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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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82/102

82話

「……またあいつら、くだらない小細工をしてるな」


 暖房システムを復旧させた翌日。北の都市『グラキエス』の広場で、またしても悲鳴が上がっていた。

 都市のあちこちにある公共の水汲み場や噴水から、突如として『赤黒く濁った水』が噴き出し始めたのだ。


「見なさい! これぞ終末の兆し! 大地が呪われ、血の涙を流しているのです!」


 広場の中央では、昨日逃げ出したはずの『暗黒の終末教団』のローブの男たちが、ここぞとばかりに声を張り上げていた。

「我々が祈りを込めた『終末の聖水』だけが、唯一安全な水です! さぁ、お布施と引き換えにこの清らかな水を……!」


 不安に駆られた市民たちが、教団の用意した水瓶に群がろうとしている。

 その光景を遠巻きに見ていた俺は、鼻で笑って足元の神様に視線を落とした。


「クロ、あの水、呪いか何かか?」

『ニャ? ただの鉄の(さび)と泥の匂いしかしないニャ。魔力なんて一滴も入ってないぞ』


「だろうな。大方、水道管のどこかを(いじ)ったんだろ」

 俺は教団の連中を無視して、都市の給水を一手に担っている高台の『巨大魔導給水塔』へと向かった。


 給水塔のポンプ室に入ると、案の定、誰もいないはずの施設内で配管のバルブが不自然に操作された形跡があった。


「ナビ、配管の図面を投影しろ」


【ナビ:了解しました。……現在、メインの浄水ルートのバルブが半分閉じられ、代わりに長年使われていなかった『旧配管』のバルブが全開にされています】


「やっぱりな。典型的な『赤水』の発生原因だ」


 水が長期間流れずに滞留している古い鉄管の中には、大量の赤錆やヘドロが溜まっている。教団の奴らは、夜の間にわざとその古い配管へ水を通すことで、管内に溜まっていた錆を一気に街中へ押し流したのだ。

『大地の血』でも『終末の呪い』でもない。ただの配管の錆である。


「まったく、設備の知識を悪用して詐欺を働くとは、設備屋の風上にも置けないクズどもだ」

 俺はインベントリから工具を取り出し、不正に開けられていた旧配管のバルブを固く閉め直し、メインルートを全開に戻した。


「よし、これで元栓は正常になった。だが、すでに街の配管網の中に赤水が回っちまってる。これを押し出さないと、いつまでも水は綺麗にならない」


 俺は街の構造を頭に思い描き、一番標高の低い場所にある排水溝へ向かった。

「こういう時は、管内の『フラッシング(押し流し洗浄)』に限る」


 末端にある消火栓のような放水バルブを全開にして、濁った水を猛烈な勢いで外へ吐き出させる。

 ゴォォォォォッ!! と赤黒い水が勢いよく排水溝へ流れ込み、数分もすると、少しずつ色が薄くなり……やがて、完全に透明で清らかな水へと変わった。


「よし、管内洗浄完了だ」


 街の水汲み場でも、透明な水が戻ったことに市民たちが歓声を上げていた。

「なんだ、水が綺麗になったぞ!」

「大地の血じゃなかったのか? 教団の奴ら、ただの配管トラブルを呪いだなんだと騒いでただけか!」


「チッ、またあの旅の職人か……! 撤収だ!」

 教団の連中はまたしても市民から冷ややかな目を向けられ、逃げるように路地裏へと消えていった。


「さて。綺麗な水が確保できたら、腹が減ってきたな」


 宿に戻った俺は、インベントリからお馴染みの『豚肩ロースの特大ブロック』を取り出し、分厚いステーキ状に豪快に切り分けた。


「寒い北の大地には、身体の芯から燃えるようなスタミナ飯だ」

 俺が作るのは、特製『厚切り豚肩ロースの絶品生姜焼き』だ。


 すりおろした大量の生姜とニンニク、醤油、酒、みりん、そして少しの砂糖を混ぜ合わせた『黄金のタレ』を用意する。

 熱したスキレットに豚の脂を敷き、小麦粉を薄くまぶした分厚い肩ロース肉を投入。


 ジュワァァァァァッ!!


 強火で表面をカリッと焼き上げ、豚の旨味を完全に閉じ込める。

 肉の両面に美味しそうな焼き色がついたところで、用意しておいた『黄金のタレ』を一気に流し込んだ。


 ジューゥゥゥゥッ!! ボワッ!!


 醤油が焦げる暴力的な香りと、生姜とニンニクの強烈な香りが爆発し、部屋中に充満する。タレがトロリと煮詰まり、分厚い肉にテリヤキのような美しい照りが出たところで火を止める。


「完成だ。山盛りの千切りキャベツと一緒に食え!」


『ニャアアアッ! 生姜と醤油の匂いだけで、白飯が食えそうだニャ!』

 クロがたまらず、分厚い肉に噛み付く。

『ニャムッ……! ザクッ、ジュワァァッ! 衣がタレを吸ってて味が濃いニャ! 噛むと中から豚の甘い肉汁が溢れてきて、生姜の辛味が完璧に油を中和してるニャァ!』


『ピロロロッ! 厚切りにしたことで、肉の噛み応えと満足感が桁違いです! この濃い味付けのタレがついたキャベツすらも、立派なごちそうに化けていますね!』


 俺も、生姜の効いた分厚い肉を白飯にワンバウンドさせてから大口で頬張った。

「……っっっ!! うんまァァァッ!」


 豚肩ロースの強烈な旨味と、タレのガツンとしたパンチ力。

 小麦粉をまぶして焼いたことで、肉の表面がタレをしっかりとキャッチしており、どこを食べても味がボヤけない。白飯が文字通り「秒」で消えていく。


「くぅぅっ……! 寒い日はやっぱり、生姜の効いた分厚い肉に限るぜ!」


【ナビ:マスター。フラッシングによる管内洗浄の迅速な判断、見事でした。生姜のジンゲロール成分により、体温の上昇と免疫力の向上も確認されています】


 水道管の錆という「見えない恐怖」を利用したカルトの陰謀を、物理的なフラッシングで一蹴し、極上の生姜焼きでスタミナを補給する。

 インフラと食卓の平和を守る四十代の設備屋の戦いは、まだまだ続くのだった。


【第82話:完】

 収穫: 管内洗浄の完了、市民の教団への不信感増大。

 知識更新: 赤水が出たら、末端の蛇口を開けて綺麗になるまで水を押し流す(フラッシング)のが基本。

 現在の気分: 生姜焼きのタレが染み込んだキャベツは、もはや肉と同じくらい美味い。キャベツは山盛りにするべきだ。

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― 新着の感想 ―
トンカツでキャベツお代わりしたら店に箱で注文された(爆)
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