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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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34/54

34話

 第3層での極上焼肉パーティーで英気を養った俺たちは、翌日、迷宮のさらに奥深くへと歩を進めていた。


 第10層を越えたあたりから、ダンジョンの空気はさらに冷ややかになり、景色は開けた草原から一変した。

「……ずいぶんと薄暗くなってきたな」

『うむ。青白く光る苔が生えておる。なんだか不気味な森だな』


 俺たちが足を踏み入れた第12層は、巨大なシダ植物やツル草が鬱蒼うっそうと生い茂る、太古の原生林のような疑似空間だった。


【ナビ:マスター。この階層の中央部に、お目当ての『幻のフルーツ』の群生地があります。名称は『星雫の白葡萄ほししずくのしろぶどう』。枝から切り離された瞬間から急速な酸化と腐敗が始まり、わずか一分で泥のように溶けてしまうという、極端な性質を持った果実です】


「一分で腐るのか。そりゃあ氷魔法でガチガチにでもしない限り、地上に持ち帰るのは不可能だな」


 ナビの案内を頼りに原生林をかき分けて進むと、やがて視界が開け、巨大な大樹に巻き付く無数のツルが見えてきた。

 そのツルのあちこちに、自ら淡い光を放つ、大粒の真珠のような葡萄の房がたわわに実っている。


「おお、あれか! 見るからに美味そうだぞ!」

 俺が駆け寄ろうとしたその時。


『ウホォォォッ!!』


 頭上の樹上から、岩のような腕を持つ巨大な猿の魔物『フォレストエイプ』が数匹、威嚇するように降ってきた。どうやらこの甘い果実を自分たちの縄張り(エサ場)として守っているらしい。


『ミツトメ! 猿だ! 焼き猿にしてやろうか!』

「よせよせ。フルーツの甘い匂いに誘われて、さらに魔物が集まってきたら面倒だ。ここは現場の知恵と最新のIT(異世界テクノロジー)でスマートにいくぞ」


 猿たちがドラミングをして俺たちを威嚇している間に、俺は空間魔法インベントリを展開した。

「ターゲット指定、大樹のツルに実っている白葡萄のみ。枝へのダメージはゼロで……『座標指定・ピンポイント収納』!」


 ボフッ! ボフッ! ボフッ!


 フォレストエイプたちが守護していた星雫の白葡萄が、次々と虚空へ吸い込まれ、跡形もなく消え去っていく。


『……ウホ?』『ウッホホ?』

 突如として自分たちの宝が消滅したことに、猿たちは完全にパニックになり、互いの顔を見合わせて首を傾げ始めた。


「よし、今のうちだ。ずらかるぞクロ!」

 俺たちは猿たちが混乱している隙に、足早にその場を離脱した。戦わずして目的のブツを根こそぎいただく。これぞ大人のダンジョン探索だ。


 原生林の安全な岩場に腰を下ろし、俺はニヤリと笑った。

「さて、鮮度無限大のインベントリの力、試させてもらうか」


 インベントリから、もぎたての『星雫の白葡萄』を一粒だけ取り出す。

 取り出した瞬間から空気に触れて劣化が始まるとナビが言っていたので、俺は躊躇なくそれを口の中に放り込んだ。


 パリッ……ジュワァァァァッ!!


「……っっっ!! なんだこれ!?」

 極薄の皮が弾けた瞬間、口の中が強烈な甘みと、マスカットとライチを掛け合わせたような高貴な香りで満たされた。果肉はほとんど液状で、まさに「星の雫」という名にふさわしい極上の果汁ジュースだ。


『ニャッ!? ミツトメ、我を差し置いて一人で美味いものを食うとは卑怯な!』

「慌てるな。お前にはもっと最高の形で味わわせてやる」


 俺は魔石を捧げ、現代の文明の利器を召喚した。

(呼び出すのは……『充電式ポータブル・ブレンダー』。そして『ロックアイス』と、牧場直絞りの『特濃牛乳』だ!)


 ブレンダーの容器に氷を適量入れ、特濃牛乳を注ぐ。

 そして、インベントリから取り出した『星雫の白葡萄』を、腐敗が始まる前に大急ぎで五粒ほどブレンダーへ放り込み、スイッチを押した。


 ギュイィィィィン!!


 けたたましいモーター音が原生林に響く。氷が砕かれ、牛乳と葡萄の果肉が見事に撹拌されていく。

「よし、完成だ。『ダンジョン産・幻の白葡萄特製ミックスジュース』!」


 俺はクロ用の小皿にドロッとした冷たいジュースを注ぎ、自分はブレンダーの容器から直接ラッパ飲みした。


「……あまァァァァァァいっ!! そして美味ァァァいっ!!」

 牛乳の濃厚なコクと氷の冷たさが、葡萄の暴力的なまでの甘さと香りを完璧にまとめ上げている。砂糖など一切入れていないのに、高級ホテルのラウンジで出される数千円のフレッシュジュースを遥かに凌駕する味わいだ。


『ニャムッ……ニャ、ニャンだこれはぁぁぁっ!?』

 クロの二本の尻尾が、プロペラのように高速回転し始めた。

『冷たくて甘くて、果実の香りが鼻から抜けるぞ! ミツトメ、この白い液体、コーヒー牛乳に匹敵……いや、それ以上の神の飲み物かもしれん!』


 おっさんと黒猫は、原生林の岩場に座り込み、夢中で冷たいミックスジュースを啜り続けた。

 フルーツの持ち帰りが不可能と言われるこの階層で、これほど贅沢なデザートタイムを満喫している冒険者は、間違いなく俺たちだけだろう。


「……ふぅ。最高のおやつだったな。そろそろ地上に戻るか」

 俺がブレンダーを片付けようとした、その時だった。


【ナビ:マスター。前方約三百メートルの地点で、複数の魔物と交戦中の熱源反応を感知しました。波形から推測するに……成人の冒険者が複数と、非戦闘員の未成年が一人。苦戦しているようです】


「……未成年?」

 俺の脳裏に、入ダン前のギルドで必死に声をかけてきた、あの『荷物持ち』の少年の姿がよぎった。


「……食後の運動には、ちょっとハードな展開になりそうだな」

 俺は小さく溜息をつき、腰の剣の柄に手を当てて、熱源反応のある方向へと走り出した。


【第34話:完】

 収穫   : 大量の『星雫の白葡萄』、最高のデザートタイム。

 知識更新 : 空間魔法を使えば、腐敗ゼロ秒のフルーツを直接ミキサーに放り込める。

 現在の気分: 極上の甘味でリラックスした直後に、面倒事の予感。胃が痛い。

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