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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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88/101

88話

 地下貯水池の罠を突破し、古代遺跡のさらに奥深くへと進む俺たち。

 薄暗い通路を抜けると、巨大な『最後の防衛門』へと続く大空間に出た。そこには、数十人の教団員たちと、見上げるほど巨大な金属製の『古代の防衛ゴーレム』が立ち塞がっていた。


「ヒャハハハ! よくここまで来たな職人! だが、貴様の快進撃もここまでだ!」

 教団の幹部が、巨大なゴーレムの背後に隠れながら叫ぶ。


「この古代ゴーレムは、遺跡の『メイン魔力炉』から床のレールを通じて、無限にエネルギーを供給されている! 貴様のその鉄の棒(レンチ)で叩こうが、傷一つ絶対につかない無敵の守護者だ!」


 幹部の言葉通り、ゴーレムの足元には太い金属の給電用ケーブルのようなものが二本、遺跡の奥から真っ直ぐに伸びて接続されていた。

 ゴーレムが両腕を掲げると、その巨大な砲口から圧倒的な熱量を持った魔力の光が収束し始める。


『ニャ! ミツトメ、あいつヤバい魔力を溜めてるニャ! 我の炎でレールごと吹き飛ばすか!?』

『ピロロロッ! 物理的な装甲が厚すぎます。私の雷撃も弾かれる可能性が高いです!』


「待て、シロ、クロ。手出し無用だ」

 俺は特大パイプレンチを肩に担いだまま、ニヤリと笑って一歩前に出た。


「無限のエネルギーだかなんだか知らないが……『有線式(ケーブル接続)』で動いてるってことは、必ず魔力の『プラス』と『マイナス』の極があるってことだ」


 俺の言葉に、教団の幹部が怪訝(けげん)な顔をする。

「何を訳の分からぬことを……! ゴーレムよ、奴らを(ちり)一つ残さず焼き尽くせ!」


 ゴーレムの砲口が眩く輝き、発射のカウントダウンが始まる。

 その瞬間、俺はインベントリから武器やで買った退魔用の『銀の剣』を取り出し、全力で身体強化を発動した。


「無限のエネルギーってのはな、制御を間違えれば自滅する『爆弾』と同じなんだよ!」


 俺は渾身の力で、銀の剣を、ゴーレムの足元に敷かれた『二本の給電レール』を(また)ぐようにして思い切り投げつけた。


 ガキンッ!!


 銀の剣が、プラスのレールとマイナスのレールに同時に接触した。その瞬間。


 バチバチバチバチッ!! ドガァァァァァァァァンッ!!!


 目を開けていられないほどの強烈な閃光と、空気を震わせる爆音。

 レールの間に恐ろしい量の火花(アーク)(ほとばし)り、銀の剣が一瞬でドロドロに溶け落ちる。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 パニックになる教団員たちの目の前で、ゴーレムの砲口の光がプツンと消え、巨体がガクンと膝をついて完全に沈黙した。さらに、大空間を照らしていた遺跡の照明までが全て一斉にブラックアウトする。


 俺は真っ暗になった空間で、魔力ランプを点灯させながら鼻で笑った。


「『短絡(ショート)』だよ」


「しょ、しょーと……!?」

「プラスとマイナスを、抵抗(負荷)なしで直接繋ぐと、一瞬で無限に近い魔力が流れる。そうなれば、遺跡の大元の安全装置(メインブレーカー)が『過電流』を検知して、システム全体を強制シャットダウンする仕組みになってるはずだ」


 どんな高度な古代文明だろうと、魔力を扱うインフラである以上、火災を防ぐためのブレーカー(安全回路)は絶対にある。それを逆手に取り、意図的に大ショートを引き起こして遺跡全体の電源を落としてやったのだ。


「無敵のゴーレムも、コンセントを引っこ抜かれりゃただの鉄くずだぜ」


「ひぃぃぃっ……! ば、化け物だ! 古代の無敵の兵器を、ただの棒一本で……!」

 暗闇の中で恐れをなした教団員たちは、武器を放り出して、最後の防衛門の奥――教祖が待つ祭壇の部屋へと泣き叫びながら逃げ込んでいった。


「さてと。大元のブレーカーが落ちたってことは、あの奥の分厚い扉の自動ロックも解除されてるはずだ。いつでもカチ込めるぞ」


 だが、俺はすぐに追いかけることはせず、静まり返った大空間の片隅にカセットコンロではなく『七輪(しちりん)』と炭を展開した。


「教祖との最終決戦の前に、ガツンと気合を入れるぞ。カロリーと塩分の限界突破だ」


 インベントリから取り出したのは、分厚く切り分けた『豚バラ肉』の特大ブロックだ。

 これを太い鉄串に豪快に刺し、炭火の上に乗せる。


 ジジジジッ……ジュワァァァァッ!!


 豚バラの強烈な脂が炭に落ち、濛々(もうもう)たる煙と共に暴力的なまでの香ばしい匂いが立ち昇る。

 肉がこんがりと焼けるのを待つ間に、俺は『特製ダレ』の準備に取り掛かった。


 ボウルに、みじん切りにした大量の長ネギ、おろしニンニク、ごま油、塩、粗挽き黒コショウ、そしてレモン汁をたっぷりと絞り込んで混ぜ合わせる。

「完成だ。決戦前のスタミナ飯、特製『ネギ塩豚バラ串』だ!」


 焼き上がって脂が弾けている熱々の豚バラ串の上に、この冷たいネギ塩ダレを親の仇のように山盛りに乗せる。


『ニャアアアッ! 脂の匂いと、ごま油とニンニクの匂いが混ざって、理性が吹き飛ぶニャ!』

 クロがたまらず、串ごと豚バラに噛み付く。

『ニャムッ! ……ッッ!? ざくっ、ジュワァァァァッ! 豚の脂がめちゃくちゃ甘いのに、ネギ塩の強烈な塩気とレモンの酸味がそれを完璧に中和して……無限に食えるニャァァ!』


『ピロロロッ! 炭火で焼かれた香ばしさと、ネギのシャキシャキ感が最高のアクセントになっています! 決戦前に必要な闘争心が、胃袋から直接湧き上がってきますね!』


 俺も、ネギ塩をたっぷりと乗せた分厚い豚バラを串から引きちぎるように頬張った。

「……っっっ!! うんまァァァッ!!」


 噛んだ瞬間に弾け飛ぶ熱々の豚の脂。それをネギの風味とニンニクのパンチ、そしてレモンの爽やかな酸味が全力で受け止める。

 すかさず、インベントリで氷点下ギリギリまで冷やしておいた『缶ビール』のプルタブを開け、一気に喉へ流し込む。


「くぅぅぅっ……! ショートさせて電源を落とした後の、ネギ塩豚バラと冷えたビール! 悪魔的すぎるだろ!」


【ナビ:マスター。短絡(ショート)による敵メインシステムの強制停止、完璧な現場判断でした。現在、血中アルコールと塩分、闘争ホルモンの値が最高潮に達しています】


「ああ。準備運動はここまでだ」


 俺は空になったビールの缶を潰し、ネギ塩の香りの余韻を楽しみながら、特大パイプレンチを肩に担ぎ直した。

 無限動力のゴーレムを「現場の知恵」で鉄くずに変え、極上のスタミナ串でエネルギーを限界まで充填した四十代の設備屋は、いよいよ全ての元凶である教祖が待つ、最後の石扉へと歩みを進めるのだった。


【第88話:完】

 収穫: 遺跡の防衛システムの完全沈黙、最高のコンディション。

 知識更新: プラスとマイナスを直接繋ぐとショートする。どんなシステムにも必ずブレーカーはある。

 現在の気分: 豚バラの脂とネギ塩の組み合わせは、人類が生み出した最強の合法ドーピングだ。いざ、最終決戦。

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