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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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38/59

38話

 ティムの父親である元Aランク冒険者のバルガスから、迷宮に関する「ある面白い噂話」を聞いた俺は、翌日再びダンジョンへと潜っていた。


「35層……通常のダンジョン踏破ルートから大きく外れた場所に、絶対に近寄ってはいけない『金属の扉』がある、か。元・設備管理者としては、安全確認(という名の好奇心)のために見過ごせないな」

『ミツトメよ、そんなことより肉だ! 早く狩るぞ!』


 道中、俺たちは浅い階層でイノシシ型の『ボア』や牛型の『モース』を大量に狩り、空間魔法インベントリに詰め込んだ。途中、12層でシャドーウルフたちに極上の肉をたっぷり差し入れしてやり(ティムの近況も伝えた)、さらに下の階層を目指す。


 やがて到着した第35層。

 そこは荒涼とした岩肌が続くフロアだったが、バルガスが言っていた通り、通常の順路から大きく外れた岩壁の奥に、不自然なほど近代的な『重厚な金属の扉』が埋まっていた。


「……バルガスたちのパーティーはリスクが大きすぎると素通りしたらしいが」

 扉に近寄ると、その両脇に立っていた『金属のゴーレム』が不気味な機械音を立てて起動した。


「……おいナビ、これって」


【ナビ:はい。サバンサ王国へ向かう途中で見つけた、あの古代遺跡の防衛ゴーレムと全く同じ規格です】


 すんごい既視感だ。俺が身構えた瞬間、ゴーレムの赤いセンサーが俺の全身をスキャンし――。


『……生体認証、クリア。おかえりなさい、マスター』

 ゴーレムはうやうやしく頭を下げ、重い金属の扉が自動で開いた。


「やっぱり。俺の『最高管理者』の権限、この世界の超古代遺跡ネットワークで完全に共有されてるみたいだな」


 扉をくぐると、手前はふかふかのソファがある『普通の家のリビング』といった感じだったが、奥に進むにつれて、何やら物々しい機材が並ぶ『研究室』へと変貌していった。

 机の上には古代文字で書かれた書類が散乱している。


【ナビ:これは超古代文明の研究施設の名残ですね。空調も保存の魔法も完璧に機能しており、ゴーレムの定期メンテナンスも行き届いています。……書類の翻訳によると、彼らは『とある石像』をここに持ち込み、最後まで研究していたようです】


「石像?」

 俺とクロが一番奥の厳重な保管庫へ足を踏み入れると、そこには台座の上に鎮座する、美しい『鳥』を模した大きな石像があった。


 それを見た瞬間、クロの全身の毛が逆立ち、尻尾が二本ともボワッと膨らんだ。


『嫌ニャ予感がするニャ……。きっと、ろくでもないヤツがいるニャ』


 その時。

 ピキッ、と石像にヒビが入り、中から眩い光と共に、神々しくも怒りに満ちた声が響き渡った。


『――誰がろくでもないヤツですか? 「」』


『出たニャ! 悪魔め!』

 クロがシャーッ! と牙を剥く。


『悪魔はお前だ! 「|ダークネス・カタストロフィ・レクイエム《冥界と深淵を統べる漆黒の終焉神》」!!』

 眩い光が収まると、そこには純白の美しい羽根と、冠のように輝くトサカを持つ、神々しい鳥(全長一メートルほど)がバサバサと羽ばたいていた。


『その名は捨てた。今はクロにゃ。そう呼ぶがいい。「|ルミナス・ホーリー・サンダー・フェニックス《輝ける天空と雷霆の裁定者》」!』


「……なんだこれ」

 互いに黒歴史のような長ったらしい二つ名で呼び合う猫と鳥を見て、俺は呆れ返った。


「知り合いか? クロ」

『こんなやつ知らにゃいにゃ!』

 クロがそっぽを向く。


『ならば、体で思い出させるしかありませんね!』

 鳥の神様が激怒し、その純白の羽根の間にバチバチと恐ろしい高圧電流(雷魔法)が帯電し始めた。超古代の研究所が、神々の喧嘩で吹き飛びそうだ。


「はいストップ。まぁまぁ、せっかくだし飯でも食べましょうよ。腹が減ってるとイライラしますから」

 俺はパンパンと手を叩き、問答無用でインベントリからカセットコンロとフライパンを取り出した。


「今日は来る途中で新鮮なボア(豚肉)が手に入ったんでね。日本の国民食でいくぞ」


(呼び出すのは……『すりおろし生姜』『醤油』『みりん』『酒』『砂糖』。そして『千切りキャベツ』と『炊きたての白飯』だ!)


 フライパンに油を引き、スライスした玉ねぎとボアの肉を炒める。

 火が通ってきたところで、生姜をたっぷりと効かせた特製の甘辛いタレを一気に流し込んだ。


 ジュワァァァァァッ!!


 その瞬間、醤油の焦げる香ばしい匂いと、生姜の爽やかで暴力的な香りが研究所いっぱいに充満した。

 バチバチと帯電していた鳥の神様の雷が、スン……と消え去る。


『……な、なんですか、この食欲を直接殴ってくるような暴力的な香りは……!』

「よし、特製『ボア肉の生姜焼き』の完成だ」


 俺は皿に山盛りの千切りキャベツと生姜焼きを盛り付け、鳥の神様の前にもドンッと置いた。

「ほら、食ってみな」


 鳥の神様は恐る恐るクチバシで肉を突っつき、パクリと飲み込んだ。

『……ッ!?』

 鳥の瞳がカッ! と見開かれる。


『濃密な肉の脂を、生姜の刺激と甘辛いタレが完璧に包み込んでいる……! なんですかこれは! 横にある細長いキャベツと一緒に食べると、さっぱりして無限に食べられます!!』

 すかさず、俺は召喚した『キンキンに冷えた生ビール(中ジョッキ)』を鳥の前にドンと置いた。


「これと一緒に流し込んでみろ」

 鳥の神様がジョッキにクチバシを突っ込み、ゴクゴクとビールを飲む。


『プハァッ! 炭酸の刺激と苦味が、濃い味付けを洗い流して……また肉が欲しくなる! 永久機関ですか!?』

『フハハ! 分かるぞその気持ち! 我もこの男の飯と酒のとりこになったのだ!』


 なんやかんやで、(元)神様同士は生姜焼きをつまみにビールを酌み交わし、すっかり意気投合してしまった。美味い飯と酒の前では、過去の因縁など些末な問題らしい。


『ぷはーっ、食った食った! 人間よ、お前の料理の腕を見込んで、私もお前たちの旅に同行してあげましょう!』

 すっかり酔っ払って赤ら顔になった鳥の神様が、俺の肩(クロの反対側)にドンッと乗ってきた。


「はいはい、歓迎するよ」

『ところで人間。クロが「クロ」という新しい名をもらったように、私も新しい名が欲しいですね! さあ、この私に相応しい、気高き名前を授けなさい!』


 鳥の神様が胸を張る。

「んー……お前、羽根が真っ白だからなぁ。クロの反対だし」

 俺はビールを煽りながら、一番シンプルな名前を口にした。


「今日からお前の名前は『シロ』だ」

『……シロ。なんと単純で、しかし真理を突いた名……。良いでしょう! 今日から私はシロです!』


【ナビ:黒猫のクロと、白鳥のシロ。マスターのネーミングセンスは、現場の安全標語レベルで捻りがありませんね】


「覚えやすさが一番だろ」


 かくして、超古代文明の研究所で封印から目覚めた鳥の神様シロは、生姜焼きとビールの前にあっさりと陥落し、俺たちのパーティーに加わることになったのだった。

 五十代のおっさんの肩は、二柱の神様ペットによってますます重くなるばかりである。


【第38話:完】

 収穫   : 鳥の神様『シロ』が仲間に加わった。超古代研究所のマスター権限。

 知識更新 : 神々の喧嘩は、生姜焼きの匂いで強制終了できる。

 現在の気分: 豚の生姜焼きには、やはりビールか白米が最強である。

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