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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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42/53

42話

 刺身と冷酒で最高のスタートを切った俺たちは、そのまま誰も来ない静かな岩場を拠点にして『第一回・異世界海鮮フェス』を開催することにした。


「刺身を味わったなら、次は当然これだ」

 俺はメスティン(飯盒)でふっくらと炊き上げた白飯をどんぶりに盛り、その上にカイザーマグロの赤身と大トロ、市場で追加購入しておいた『オクトパス・スライム』の切り身、そして『大王ホタテ』の貝柱を贅沢に敷き詰めた。


「特製・異世界海鮮丼の完成だ。ワサビ醤油を回しかけて、一気にき込め!」


『ニャムッ! ニャアアッ! 温かい白粒(白飯)と冷たい魚が口の中で混ざり合うぞ!』

 熱々の白飯の熱で大トロの脂が適度に溶け出し、そこへワサビ醤油の風味が絡みつく。オクトパス・スライムのコリコリとした食感と、ホタテの濃厚な甘みが、丼という一つの宇宙の中で完璧な調和を生み出していた。


「生魚を堪能した後は、火を通した海鮮BBQだぞ!」

 俺はインベントリから『七輪』と『備長炭』を召喚し、網の上に大王ホタテを殻ごと乗せた。


 グツグツと貝殻の上の汁が沸騰してきたところで、日本が誇る最強の錬金術……『バター』と『醤油』を垂らす。


 ジュワァァァァァッ!!


 焦げた醤油と溶けたバターの暴力的な香りが、潮風に乗って岩場に爆発した。

 さらに隣では、カイザーマグロの『カマ』に粗塩を振り、豪快な焼き魚としてじっくりと火を通していく。


「ほら、ホタテが焼けたぞ。火傷しないように食え」


『……ッ!! こ、これは!』

 シロがホタテの貝柱を突いた瞬間、ピロロロロ! と頭の羽を激しく逆立てた。

『バターの芳醇な香りと、醤油の香ばしさ! それらがホタテの純粋な甘みと合わさり、私の舌を天界へと誘います! 生で食べるのとは全く違う、暴力的なまでの旨味の奔流ほんりゅうです!』


「だろ? そしてこのマグロのカマ焼きだ」

 脂がパチパチとはぜるカマの身をほじくり出し、大根おろしを乗せてポン酢でいただく。

「……んんっ! 焼いたことで脂の甘みが凝縮されてる。外はカリッと、中はフワフワだ」

 もちろん、ここで合わせるのも冷酒だ。熱々の海鮮BBQと冷たい日本酒の無限ループが止まらない。


「ふぅ……ちょっと箸休めだ」

 脂の乗った海鮮を堪能したところで、俺は小鍋を取り出した。

 マグロのアラと昆布を水からじっくりと煮出し、アクを丁寧に取り除く。味付けは少量の塩と酒だけだ。


「特製・カイザーマグロの『潮汁うしおじる』だ」


 熱い汁をズズッとすする。

「……はぁぁぁぁぁ。染みる……」

 五臓六腑の隅々にまで、海の旨味が優しく、しかし確かな存在感を持って浸透していく。強烈なBBQの後だからこそ、このシンプルで奥深い出汁だしの味が、疲れた味覚をリセットしてくれた。


『ニャァ……。なんだか、この温かい汁を飲んでいると、全てを許せるような寛大な気持ちになるニャ……』

 クロが丸くなりながら、器用に汁を舐めている。


【ナビ:成分分析。アラから抽出されたイノシン酸と、昆布のグルタミン酸が完璧な相乗効果を生んでいます。マスター、これは立派な『飲む精神安定剤』です】


「さて、胃袋も落ち着いたところで、本日の大トリだ」

 俺は昨日使った『カセットコンロ』と『深めのフライパン』を用意した。


「昨日、ダンジョンのモース肉で『カレー』を作ったよな? 今日は海の幸をふんだんに使った『シーフードカレー』だ」


 オクトパス・スライム、大王ホタテ、そしてエビに似た甲殻類の魔物の身をバターで軽く炒め、玉ねぎと一緒に煮込む。水は使わず、先ほど作った『潮汁の出汁』を贅沢に投入し、最後にカレールーを溶かし込んだ。


「完成だ。食ってみろ」


 昨日と同じように、メスティンの白飯にたっぷりとかけられたカレー。だが、漂ってくる香りは全くの別物だった。

 スプーンで一口すくい、口へ運ぶ。


「……美味い!!」

 昨日のモース肉のカレーが、大地を蹴り上げるような『暴力的な陸の王者』だとするならば。

 今日のシーフードカレーは、全てを優しく、しかし深く包み込む『慈愛に満ちた海の女王』だ。


 肉の脂のようなガツンとした重さはない。代わりに、エビの香ばしさ、ホタテの甘み、マグロの出汁がスパイスの奥深くに溶け込み、噛み締めるほどに海風のような爽やかな旨味が波のように押し寄せてくる。


『なんという深み……! 昨日のカレーは熱く激しい戦いのようでしたが、今日のカレーは穏やかで広大な海の景色そのものです! マスター、カレーとはこれほどまでに姿を変える魔法の料理なのですか!』

『ニャムニャムニャム! どっちも美味い! 我は選べないニャ! おかわりニャ!』


 シロとクロが、顔をカレーまみれにしながら絶賛の声を上げる。

 俺も黙々とスプーンを動かし続け、あっという間にシーフードカレーを平らげてしまった。


「……食ったぁ。もう何も入らない」


 俺は岩場にゴロンと寝転がり、大きく膨らんだ腹をさすった。

 見上げれば、オレンジ色に染まり始めた夕空と、果てしなく続く海。そして、隣には腹を出して寝転がる黒猫と、満足げに羽繕いをする白い鳥。


「海鮮フェス、大成功だな」


 冒険も、戦いも、名誉もいらない。

 ただ、その土地の美味いものを最高の形で味わい尽くす。

 このグラン・ヴァロワ帝国の西の海で、俺の五十代のスローライフは、確かな完成の域に達していた。


【第42話:完】

 収穫   : 完璧な海鮮フルコース、極上のシーフードカレー。

 知識更新 : カレーは具材によって「王者」にも「女王」にもなる、千変万化の魔法陣である。

 現在の気分: 満腹すぎて動けない。今日はこの岩場で、波の音を聞きながら野宿でいいや。

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