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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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72/79

72話

 雨雲を呼び込み、小国群に水と活気を取り戻してから数週間。

 俺たちは、霧取りネットを設置したあの南部の村へと戻ってきていた。


 水が戻ったことで、徴兵に出ていた親たちがちらほらと帰還し、村は再建に向けて動き出していた。

 だが、戦争と飢餓の爪痕は深く、帰らぬ人となった親も多かった。結果として、この村には身寄りのない『孤児』が数多く残されてしまったのだ。


「……旅のお方。情けない話ですが、今のこの村には、親を失った子供たち全員の面倒を見るほどの余裕がありません……」

 長老が苦渋の決断としてそうこぼす通り、これがこの世界の厳しい現実だった。


 孤児だけを集めても、今の治安では、人買いや悪徳商人など「自分の都合のいいように子供を搾取する大人」の格好の餌食になるだけだ。

 彼らがこの理不尽な世界を生き抜くには、大人に頼らない『自衛の力』と『絶対的な安全地帯』が必要だった。


「……仕方ない。大陸一周の旅は、ここで一時中断だ」


 俺は南部の東側にある『廃村』に目をつけ、そこを完全に修繕して「子供たちだけの村」を立ち上げることにした。

 南部だけでなく、噂を聞きつけて中央や北部からも流れてきた孤児たちを迎え入れ、年長者には農作物の育て方と、村を自分たちで治めるための『自治のルール(安全管理規則)』を徹底的に叩き込んだ。


 だが、村の防衛力(セキュリティ)と彼らのレベル上げには、実戦経験が不可欠だ。

 幸いなことに、村のすぐ近くに魔物が湧く『野良ダンジョン』が発生していたため、俺はそこを子供たちの訓練施設(OJTの現場)として利用することにした。


 ある日のダンジョン探索中。

 薄暗い通路の奥から、一匹の巨大な『狼の魔物』が姿を現した。


「……ん? お前、もしかしてあの時の……」

 俺は、以前の旅の途中で出会い、飯を食わせて仲良くなった狼の魔物のことを思い出し、思わず歩み寄って声をかけた。


 だが。

「グルルルルッ!! ガァァァッ!」

 狼は俺の言葉に一切の反応を示さず、ただ殺意をむき出しにして喉元へ飛びかかってきた。

 ドンッ! と蹴り飛ばして絶命させたが、俺は少しだけ苦い顔になった。


『ニャ。ミツトメ、魔物ってのは基本ああいう獣だぞ。言葉が通じる奴の方が珍しいニャ』

「ああ……そうだな。俺も少し、この世界のファンタジーに甘えてたらしい。子供たちにも『魔物との現場での油断は死に直結する』って、しっかり教え直さないとな」


 そのダンジョンの下層でボスを倒した際、俺たちは極めて純度の高い『ゴーレムの(コア)』を手に入れた。


「よし、こいつを村の『守護神』にするぞ。ナビ、俺の考える最強の防犯システム(ゴーレム)の設計図を構築してくれ」


【ナビ:了解しました。マスターの魔力と、インベントリ内の高品質な石材・金属を融合させ、最適化された外装フレームを設計します。……しかし、通常のゴーレムの仕様では、動作が鈍重すぎて実戦訓練の相手には不向きです】


「わかってる。だから、中身(ソフトウェア)を徹底的にチューニングするんだ。魔力回路の伝導率を極限まで高めて、処理速度を『クロックアップ(オーバークロック)』させるぞ!」


 前世でPCの自作や、設備制御盤のプログラミングをかじっていた俺の知識と、ナビの超絶演算が火を吹く。

 鈍重な土塊(つちくれ)ではない。流線型の金属装甲を持ち、人間の武道家のごとき機敏な動きを可能にする超高性能魔導フレームだ。


 さらに、俺は神様二柱を振り返った。

「シロ、クロ。お前たちの力も少し貸してくれ」


 俺はゴーレムの核に、|隠しスキル《緊急時の防衛プログラム》として、シロの『雷霆』とクロの『深淵の劫火』の術式を組み込んだ。

 もちろん、村ごと吹き飛ばさないように、スタンガンや火炎放射器レベルに『出力調整(リミッター)』をかけてある。


起動(ブート)!!」


 ガシュゥゥゥンッ!!


 俺の目の前で、身の丈二メートルの流線型ゴーレムが、青いカメラアイを光らせて立ち上がった。

 その動きには、一切の無駄も遅延もない。シュバッ! と空気を切り裂くような高速の正拳突きを繰り出す姿は、もはや最新鋭の格闘ロボットだ。


「おおおっ……! すげぇ! 動く鉄の巨人だ!」

「かっこいい……っ!」

 子供たちが目を輝かせて歓声を上げる。


「今日からこいつが、お前たちの鬼教官であり、この村の絶対の守護神だ。悪い大人が来たら、こいつが容赦なく雷と炎で黒焦げにしてくれるから安心しろ」


 それから数週間。

 クロックアップ済みの超高性能ゴーレムを相手に、子供たちはダンジョンで泥まみれになりながら実戦訓練を積んだ。

 最初は逃げ回るだけだった彼らも、ゴーレムの容赦ない(しかし急所は必ず外す)攻撃を見切り、仲間と連携して戦う術を身につけ、みるみるうちに(たくま)しい『冒険者の卵』へと成長していった。


「よし、今日の訓練はここまで! 飯にするぞ!」


 俺の声に、泥だらけの子供たちが「やったぁぁっ!」と歓声を上げて広場に集まってくる。

 育ち盛りの子供たちには、何よりも『カロリー』と『塩分』、そして『愛情』が必要だ。


 俺は巨大な鉄板を用意し、ダンジョンで狩ったオーク肉と、村で採れた根菜を細かく刻んで炒め、そこに大量の白飯と卵をぶち込んだ。

 味付けは、醤油、ごま油、そしてガツンと利かせた『ニンニク』だ。

 巨大なコテで豪快にあおり、パラパラに仕上げた超特大の『スタミナ炒飯』を山のように盛り付ける。


 さらに、その横には俺の自慢の『ぬか床』から取り出した、程よい酸味のキュウリとカブのぬか漬けを大量に添えた。


「さぁ、食え! 筋肉をつけて、自分の身は自分で守れる大人になるんだぞ!」

「「「いただきまぁぁぁす!!」」」


 子供たちが、顔を油まみれにしながら炒飯を無我夢中で掻き込む。

「うんめぇぇっ! 肉の味が濃くて、飯が止まらない!」

「このしょっぱくて酸っぱい野菜(ぬか漬け)、最初は臭いと思ったけど、炒飯と一緒に食べるとすっごくサッパリして美味しい!」


 子供たちがぬか漬けの美味さに目覚めたのを見て、俺はニヤリと笑いながら冷たいお茶を啜った。

『ピロロロッ。素晴らしい成長速度です。肉体の強さだけでなく、味覚まで大人に近づいていますね』

『ニャハハ! 我の炎を宿したゴーレムに鍛えられてるんだ、弱いはずがないニャ!』


 孤児たちのために築いた、自立と防衛の拠点。

 クロックアップされたゴーレムが静かに村の周囲を警戒する中、四十代のおっさんは、未来の冒険者たちの逞しい食べっぷりに目を細め、満ち足りた夜風を感じるのだった。


【第72話:完】

 収穫: 孤児たちの防衛村設立、超高性能ゴーレムの錬成。

 知識更新: ゴーレムも制御回路ソフトウェアのチューニングとクロックアップで機敏になる。

 現在の気分: 子供たちがぬか漬けを喜んで食う姿を見ると、世話を焼いた甲斐があったと実感する。

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