言われるかもしれないが、
大人が子供を見殺しにしていい理由にはならない。
しかし彼らは強かった。
ソーンシスの心の強さとキースへの信頼、剣技も目を見張るものがあり、
キースもソーンシスの隙を埋める戦略の巧さと人に引き金を引ける覚悟と自信と実力があった。
私は魔術や武術の成績だけを見ていた為、
彼らの能力を過小評価していたが、戦ってみると彼らの連携技に苦戦し、
そして最後には魔術を使わされた。
魔術を使ったということは、
少なくとも彼らが私と同じ土俵に立ったということだ。
私は魔術という半ばズルをしたが、結果としては一撃も入れられてないため彼らを止める権利はある。
そのためそれに対して彼らは文句を言わないだろう。
だが私が止めたとしても彼らは海に出ると感じさせられた。
なら私は何をすればいいか…
わかっている。
わかっているが、これが本当に正しいのか間違っているのかわからない。
さっきの戦いを思い出す。
私はキースに決断を迫った。
そしてキースはきちんと決断した。
それなのに私が決断に迷っていることに気付き自嘲する。
私もまだまだだな。
深呼吸をし、今回の騒動の後始末のための大量の書類の前で決断する。
彼らを海で生きていけるぐらい強く育てよう。
そうして先生は第三ラウンドを開始した。




