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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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40/56

40話

 迷宮都市ヴェルクでの数々のトラブルと美食の探求を終え、俺たちは西の海を目指して再び街道を歩き始めていた。


 グラン・ヴァロワ帝国の街道は、国境付近から変わらず見事な石畳が敷き詰められており、馬車や商人たちが行き交う活気に満ちている。

 俺の右肩には黒猫のクロ、左肩には小鳥のシロ。すれ違う商人たちからは「随分と動物に懐かれた旅人だな」と微笑ましい視線を向けられていた。


「シロ、お前は飛べるんだから、無理に肩に乗っていなくてもいいんだぞ?」

『何を仰いますか、マスター! 私の役目はマスターを外敵からお守りすること。上空から警戒するのも手ですが、こうして常にマスターの死角をカバーするのもまた、護衛の基本です!』

 シロは小さな胸を張り、キリッとした顔で周囲を睨みつけている。


『フン。真面目ぶった鳥ニャ。我を見ろ、ただ揺られて運ばれるだけのこの優雅な姿勢を。これぞ主の肩を使いこなす者の余裕ニャ』

 クロは俺の肩の上で完全に香箱座りをし、欠伸をしている。


『この怠惰な黒猫め! それでもかつて神と呼ばれた者の姿ですか!』

『なんだと鳥! やるかニャ!』


「はいはい、お前ら喧嘩しない。ほら、今日の野営地が見えてきたぞ」


 街道から少し外れた、小川の流れる開けた場所。

 俺たちはここで一晩キャンプをし、明日には目的の港町へ到着する予定だった。


 インベントリからテントや椅子をササッと取り出し、手慣れた様子で野営の準備を整える。前世の現場作業で培った段取りの良さは、異世界のキャンプでも大いに役立っていた。


「さて、ダンジョンのモース肉もこれで最後だ。今日の夕飯は、野外飯の王道でいくぞ」


 俺は魔石を対価に、日本の家庭の味を召喚した。

(呼び出すのは……『カレールー(辛口)』! そして米を炊くための『メスティン(飯盒)』だ!)


 鍋に油を引き、ざく切りにした玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、そして大ぶりにカットした|モース肉《ダンジョン産極上霜降り肉》を炒める。

 肉の表面に焼き色がつき、野菜がしんなりとしたところで水を注ぎ、コトコトと煮込んでいく。


 小川のせせらぎを聞きながら、火の番をする穏やかな時間。

 真面目なシロも、この静かなキャンプの雰囲気には少し感動しているようだった。

『マスター、野営というのはもっと過酷なものかと思っておりましたが、こうして自然の中で火を囲むのも風情があって良いものですね』


「だろ? スローライフにはこういう時間が欠かせないんだよ」


 具材が柔らかくなったところで、いよいよカレールーを割り入れる。


 フワァァァァッ……!!


 複数のスパイスが複雑に絡み合った、あの『カレー』特有の強烈で暴力的な香りが、風に乗って野営地に広がった。


『……ッ!? な、なんですかこの香りは! マスター、鍋の中で何十種類もの香辛料の爆発が起きています!』

 シロが驚愕して羽をバタバタさせている。

『フハハ! 驚くのはまだ早いぞ新入り! ミツトメの真骨頂はここからニャ!』


 メスティンでふっくらと炊き上がった白米を皿に盛り、その上にトロトロに煮込まれたモース肉のカレーをたっぷりとマイニングする。


「お待たせ。特製モース肉のカレーライスだ」


 シロは小皿に盛られたカレーを恐る恐るクチバシでついばんだ。

『……っ!! こ、これは!!』


 ピロロロロロ……! とシロの頭の羽がレーダーのように逆立った。

『数多のスパイスが複雑な陣形を組み、私の舌を波状攻撃してきます! そこにモース肉の濃厚な旨味が加わり、白い穀物()がそのすべてを優しく受け止める……! 完璧な統率! まるで一つの帝国のような完成された料理です!!』


 あまりの美味さに、真面目なシロすらも我を忘れてカレーをむさぼり始めた。

 俺もスプーンでカレーを口に運ぶ。

「……うまい。やっぱり外で食うカレーは、五割増しで美味く感じるな」

 辛口のスパイスが身体を内側から温め、歩き疲れた身体に染み渡る。すかさず、よく冷えたビールでその熱とスパイスを洗い流す。完璧だ。


 翌朝。

 カレーの残りに水を足し、うどんを召喚して『カレーうどん』という二日目の王道朝食を済ませた俺たちは、再び街道を歩き出した。


 やがて、吹き抜ける風に「潮の香り」が混じり始めた。

「おっ……」


 緩やかな丘を越えた瞬間、目の前の視界が一気に開けた。

 太陽の光を反射してキラキラと輝く、どこまでも青く広がる大海原。

 そして、その海岸線に沿うように作られた、白い石造りの建物が立ち並ぶ活気ある巨大な港町が姿を現した。


『おおっ! 海ニャ! ついに着いたニャ!』

『素晴らしい絶景です! 潮騒の音が心地よいですね』

「あぁ。やっと着いたぜ。グラン・ヴァロワ帝国の西の玄関口……港町だ」


 港のあちこちには漁船が停泊し、大通りには水揚げされたばかりの魚介類を売る市場の活気ある声が響いているのが、ここからでも分かった。

 潮風を胸いっぱいに吸い込み、俺は顔をほころばせた。


「さあ行くぞ、クロ、シロ! 今日こそ、美味い海鮮を腹いっぱい食うぞ!」


【第40話:完】

 収穫   : 港町への到着、完璧なキャンプカレーの堪能。

 知識更新 : 神様であっても、野外で食べるカレーライスの魔力には抗えない。

 現在の気分: 念願の海! 刺身か、焼き魚か、それともフライか。

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