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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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28話

「……やっと、負けられた」


 闘技場の控室で、俺はこれ以上ないほどの清々しい顔で伸びをしていた。

 フェルという若き才能のおかげで、俺の「優勝して王様にされる」という最悪のフラグは見事にへし折られたのだ。


「さて、残る厄介事は一つだけ。あの暑苦しい獣王陛下に『ヤキソバ』を献上することだが……」


 俺は腕組みをして考え込んだ。

 昨日誤魔化した手前、召喚魔法で『〇ちゃんの粉末ソース』をポンと出すわけにはいかない。万が一バレたら「魔法で出せるなら、一生王宮で焼きそばを出し続けろ」と監禁されかねない。


「だから、こちらの世界で調達できる食材だけで、ソースを『完全再現』する。そしてレシピごと王宮の料理長に押し付けて、俺は自由の身になる。これぞ完璧な退職(逃亡)プランだ」


【ナビ:見事なリスクヘッジです、マスター。設備管理だけでなく、レシピの引き継ぎ資料まで作成するとは、前世の社畜……いえ、社会人経験が光っていますね】


 俺たちはさっそく、サバンサ王国の巨大な市場バザールへと買い出しに向かった。

 この国は灼熱の気候のせいか、市場にはスパイスやハーブ類が山のように積まれ、安価で叩き売りされている。ソース作りには最高の環境だ。


「ええと、必要なのは……玉ねぎ、にんじん、セロリ。甘みと酸味を出すためにリンゴとトマト。風味付けにニンニク、塩、タイム、セージ、黒コショウ、ローリエ、唐辛子、オールスパイス。それから砂糖と酢、レモンだな」

(トマトは流通していないが、前に採取したのがインベントリにあるな。リンゴがないがデーツでどうにかなるか?)

 大量の食材をインベントリに放り込み、俺は宿の厨房を借りて仕込みを始めた。


『おいミツトメ、草と果物ばかりではないか! 肉はどうした、肉は! 汝、まさか我に精進料理を食わせるつもりか!?』

 クロが野菜の山を見て不満げに抗議する。

「慌てるな。これは料理じゃなくて『ヤキソバ』の命、秘伝のタレを作るんだよ。これが無いと始まらない」


 俺は野菜とデーツを細かくザク切りにし、巨大な寸胴鍋に放り込んだ。そこにたっぷりの水と、調達した各種スパイス、ハーブ類を全て投入し、火にかける。


「あとはコトコト、一時間ほど煮込むだけだ」


 グツグツと鍋が沸騰し始めると、厨房に複雑な香りが漂い始めた。

 最初はただの野菜スープの匂いだったが、セロリの香味、デーツの甘さ、トマトの酸味、そして多種多様なスパイスが熱によって融合し、次第にあの『スパイシーで暴力的なソースの匂い』の片鱗を見せ始める。


『……むっ!? なんだこの匂いは! 肉が入っていないのに、腹の虫が猛烈に鳴り出したぞ!』

 クロが寸胴鍋の縁に前足をかけ、目を輝かせた。


 一時間が経過した。

 俺は鍋からローリエの葉と唐辛子だけを丁寧に取り出す。

「ナビ、俺の身体強化を『少しパワーのあるおじさん』くらいに調整して」


【ナビ:了解しました。手動マッシュモード、起動します】


 俺は巨大な木べらを使い、煮崩れた野菜や果物を鍋の中で徹底的に押し潰した。身体強化のおかげで、ミキサーを使ったように滑らかなペースト状になっていく。


「よし。ここに砂糖と、酸味を引き締めるための酢を加え、最後にレモンを絞る」

 仕上げとして鍋を強火にかけ、ひと煮立ちさせる。

 ブクブクと泡立ち、砂糖がキャラメリゼされることで、ペーストは艶やかな『濃い茶色(ソースカラー)』へと変化した。


 鼻を突く酸味と、食欲を刺激するスパイスの鮮烈な香り。

 それは間違いなく、俺の記憶にある『ソース』そのものだった。


 俺はスプーンで少しすくい、味見をする。

「……っ! 完璧だ……」


 野菜とデーツの奥深い甘みが広がり、すぐさまスパイスの刺激と酢の酸味が味を引き締める。市販の粉末ソースよりもフルーティーで、なおかつパンチが効いている。異世界の食材で作ったとは思えない、極上の『自家製・異世界ヤキソバソース』の完成だ。


 試しに、余っていた豚バラ肉の端切れをフライパンで焼き、このソースを少しだけ絡めてクロに出してやった。


『ニャムッ! ……ニャアアアアッ!? なんという濃厚な旨味! この黒いドロドロが絡むだけで、ただの肉片が神界の御馳走に化けたぞ!!』

 クロが皿を舐め回す勢いで平らげた。


【ナビ:成分分析完了。グルタミン酸、イノシン酸、各種スパイスの相乗効果が計算通りに発揮されています。マスター、これはもはや『兵器』レベルの調味料です】


「兵器って言うな。ただのソースだ」


 俺は完成したソースを壺に移し替え、しっかりと蓋をした。さらに、このソースの正確な分量と作り方を記した『レシピ書』も作成しておく。

「これを王宮の料理長に丸投げすれば、俺は用済み。あとは西の国境へ向けてのんびり出発するだけだ」


 長かったサバンサ傭兵王国でのトラブルも、いよいよこれでフィナーレだ。

 俺は自家製ソースの壺を抱え、自信満々の足取りで獣王の待つ王宮へと向かった。


【第28話:完】

 収穫   : 自家製・異世界ヤキソバソース、完璧な引き継ぎ資料(レシピ)

 知識更新 : ソースは野菜と果物とスパイスの煮込み料理である。

 現在の気分: 立つ鳥跡を濁さず。完璧な退職(逃亡)準備が整った。

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