72話
雨雲を呼び込み、小国群に水と活気を取り戻してから数週間。
俺たちは、霧取りネットを設置したあの南部の村へと戻ってきていた。
水が戻ったことで、徴兵に出ていた親たちがちらほらと帰還し、村は再建に向けて動き出していた。
だが、戦争と飢餓の爪痕は深く、帰らぬ人となった親も多かった。結果として、この村には身寄りのない『孤児』が数多く残されてしまったのだ。
「……旅のお方。情けない話ですが、今のこの村には、親を失った子供たち全員の面倒を見るほどの余裕がありません……」
長老が苦渋の決断としてそうこぼす通り、これがこの世界の厳しい現実だった。
孤児だけを集めても、今の治安では、人買いや悪徳商人など「自分の都合のいいように子供を搾取する大人」の格好の餌食になるだけだ。
彼らがこの理不尽な世界を生き抜くには、大人に頼らない『自衛の力』と『絶対的な安全地帯』が必要だった。
「……仕方ない。大陸一周の旅は、ここで一時中断だ」
俺は南部の東側にある『廃村』に目をつけ、そこを完全に修繕して「子供たちだけの村」を立ち上げることにした。
南部だけでなく、噂を聞きつけて中央や北部からも流れてきた孤児たちを迎え入れ、年長者には農作物の育て方と、村を自分たちで治めるための『自治のルール』を徹底的に叩き込んだ。
だが、村の防衛力と彼らのレベル上げには、実戦経験が不可欠だ。
幸いなことに、村のすぐ近くに魔物が湧く『野良ダンジョン』が発生していたため、俺はそこを子供たちの訓練施設として利用することにした。
ある日のダンジョン探索中。
薄暗い通路の奥から、一匹の巨大な『狼の魔物』が姿を現した。
「……ん? お前、もしかしてあの時の……」
俺は、以前の旅の途中で出会い、飯を食わせて仲良くなった狼の魔物のことを思い出し、思わず歩み寄って声をかけた。
だが。
「グルルルルッ!! ガァァァッ!」
狼は俺の言葉に一切の反応を示さず、ただ殺意をむき出しにして喉元へ飛びかかってきた。
ドンッ! と蹴り飛ばして絶命させたが、俺は少しだけ苦い顔になった。
『ニャ。ミツトメ、魔物ってのは基本ああいう獣だぞ。言葉が通じる奴の方が珍しいニャ』
「ああ……そうだな。俺も少し、この世界のファンタジーに甘えてたらしい。子供たちにも『魔物との現場での油断は死に直結する』って、しっかり教え直さないとな」
そのダンジョンの下層でボスを倒した際、俺たちは極めて純度の高い『ゴーレムの核』を手に入れた。
「よし、こいつを村の『守護神』にするぞ。ナビ、俺の考える最強の防犯システムの設計図を構築してくれ」
【ナビ:了解しました。マスターの魔力と、インベントリ内の高品質な石材・金属を融合させ、最適化された外装フレームを設計します。……しかし、通常のゴーレムの仕様では、動作が鈍重すぎて実戦訓練の相手には不向きです】
「わかってる。だから、中身を徹底的にチューニングするんだ。魔力回路の伝導率を極限まで高めて、処理速度を『クロックアップ』させるぞ!」
前世でPCの自作や、設備制御盤のプログラミングをかじっていた俺の知識と、ナビの超絶演算が火を吹く。
鈍重な土塊ではない。流線型の金属装甲を持ち、人間の武道家のごとき機敏な動きを可能にする超高性能魔導フレームだ。
さらに、俺は神様二柱を振り返った。
「シロ、クロ。お前たちの力も少し貸してくれ」
俺はゴーレムの核に、|隠しスキル《緊急時の防衛プログラム》として、シロの『雷霆』とクロの『深淵の劫火』の術式を組み込んだ。
もちろん、村ごと吹き飛ばさないように、スタンガンや火炎放射器レベルに『出力調整』をかけてある。
「起動!!」
ガシュゥゥゥンッ!!
俺の目の前で、身の丈二メートルの流線型ゴーレムが、青いカメラアイを光らせて立ち上がった。
その動きには、一切の無駄も遅延もない。シュバッ! と空気を切り裂くような高速の正拳突きを繰り出す姿は、もはや最新鋭の格闘ロボットだ。
「おおおっ……! すげぇ! 動く鉄の巨人だ!」
「かっこいい……っ!」
子供たちが目を輝かせて歓声を上げる。
「今日からこいつが、お前たちの鬼教官であり、この村の絶対の守護神だ。悪い大人が来たら、こいつが容赦なく雷と炎で黒焦げにしてくれるから安心しろ」
それから数週間。
クロックアップ済みの超高性能ゴーレムを相手に、子供たちはダンジョンで泥まみれになりながら実戦訓練を積んだ。
最初は逃げ回るだけだった彼らも、ゴーレムの容赦ない(しかし急所は必ず外す)攻撃を見切り、仲間と連携して戦う術を身につけ、みるみるうちに逞しい『冒険者の卵』へと成長していった。
「よし、今日の訓練はここまで! 飯にするぞ!」
俺の声に、泥だらけの子供たちが「やったぁぁっ!」と歓声を上げて広場に集まってくる。
育ち盛りの子供たちには、何よりも『カロリー』と『塩分』、そして『愛情』が必要だ。
俺は巨大な鉄板を用意し、ダンジョンで狩ったオーク肉と、村で採れた根菜を細かく刻んで炒め、そこに大量の白飯と卵をぶち込んだ。
味付けは、醤油、ごま油、そしてガツンと利かせた『ニンニク』だ。
巨大なコテで豪快に煽り、パラパラに仕上げた超特大の『スタミナ炒飯』を山のように盛り付ける。
さらに、その横には俺の自慢の『ぬか床』から取り出した、程よい酸味のキュウリとカブのぬか漬けを大量に添えた。
「さぁ、食え! 筋肉をつけて、自分の身は自分で守れる大人になるんだぞ!」
「「「いただきまぁぁぁす!!」」」
子供たちが、顔を油まみれにしながら炒飯を無我夢中で掻き込む。
「うんめぇぇっ! 肉の味が濃くて、飯が止まらない!」
「このしょっぱくて酸っぱい野菜、最初は臭いと思ったけど、炒飯と一緒に食べるとすっごくサッパリして美味しい!」
子供たちがぬか漬けの美味さに目覚めたのを見て、俺はニヤリと笑いながら冷たいお茶を啜った。
『ピロロロッ。素晴らしい成長速度です。肉体の強さだけでなく、味覚まで大人に近づいていますね』
『ニャハハ! 我の炎を宿したゴーレムに鍛えられてるんだ、弱いはずがないニャ!』
孤児たちのために築いた、自立と防衛の拠点。
クロックアップされたゴーレムが静かに村の周囲を警戒する中、四十代のおっさんは、未来の冒険者たちの逞しい食べっぷりに目を細め、満ち足りた夜風を感じるのだった。
【第72話:完】
収穫: 孤児たちの防衛村設立、超高性能ゴーレムの錬成。
知識更新: ゴーレムも制御回路のチューニングとクロックアップで機敏になる。
現在の気分: 子供たちがぬか漬けを喜んで食う姿を見ると、世話を焼いた甲斐があったと実感する。




