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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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50/53

50話

 大陸最大の商業地、交易都市ファルサス。

 滞在も長くなり、俺たちはバザールのかなり奥深く、マニアックな輸入品を扱うエリアに足を運んでいた。


「親父さん、あの壺に入ってる『黒い塩水』……在庫ごと全部もらうよ」

「えっ!? お客さん、本当に買うのかい!? 申し訳ねぇが、串焼き屋の主人が味の研究とかで少し買っていったから、前より少なくなったがいいかい?」


 召喚魔法に頼らずとも、この異世界に俺の愛する『醤油』が存在している。その事実を確認できていたからこそ、俺はあの焼き鳥屋の親父に、醤油をベースにした『タレ』を気兼ねなく教えることができたというわけだ。しかも、もう醤油にたどり着いてるとは、嗅覚が侮れない。犬獣人だけに。


「あるだけ全部だと、その店の主人が困るだろうから、半分いただくよ。たぶん、これからこの調味料の一大ブームが巻き起こるはずだから、仕入れルートを確立しておいた方がいいぞ。」

「ないない。こんだけ売れなかったんだから。なんなら、全部買ってほしいもんだ」


 あの時の暴力的なたれと煙の匂いを知り、この短時間で醤油にたどり着いた情熱はきっと、タレにたどり着く。あの香ばしい匂いが、店からの排気により外に漏れ出て行きかう人の食欲に訴える。そして繁盛する店をまねる人が出て、違う味で勝負する。すると、、、この街の食を変える。楽しみだ。



 俺は買い取った大量の醤油壺を、インベントリの保冷空間へ大切に収納した。これで召喚魔法の魔石を節約しつつ、いつでも気兼ねなく美味い和食が作れるというわけだ。


 ホクホク顔でバザールを後にし、宿への帰り道を歩いていると――。


【ナビ:マスター。先ほどから、背後に複数の熱源反応を感知しています。殺気はありませんが、明らかにマスターを監視、追跡している動きです】


 脳内に響くナビの索敵アラートに、俺は軽く目を細めた。


『マスター、いかがなさいますか? 私の雷霆らいてい牽制けんせいしましょうか?』

 シロが俺の左肩で、純白の羽にパチパチと高圧電流を帯電させながら微かな声で報告してくる。


『ニャ。屋根の上にも一人いるニャ。どうするミツトメ、我の闇の炎で黒焦げの灰にしてやるか?』

 クロも右肩の上で三本の尻尾を揺らし、臨戦態勢に入る。


「よせよせ、街中で騒ぎを起こすな」

 俺はため息をつき、路地裏の角を曲がって足を止めた。


「……薄々気づいてはいたが、やっぱり目立ちすぎたか」


 手押しポンプ(ガチャポン)の開発指導、大衆居酒屋の換気ダクト修理、そして大商人の冷凍倉庫の修復。

 元・設備管理者の血が騒ぐままに、行く先々で完璧なメンテナンスを披露してしまったせいで、俺はどうやらこの街の有力者やギルドから『正体不明の超凄腕・魔法技師』として見張られるようになってしまったらしい。


 このまま街に留まれば、間違いなく権力者の屋敷に呼び出され、街のインフラ整備の責任者にでも任命されてしまう。スローライフ崩壊の危機である。


「そろそろ、この街ともお別れだな。クロ、シロ。今すぐズラかるぞ」

 俺はインベントリからバザールで買った『認識阻害(にんしきそがい)のローブ』を取り出して深く被り、ナビのレーダー案内で追跡者たちの目を鮮やかに()いて、その日のうちに交易都市の城門をこっそりと抜け出した。


 街から遠く離れた街道の小高い丘の上。

 夕日に染まる交易都市ファルサスの巨大な街並みを見下ろしながら、俺は羊皮紙の地図を広げた。


「さて、と。追っ手は完全に振り切ったな」

『まったく、マスターの設備屋としての性が招いた自業自得ですよ』

『フハハ! 逃亡の旅もまた一興ニャ! で、次はどこへ向かうのだ?』




 俺は腕を組んで考え込んだ。

 日本の味覚(和食)が存在するかもしれない遠い島国。前世の日本人としては猛烈に()かれるものがある。だが、俺たちはまだこの広大な大陸の半分も旅しきれていないのだ。


「まぁ、焦ることはないか。遠い島国は『今後の旅の楽しみ』として取っておこう」


 俺は地図の上を指でなぞった。

「俺たちはこの大陸の中央から、西の海までやってきた。遠い島国へ行くのはまだ先の話だが、今度はこの大陸を『西側から南に下り、そのまま東へ向かう』……つまり、逆時計回りのルートで移動しようと思う」


 まだ見ぬ南部の気候、そして東部の未開の地。

 そこにはきっと、未知の食材と、俺の設備管理魂をくすぐるような厄介な現場が待っているはずだ。


「よし、次の街が楽しみになってきたぞ。行くぞ、お前ら!」

『承知いたしました。どこまでもマスターのお供をいたします!』

『美味い飯がある方向へ進むニャ! 肉でも魚でもドンと来いニャ!』


 おっさんと二柱の神様の気ままな旅は、大陸南部という新たなステージへ向けて、再び力強く歩み始めたのだった。


【第50話:完】

 収穫: 本物の醤油(現地品)、新しい旅のルート。

 知識更新: 職人の街で設備を完璧に直しすぎると、為政者に「便利屋」としてロックオンされる。

 現在の気分: 逃げるように街を出たが、インベントリの中には美味い食材と醤油がたっぷりある。無敵だ。

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