11.ゼル回想② 強き者たち
俺達が倉庫に忍び込んで二日半ほど経った。
狭い箱の中にずっといたため時間の感覚がずれていると思うが、船員の会話を察するに三日目の朝だろう。
そろそろ限界というのもあるが、
頃合いだ。
皆の前にバーンと現れようと静に移動する。
倉庫を出たら階段を使って甲板にでる。
皆朝食を食べているためこのフロアには誰もいない。
完璧。そう思っていたが…
ガチャ。「開かないぞ…?」
ガチャガチャ。「ほんとだ」
ふと思い返すと倉庫に誰かが入ってきたのは出航の日の点検の時だけだ。
倉庫と言っても魔石や戦利品を置く物置きみたいなところなので予備の食料なんてものはない。
そして俺達の持ってきた食料ももう尽きる。
ネルネスも同じことに気づく。
その瞬間、考えるよりも先に体が動いた――
ガチャガチャ、ドン!ドン!ドン!
「開けてくれぇー!!!」
「開けろぉー!!!」
武装済みの船員に見つかり、
縄で縛られ甲板に出される。
「なんでお前達がここにいるんだ?」
「俺達はあなた達の様になりたい。でも到底陸にいる期間では足りない。だから忍び込んだ」
「違う、そうじゃねぇ。ここがどこだか分かっているのか?ここは海だ。沈んだ船がどれくらいあるのか知らない訳もないだろう?」
「でもあなた達は沈まない。勝手に乗り込んだのは悪かったと思っている。でも降ろさないでくれ」
俺達はそう懇願する。
「駄目だ。俺達の船が沈まないなんて保証はない。ましてやお前達を守りながらな」
「足手まといにはならない。そうなるぐらいなら死ぬ覚悟だってできてる!」
「死ぬ覚悟だって?ガキがそんなこというな!おいジオン!一度港にもどるぞ!」
グラジスタが叫ぶ。
「グラジスタ、気持ちはわかる。だがそんなことしたら次の航海の燃料がなくなっちまうし、支援も降りずに孤児院の子供が飢え死にしてしまう」
「ならどうする。こんな危険な航海続けるのはリスクがありすぎる」
「せめて一つだけでも成果をあげよう。そうすれば国から費用が降りる。多少危険だがいざとなったら逃げればいい。それにこいつらも役に立てない訳じゃない。それはお前が一番わかっているだろ?」
「甘すぎるぞ、戻って孤児院の費用が降りなければ貴族の奴らをぶっ飛ばせばいい。それなら少なくとも子供は巻き込まれない」
「迫害じゃ済まなくなるぞ。それでいいのか?」
ジオンさんがグラジスタに対抗する。
俺たちにとってそれはありがたいが、
孤児院の子供達を巻き込んでしまったようだ。
本当に申し訳ないが、それでもここで降りたくない。
そう思っていた時、ネルネスが叫ぶ。
「おい!船が近づいてきてないか!?大量に人がいる!!」
ネルネスの天恵、視線感知によるものだ。
ネルネスは人の視線を感じることができる。
この能力により、ネルネスに不意打ちと遠距離射撃などはほぼ意味をなさない。
「なに!」
「船長!中型船三隻接近、距離二百ほど。海賊だ!」
船員のダグスが声を上げる。
「なに!?距離二百だと!!話は後だ、全員戦闘体制!お前達は船の中で待機、絶対動くなよ!」
「そんな!俺たちも戦えます!」
「そのためにここに来たんだ!」
せっかくここまで来たのに待機なんてできっこない。
少しでも役に立つということを証明する!
「駄目―」「グラジスタ。」
ジオンさんが諌める。
「やらせてみようぜ?」
グラジスタは俺たちのことを本当に心配してくれている。
ジオンさんは俺たちのことを信頼してくれている。
俺たちはグラジスタに信頼してもらいたい。
「やれます!」「できます!」
「………わかった。だが、今回は甲板で俺達の戦い方を見てもらう。いいか?これが最大の譲歩だ!」
「「ありがとうございます!」」
今回は戦えないが仕方がない。
「船長、話は着きましたか?」
「あぁ!」
「わかりました。皆さん展開します!」
魔術師のリナさんがフードから顔をだし、
杖を掲げた。
「流氷展開!」
リナさんから出た白い煙が海を覆う。
ザブンッという音を立てて物凄い数の氷が海に召喚される。
続けて二発目、
「濃霧展開!」
海賊の船に霧をかける。
凄い…
魔術というのは距離があるほど魔力を凝縮しにくいため発動が難しい。
しかしリナさんはこの距離で中級二発を難なく発動させた。
その技術と魔力量に驚かされる。
「今です!」
リナさんが叫ぶとグラジスタ、ジオン、ダグス、ディズの前衛が船を降り、
流氷を足場にしてものすごい速度で駆け出した。
濃霧のお陰で遠距離攻撃されることなく150、100、50と船にどんどん迫っていく。
海賊達が一度距離を取ろうと旋回するが、流氷により阻まれる。
そして戦う他ないことに気づいたようだがもう遅い。
ジオンさん達は空中を飛び、それぞれ違う海賊船の甲板に着地し、魔術を放つ。
「「「風炎柱」」」
三隻の船から炎の柱が立ち上る。
前衛の人が放った魔術なため魔術師程の威力は出ないが、船を燃やすには十分な火力だ。
濃霧と炎による死角を利用して海賊達をどんどん殲滅していく。
時々訳もわからずサブマシンガンなどぶっ放してくる相手にも、
回避や障壁などを使い対処する。
船から降りて逃げ出す者には後衛の魔術師達の集中砲火で殲滅していく。
「グラジスタ!いけるか!?」
上空で剣を構えているグラジスタにジオンさんが声をかける。
「あぁ!いくぜ!」
その掛け声と共にグラジスタがジオンさんのいる真ん中の船に急降下し、
床を薙ぐ。
「超衝撃!!」
ドゴォォォンという音と共に凄まじい衝撃波がやってくる。
「ぐっっ!!」
船の端にしがみつき衝撃に耐える。
しばらくして衝撃波が収まり、海賊船の方を見てみるとほぼ全壊だった。
「ジオンさんは!?」
目を凝らして崩れている船を見てみるが、
ジオンさんどころかグラジスタも消えていた。
「二人ともいない…?」
その時後ろから声がする。
「終わったぁー」
そこには何故かさっきまで海賊船の上にいたはずの四人がいた。
「なっ!!なんで!?さっきまであっちにいたはずでは!?それに海賊達はあのままでいいんですか!?」
ネルネスも唖然としている。
わからないことだらけだ。
「細かいことはいいんだよ。それにあいつらはどうせビビって海賊辞めるだろうからな」
そう言って剣をしまう。
「だがこれで港には戻れなくなったな!戻っちまったら海賊達が王都で何やり出すかわからねぇ」
だからと話を続ける。
「もうすぎたことは仕方ない。お前らこれからよろしくな」
この時はまだ知らない。
海がどれほど恐ろしく、死が訪れるのは一瞬だということに…
どうも脱力鍋です。
前に回想はあと一話で終わると言いましたが、書いてみると思ったより楽しく文字が多くなってしまったのでもう少しかかりそうです。
あくまで構想なのでこの通りにいくとは書いてみないとわかりませんが、次話は第七航海団の深掘りと、クライマックスについて書こうと思っています。
是非お楽しみにしていてください。




