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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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44話

 ムキムキの船長と暑苦しい抱擁(とアジフライの再リクエスト)を交わして定期船を降りた俺たちは、ついに大陸南部最大の商業地『交易都市ファルサス』の地を踏んだ。


「おぉ……すごい活気だ。迷宮都市も凄かったが、ここは規模が違うな」

『ニャア! 見るからに美味そうな屋台がたくさん並んでおるぞ!』

『マスター、様々な人種や種族が行き交っています。これぞ世界の交差点ですね』


 ファルサスは、石造りの巨大な街並みの中に、色とりどりの天幕を張ったバザールが網の目のように広がっていた。香辛料のツンとした香り、焼けた肉の匂い、そして活気ある商人たちの怒号のような客引きの声。歩いているだけでワクワクしてくる。


 俺たちは宿屋を確保する前に、まずはバザールを冷やかして歩くことにした。


「いらっしゃい! 東の国から仕入れた極上の絹織物だよ!」

「こっちは魔力ポーションのまとめ売りだ! ダンジョン帰りのそこのおっさん、どうだい?」

「旅のおにいさん。この大陸でもめずらしい調味料だよ。・・・まぁ、見た目はあれなんだか。一滴でもしょっぱいから使いでがあるぞ」

見た目があれという調味料に興味がわき覗いてみる。

「お、気になったかい?お兄さん。ここから船に乗って二〜三ヶ月もかかる、遥か遠い島国から持ち込まれた珍しいのものだよ」

言い終わるとおもむろに壺の蓋を開ける。

(確かに真っ黒な水だが……間違いない。大豆と小麦が発酵した、この芳醇(ほうじゅん)な香り!)

「おやじさん、これはどれくらい在庫があるんだい?」

「珍しくて売れるだろうってことで、大量に仕入れちまった。まだ倉庫に壺で20ケースあるよ。買ってくれるのかい?」

「在庫も含めていただくよ。後日取りに来るから用意しておいてくれ」


 様々な商品が並ぶ中、次に俺の目を引いたのは、路地裏に近い場所で露店を出していた初老の商人だった。

 彼の店には、スイカほどもある巨大な『卵』がゴロゴロと無造作に置かれている。


「親父さん、これは何の卵だ? ダチョウにしてはデカすぎるが」

 俺が尋ねると、商人はため息をつきながら答えた。

「ああ、お客さん。こいつは『ロック・コカトリス』っていう岩山に棲む魔物の卵だよ。栄養満点で味も濃厚なんだが……」


 商人によれば、この卵には致命的な欠点があるらしい。

「殻が鉄のように硬くてな。ハンマーで叩き割ろうとすると、中身が全部飛び散っちまうんだ。おまけに薄皮がゴムみたいに頑丈で、料理人泣かせの不良在庫ってわけさ。タダ同然でいいから引き取ってくれないかい?」


「殻が硬くて割れない、か」

 俺はニヤリと笑った。

「親父さん。ここにある卵、全部買うよ」

「えっ!? ほ、本当にいいのかい!?」


 俺は銀貨を数枚支払い、巨大なコカトリスの卵を五つ、インベントリに収納した。


 その後、俺たちは厨房付きの高級宿(迷宮都市で荒稼ぎしたおかげで資金は潤沢だ)のスイートルームを借りた。


「さて、今日は少し遅めのランチといくか」

 俺は宿の広々とした厨房に立ち、先ほど買ったコカトリスの卵を一つ、まな板の上に乗せた。


「殻が鉄のように硬いなら、力で割る必要はない。インベントリ……『極小空間切断』!」


 スッ……。

 まるでレーザーメスで切ったかのように、卵の殻の上部が綺麗な円形に切り取られた。硬い殻もゴムのような薄皮も、空間魔法の前には紙切れと同義だ。

 中からは、オレンジ色に輝く濃厚な黄身と、ぷっくりとした白身がたっぷりと姿を現した。


「よしよし。これで準備は完了だ。今日作るのは……みんな大好き、あのメニューだ」


 俺はフライパンにバターを落とし、インベントリから取り出したダンジョン産の『コッコ肉(鶏肉)』と玉ねぎのみじん切りを炒める。

 そこに、召喚魔法で生み出した俺の秘密兵器……『カゴメ・トマトケチャップ』をたっぷりと投入した。


 ジュワァァァァッ!!


 ケチャップの酸味が熱で飛び、トマトの濃厚な甘みと香ばしさが厨房いっぱいに広がる。そこへ炊きたての白飯を投入し、ムラなく炒め合わせて極上の『チキンライス』を完成させた。


「ここからが本番だ。コカトリスの卵、一気にいくぞ」


 別のフライパンを強火で熱し、多めのバターを溶かす。

 そこへ、ボウルでよく溶きほぐし、軽く生クリームと塩コショウを混ぜてあるコカトリスの卵を一気に流し込んだ。


 ジュウゥゥゥッ!

 俺は菜箸で手早く円を描くようにかき混ぜながら、フライパンを細かく揺らす。半熟のトロトロ状態になったところで、卵を手前に巻き込み、美しいアーモンド型に成形する。


「そぉい!」

 皿に高く盛ったチキンライスの上に、その巨大な半熟オムレツを崩さないようにそっと乗せた。


「仕上げだ、お前らよく見てろよ」

 俺はナイフを手に取り、オムレツの中央にスッと切れ目を入れた。


 パカァッ……!


 表面の薄い膜が切れた瞬間、中に閉じ込められていた半熟のトロトロ卵が、まるで黄金の滝のようにチキンライス全体を覆い尽くした。

 最後に、上から特製のデミグラスソースをかければ完成だ。


「お待たせしました。『コカトリス卵のフワトロ・オムライス(タンポポ風)』だ」


『ニャ、ニャンだこれはぁぁぁっ!?』

『おおお……! 卵が、自らを開花させるように溢れ出しました! なんという芸術……!』


 クロとシロが、目を真ん丸にしてオムライスを凝視している。

 俺はスプーンで、デミグラスソースの絡んだトロトロの卵とチキンライスをすくい、口へ運んだ。


「……っっっ!! んまァァァい!」


 コカトリスの卵の暴力的なまでのコクと濃厚さが、生クリームのまろやかさによって完璧にまとめ上げられている。そして、ケチャップライス特有のトマトの酸味と甘みが、卵の濃厚さをさっぱりと中和し、無限にスプーンを進めさせるのだ。


『ニャムッ! 卵が溶けるニャ! この赤い飯(チキンライス)の酸味が、食欲を無限に刺激するぞミツトメェェッ!』

『ピロロロロロッ! 素晴らしい! このフワフワの卵の絨毯と、深みのある黒いソース(デミグラス)のハーモニー! マスター、これは玉座に座る皇帝にしか許されない至高の料理です!』


 二柱の神様は、もはや言葉を失い、顔をソースだらけにしながら猛然とオムライスを掻き込み始めた。

 俺は冷蔵庫インベントリから召喚した『辛口のハードシードル(りんごの発泡酒)』の瓶をプシュッと開け、爽やかなリンゴの風味と炭酸で、口の中のケチャップとデミグラスを洗い流す。


「くぅぅっ! このジャンクな美味さがたまらないな!」


 誰も見向きもしなかった硬い殻の巨大卵は、俺の空間魔法と現代のケチャップの力で、交易都市のどの高級レストランにも負けない極上の一皿へと昇華された。


「……よし。腹も膨れたし、明日はこの巨大な街で、新しい便利アイテムや珍しい酒でも探しに行くとしよう」

 五十代のおっさんの気ままなスローライフは、活気に満ちたファルサスの街でも絶好調だ。


【第44話:完】

 収穫   : コカトリスの巨大卵、完璧なタンポポオムライスの成功。

 知識更新 : 鉄のように硬い卵の殻も、空間魔法で切断すればゴミが出なくて非常に快適である。

 現在の気分: オムライスは「巻く」より「乗せて開く」派だ。見た目のテンションが違う。

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