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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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30/54

30話

 サバンサ王国の夜の砂漠を駆け抜け、ついに俺たちは大陸の西の果てに位置する大国への国境を越えた。


「……おっ、歩きやすいな。国境を越えた途端、街道が綺麗な石畳になってるぞ」

『うむ! 砂ばかりの道は肉球が汚れて嫌だったのだ。この国は気が利いておるな!』


 整備された平坦な道を歩いていると、後ろから立派な荷馬車がやってきて、恰幅かっぷくの良い商人のおっちゃんが気さくに声をかけてきた。


「おや、旅のお方。黒猫ちゃんを連れて徒歩《旅》とは珍しい。グラン・ヴァロワ帝国へは初めてかい?」

「ええ。グラン・ヴァロワ帝国……そういう名前の国なんですね」


 荷馬車の横を並んで歩きながら、商人のおっちゃんはこの国の事情を色々と教えてくれた。

 彼によれば、このグラン・ヴァロワ帝国は現皇帝『レオンハルト』による完全な独裁国家らしい。独裁と聞くと恐ろしい響きだが、レオンハルト帝は極めて平和主義の現実主義者で、対外戦争を嫌い、ひたすら内政に力を入れているという。

 国境の隅々まで石畳の街道を敷き詰め、交通網を発達させることで流通を促し、経済発展をゴリゴリ推し進めているそうだ。


「税金も高くもなく低くもなくって感じで、商売はしやすい国だよ。ただし、皇帝陛下は犯罪者に対してはものすごく厳しくてね。スリを働いただけでも容赦なく強制労働送りにされるから、治安は世界一良いと言ってもいい」

「なるほど、そりゃあ素晴らしい」


 俺は心底安堵した。変な貴族の陰謀や、野蛮な武闘大会とは無縁の、法と秩序が守られた国。おっさんのスローライフ拠点としてはこれ以上ない優良物件だ。


「それに、西の果てってことは海がありますよね。俺は美味い海産物を目指して旅をしてるんですよ」

「ははは! なら、この国は正解だ。美味い魚なら西の港町だが、その前に大きな街があるから寄っていくといい」


 おっちゃんと別れ、さらに街道を進むこと半日。

 目の前に現れたのは、巨大な城壁と、その中央にそびえ立つ巨大な塔を持つ街――『迷宮都市ヴェルク』だった。


「ダンジョンがある街か。ファンタジーの定番だな」

 俺たちは街に入ると、情報収集のためにまずは冒険者ギルドへと顔を出した。

 ギルド内は活気に満ちており、様々な装備の冒険者たちがひしめき合っている。受付のお姉さんにEランクのギルドカードを提示し、この街のダンジョンについて軽く説明を受けた。


「ヴェルクのダンジョンは、登録証さえあれば誰でも入れますが、完全なる『自己責任』です。入る時に申請を出し、出るときにダンジョンで得た素材や宝箱の中身に対して『税金』が引かれるシステムになっています」


 受付のお姉さんは、さらにヴェルク特有のダンジョンのルールを教えてくれた。


「ダンジョン内で魔物を倒した場合、死体は『地面に吸収』されてしまいます。特に身体の小さな魔物ほど吸収が早いです。ですので、素材のために解体を行う際は、必ず『敷物』を敷くか、直接ダンジョンの地面に触れない『石の上』などで行ってくださいね」


「なるほど、床が魔物を食べちゃうわけか。変わったシステムだな」

 俺が感心していると、横で聞いていた別の冒険者が笑いながら声をかけてきた。


「おっさん、初めてかい? このダンジョンにはな、魔物だけじゃなく『宝』も眠ってるんだぜ。特に中層の特定の階層には、信じられないくらい美味い『幻のフルーツ』が実ってる場所があるんだ」

「美味いフルーツ?」


「ああ。だけどその果実、異常に『足がはやい』んだ。木から摘み取った瞬間から腐り始めちまうから、外へ持ち帰るのが至難しなんわざでな。氷の魔法使いを雇って大掛かりな保存箱で運ばないとダメなんだが、もし新鮮なまま持ち帰れれば、貴族が高値で買ってくれて小金持ちになれるぜ」


 その話を聞いた瞬間、俺の脳内の『設備管理者(自炊おじさん)』の血が騒いだ。


(摘み取った瞬間から腐り始める? つまり、時間経過で劣化するってことか)


【ナビ:マスター。空間魔法インベントリの内部は、時間経過および物質の劣化が完全に停止する絶対保存空間です。つまり……】

(ああ。俺のインベントリに放り込めば、もぎたての鮮度そのままに、無限に持ち帰ることができるってことだ)


『おいミツトメ、我はフルーツなど興味はないぞ! 迷宮の美味い肉だ、肉を狩るのだ!』

 肩の上でクロが抗議するが、俺の決意はすでに固まっていた。

 美味いフルーツ。しかも、インベントリを使えば誰も味わえない最高の状態のまま、俺自身が独り占めして食えるのだ。小金持ちになる気はないが、食欲の探求者としては見逃せない。


「よし、決まりだ。クロ、海の幸の前に、少しばかり迷宮探索ダンジョンアタックといくぞ」

『仕方ない! ならば我の魔法で魔物を丸焼きにしてくれるわ!』


 こうして、平和な大国グラン・ヴァロワ帝国の迷宮都市にて、俺とクロの新たな『食材探求』の冒険が幕を開けた。

 海産物はもう少しだけお預けだが、ダンジョンの美味いものが俺を呼んでいる。


【第30話:完】

 収穫: 平和な帝国の情報、ダンジョンのルール知識。

 知識更新: 鮮度が落ちるのが早い食材は、インベントリ持ちにとって最高のボーナスアイテムである。

 現在の気分: 幻のフルーツで、極上のミックスジュースとか作ってみたい。

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