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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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22話

 古代遺跡での快適な「別荘生活」を満喫した翌朝。

 俺とクロは、遺跡の防衛ゴーレムに「誰も入れるな、適当に休んでろ」と指示を出し、再び西を目指して歩き出した。


 荒野を抜けると、次第に緑が豊かになり、街道には行き交う商人の荷馬車も増えてきた。

「どうやら、国境近くの大きな街が近いみたいだな」

『うむ! 早く街へ入って、美味い肉を食おうぞ! アヒージョの油も悪くなかったが、やはり肉の塊に勝るものはない!』


 クロが肩の上で二本の尻尾を揺らしながら催促してくる。

 数時間後、見えてきたのは高い石壁に囲まれた、国境の要塞都市『ガルド』だった。西の隣国へ抜けるための重要な関所でもある。


 街の門では、王都から回ってきた手配書を持った衛兵が目を光らせていたが、今回は影に潜むまでもなく、俺の『Eランク冒険者のただのくたびれたおっさん』という完璧なモブオーラのおかげで、あっさりと通過できた。猫?「最近拾ったただの野良猫です」で通じた。クロは不満そうだったが。


 街に入ると、中央広場で何やら人だかりができていた。

「なんだ? 揉め事か?」

 野次馬の隙間から覗き込むと、一台の豪奢ごうしゃな馬車が止まっており、その前で、見覚えのある服装の男たちが、地元の商人らしき初老の男を取り囲んで凄んでいた。


「だから言っているだろう! この魔導具の修理代として、金貨五十枚を払えと!」

「そ、そんな無茶な! 確かに私がぶつかって落としてしまいましたが、元々ヒビが入っていたのではありませんか!? それに金貨五十枚なんて、私の店を売っても……!」


 取り囲んでいる男たちの胸元には、銀色に輝く見覚えのある紋章があった。


【ナビ:マスター、あの紋章。先日、王都で国家反逆罪により捕縛された、あの『伯爵家』の分家あるいは残党のものです。王都から逃れて、この国境の街で暴利を貪っているようですね】


「……また面倒な奴らに出くわしたな」


 男が掲げているのは、複雑な意匠が施された「通信用の魔導具」らしい。だが、肝心の魔力回路を繋ぐクリスタル部分がポッキリと折れている。

「証拠ならここにある! 貴様がぶつかったせいで、この貴重な『遠話の水晶』が壊れたのだ! 払えないなら、その店と娘を……」


 絵に描いたような悪徳貴族のテンプレ台詞に、俺は思わず深い溜息をついた。

 関わりたくない。しかし、このままでは善良そうな商人が破滅する。

「……おいナビ。あの魔導具、直せるか?」


【ナビ:水晶の物理的な切断面が完全に一致すれば、魔力回路自体は復元可能です。ただし、通常の接着剤では魔力を通しません。ですが、マスターの召喚リストにある『アレ』を使えば、あるいは……】


「なるほどな。よし、三十秒で終わらせる」

 俺は野次馬をかき分け、男たちの輪の中へスッと入り込んだ。

「ちょっと失礼」


「なっ、なんだ貴様は! 薄汚い冒険者風情が!」

 俺は男の手から、壊れた魔導具のパーツをヒョイと取り上げた。

「おいおっさん! 返せ! それがどれほど高価な……」


 俺は男の言葉を無視し、空間魔法インベントリから召喚しておいたアイテムを取り出した。

 現代の工作の味方、『UV(紫外線)硬化レジン』と『小型UVライト』だ。


 折れたクリスタルの断面に、透明なレジン液を薄く均一に塗る。

「……ピッタリと合わせる。ここが重要だ」

 前職の精密機器の修理で培った手先の器用さで、断面のズレをミクロン単位で合わせる。

 そして、すかさずUVライトの強力な紫外線を照射した。


 ピカァッ! と青白い光が数秒間放たれる。

「よし、硬化完了」


 俺は魔導具を男にポイッと投げ返した。

「……あ? な、なんだこれは?」

「直した。ほら、魔力を流してみろよ」


 男が半信半疑で魔力を流すと、折れていたはずのクリスタルが青白く輝き、ノイズ一つなく魔力回路が繋がった。

 透明なレジンは硬化するとガラスと同等の透過率を持ち、かつ魔力の流動を阻害しない。(というか、この世界の魔力は「光」の性質に近いらしく、透明な樹脂なら素通りするようだ)。


「な、直っている……!? バカな、クリスタルの修復は高位の錬金術師でも不可能なはず……!」

「これで修理代はチャラだな。あんたたち、王都のゴタゴタから逃げてきたんだろうが、こんな辺境で悪さをしてると、近衛騎士団の『特務捜索隊』が飛んでくるぞ。ちょうど今、メルトンの街を洗ってるはずだ」


 俺がカマをかけると、男たちの顔色がサァッと青ざめた。

「ち、近衛騎士団が……!? クソッ、今日はこのくらいにしておいてやる!」

 男たちは慌てて馬車に乗り込み、逃げるように走り去っていった。


「た、助かりました……! あなた様は一体……!?」

 商人が涙ぐんで俺の手を握ろうとするが、俺は足早にその場を立ち去った。

「ただの、手先が器用なEランク冒険者ですよ」


 目立つのは嫌だと言いながら、結局トラブルを解決してしまう。自分の性分に呆れながらも、俺は路地裏へ入り、大きく伸びをした。

「さて、人助けの後の飯は美味い。クロ、今日は約束通り肉にするぞ」


『ニャアアッ! 待っておったぞミツトメ!』

 俺たちは街の広場から少し離れた、見晴らしの良い城壁の上の見張り台(現在は使われていない)に陣取った。

 インベントリから素材を捧げ、豪華なツマミを召喚する。


(呼び出すのは……『厚切り牛タン』、『塩ネギダレ』、『レモン』。そして『キンキンに冷えた生レモンサワー』だ!)


 クロの黒炎で熱した鉄板の上に、分厚い牛タンを乗せる。

 ジューーーッ! という音と共に、肉が反り返り、香ばしい脂の匂いが立ち上った。

「焼きすぎないのがコツだ。表面はカリッと、中はサクッとした食感を残す」


 焼き上がった牛タンに、たっぷりの塩ネギダレを乗せ、レモンをサッと絞る。

「……いただきます」


 口に入れた瞬間、牛タン特有のサクッとした歯ごたえと、溢れ出す濃厚な肉汁が広がる。そこにネギのシャキシャキ感と、ごま油の風味、レモンの酸味が完璧なバランスで押し寄せてきた。

「……美味すぎる」


 すかさず、氷がたっぷり入った強炭酸の生レモンサワーを流し込む。

「くぅぅぅっ!!」

 甘さ控えめのキリッとした酸味と炭酸が、牛タンの脂をさっぱりとリセットし、無限のループへと誘う。


『ニャムニャム……! なんという弾力! 噛めば噛むほど肉の味が濃くなるぞ! この塩とネギのタレが、恐ろしいほど肉に合う!』

 クロも二本の尻尾をブンブンと振り回しながら、牛タンを貪っている。


【ナビ:見事なUVレジンによる修復術と、完璧な牛タンの焼き加減でした。マスターは異世界でも、修理工として大成できるのは間違いありません】


「だから、俺は目立たずスローライフを送りたいんだよ」


 レモンサワーのグラスを傾け、国境の街の夕暮れを眺める。

 明日には、いよいよこの国を抜け、隣国(戦争を吹っ掛けてきた東ではなく、西の平和な国だ)へ足を踏み入れる。

 俺たちの旅は、まだまだ終わらない。美味い酒とツマミがある限り。


【第22話:完】

 収穫   : 悪徳商人の撃退、厚切り牛タンの圧倒的な満足感。

 知識更新 : UV硬化レジンは、異世界の魔導具修理にも使えるチートアイテム。

 現在の気分: 牛タンとレモンサワーの組み合わせは、世界を救う。

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