39話
「シロ、さすがに全長1メートルの鳥をずっと肩に乗せて歩くのは、五十代の肩と腰にクる。少し小さくなれないか?」
『承知いたしました、マスター。私の神力をもってすれば造作もないことです』
シロはシュンッと光に包まれると、手のひらサイズの可愛らしい小鳥(全長30センチ程度)へと姿を変えた。
真面目で勤勉なシロは、怠惰なクロとは正反対の性格だ。肩の上で姿勢良くピシッと立っている。
ふと見ると、すっかり元気になったクロの尻尾は「三本」に増えていた。どうやら美味い飯を食い続けたおかげで、ほぼ昔の(神様時代の)力を取り戻したらしい。
対するシロの尾羽も、フェニックスのように美しく長い羽が三本、優雅に垂れ下がっている。右肩に黒猫、左肩に白い鳥。俺の肩周りの情報量がますます渋滞してきた。
「さて、この超古代研究所だが……」
俺は扉の外に立つ金属ゴーレムたちを見上げた。
「お前たち、中に入れ。そして扉を閉めて『擬態モード』を起動しろ」
『了解。偽装プロトコルへ移行します』
ゴーレムたちが静かに研究所内へ戻り、重厚な金属の扉が閉まると、表面が周囲の岩壁と完全に同化し、ただの行き止まりの壁にしか見えなくなった。
「これでよし。こんな深層にまで来る冒険者は少ないだろうが、万が一見つけてあのゴーレムと戦闘にでもなったら、間違いなく勝ち目がない。よけいな犠牲者を出さないのは、現場の危険予知(KY)活動の基本だ」
それに、研究所内にあった技術は、どう考えてもこの世界にはオーバースペックすぎる『過ぎたる技術』だった。俺の判断で封印しておくのが一番安全だ。
ダンジョンを逆走して地上へ戻り、冒険者ギルドへ顔を出すと、エントランスの巨大な掲示板が書き換えられているところだった。
【現在の最高到達点:第40層】
どうやら、報告の精査の結果、ティムの両親たちのパーティーが記録を更新したらしい。
「40層か……」
俺は自分のステータスと、肩に乗る二柱の神様(三本尻尾と三本尾羽)をチラリと見た。
【ナビ:マスターの空間魔法と身体強化、そしてクロとシロの全力を合わせれば、このダンジョンの最下層まで踏破することは十分に可能かと推測されます】
「だろうな。だが、絶対にやらない」
俺は即答した。
ダンジョンを踏破なんてしてみろ。間違いなく『初の偉業!』とかなんとかで国中から注目され、皇帝から直々に表彰され、面倒な貴族の宴会に引っ張り出される羽目になる。獣王からの求婚の次は、皇帝直属の騎士にでも任命されるのがオチだ。有名になるなんて、絶対に御免である。
「俺の目的はあくまで『美味い飯を食いながらの気ままな一人旅』だ。ダンジョンの美味いフルーツも肉も十分堪能したし、そろそろ潮時だな」
『む? ミツトメよ、もうこの穴蔵には潜らないのか?』
「ああ。ここはもう満足した。次は当初の目的通り、海を目指すぞ。新鮮な魚と海鮮が俺たちを待っている」
『海ですか! 素晴らしい。私はどこまでもマスターに付き従い、その行く手を阻む敵を浄化いたしましょう!』
『フンッ、堅苦しい鳥ニャ。我は美味い魚が食えれば文句はないぞ!』
真面目な白鳥と、食い意地の張った黒猫が俺の頭越しに火花を散らしている。
五十代のおっさんの旅は、どうやらまだまだ賑やかになりそうだ。
俺たちは迷宮都市ヴェルクのギルドを後にし、西の海へと向かう準備を整え始めた。
【第39話:完】
収穫 : 研究所の安全な封印、シロのコンパクト化。
知識更新 : ダンジョン踏破は、スローライフにおける最大の地雷である。
現在の気分: 肉はもう十分食った。そろそろ醤油とワサビで刺身が食べたい。




