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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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19話

 山間部を抜け、俺とクロはついに西の巨大な商業都市メルトンへと足を踏み入れた。

 大通りには無数の露店が並び、行き交う商人の声で活気に満ちている。


「さて、まずは宿探しだな」

 そう呟いた時、足元で小さな影が動いた。


「お、おじちゃん! もし宿が決まってないなら、うちに泊まってよ!」

 声をかけてきたのは、十歳くらいの赤毛の少女だった。満面の笑みを作っているが、その瞳の奥にはどこか必死な、切羽詰まった色が浮かんでいる。

 料金を聞くと相場よりかなり良心的だったので、俺は快諾して少女の案内で宿へ向かった。


 大通りに面したその宿は、古いながらも隅々まで掃除が行き届いており、清潔感があって良い感じだった。夕食に出されたシチューも、素朴だが具沢山で美味い。


 だが、夜も更《けた頃。

 一階の食堂から、ガシャンという皿の割れる音と、男たちの粗暴な怒鳴り声が聞こえてきた。

「いい加減に立ち退きに同意しな! この大通りの一等地、いつまでもこんなボロ宿にしとくのは街の損失なんだよ!」

「何度言われても売らん! ここは先祖代々の土地だ!」


【ナビ:マスター。どうやら絵に描いたような地上げ屋の嫌がらせのようです。関わりますか?】

「寝不足は美容と健康に悪いからな」


 俺は一階へ降りると、身体強化で少しだけ威圧感を放ちながら、男たちの肩をポンと叩いた。

「悪いが、明日は早いんだ。静かに寝かせてくれないか?」

 俺の指の力(万力並み)で肩を軋ませられたチンピラたちは、青ざめて逃げるように帰っていった。


「助かりました、お客さん……」

 と頭を下げる主人に


戸締とじまりはしっかりな」

 とだけ告げ、俺は部屋に戻ってぐっすり眠った。


 しかし、翌朝。

 宿の下に降りると、少女が泣き崩れており、奥さんが青い顔で包帯を巻いていた。ベッドには、足を不自然な方向に曲げて苦悶の表情を浮かべる宿の主人がいた。


「朝の市へ仕入れに行ったら……昨日の連中に路地裏で襲われたんだ」

 主人が悔しそうに顔を歪める。

「それでも、この土地だけは絶対に渡さない……先祖の守ってきた土地なんだ……!」


 その言葉に、俺は少しだけ語気を強めた。

「主人。先祖の土地ってのは、あんたの足や、奥さんの安全や、娘さんの笑顔より重いのか?」

「えっ……」

「意地を張るのは立派だが、守るべき優先順位を間違えちゃいけない。家族が笑って暮らせる場所が、本当の意味での『家』なんじゃないのか?」


 俺の言葉に、主人はハッとして涙を流し、ついに危険な土地を手放す決意を固めた。


 その日の昼、俺は足の折れた主人に代わり、奥さんと一緒に街の商業ギルドへと向かった。

「買い取りの件ですね。しかし、あちらは既に悪徳商会が目を付けておりまして……相場よりかなり安く叩かれるかと」

 ギルドの担当者は渋い顔をした。地上げ屋の背後には厄介な商会がいるらしい。


「ならば、ギルドが直接買い取ってくれ。その代わり、少し『おまけ』を付ける」

 俺はそう言うと、空間魔法インベントリから宿で作ってきたフライドポテトを取り出す。


「これは……なんと香ばしい! 外はカリッと、中はホクホクで、塩気が無限に食欲をそそる! 酒のツマミにも最高だ!」

「この揚げ芋の調理法をギルドに譲る。その代わり、宿の土地を相場より少し高く買い取って、彼らの安全な移転先を安く提供してやってくれ」

 担当者は二つ返事で了承した。大通りでこのポテトを売れば、土地代の差額などすぐに回収できると踏んだのだろう。

「そんなに即決して大丈夫なのか?」

「これでも副ギルド長なのでね。この料理には未来かねのにおいを感じるから大丈夫だよ。それより、レシピを教えてくれ」

「わかったよ。実演するから、人の目に触れない部屋をかしてくれ」


 会議室のような場所につくと、空間魔法インベントリからジャガイモと植物油、塩、水、小麦粉を取り出した。

 さらにクロを呼び寄せる。

「クロ、極細の炎で油を熱しろ」

『フハハ! 任せておけ!』


 俺はジャガイモを細長く切り、10分程水にさらして水気をふきとる。それに薄く小麦粉をはたき、クロの炎で完璧な温度になった油へ投入した。

 ジュワァァァッ! という食欲をそそる音と共に、キツネ色に揚がった『フライドポテト』が完成する。塩を振り、担当者に差し出した。

「油で調理するのか。贅沢な料理だな。しかし、調理手順は簡素で真似しやすい。ジャガイモもてに入れやすい。なにより酒にあうからな。わかった。では取引は成立だ」


 提供された新しい宿の移転先は、大通りから外れた少し不便な場所だったが、敷地は以前よりずっと広かった。

「ミツトメさん、本当にありがとう。でも、こんな裏通りじゃ、お客さんが来てくれるかどうか……」

 不安そうな奥さんと少女に、俺は笑いかけた。


「立地の不利は、圧倒的な名物料理でカバーすればいい」


 俺はインベントリから鶏肉、塩、ニンニク、生姜、片栗粉、白ワインを取り出し、特製のタレに漬け込んだ肉を、再びクロの炎で熱した油へ投入した。


「これぞ俺の故郷の最強料理、『唐揚げ』だ」


 カラッと揚がった肉汁たっぷりの唐揚げを少女の口に運んでやると、彼女は目を丸くして「お、美味しいーっ!」と叫んだ。

『ニャアアッ! ミツトメ、我にも! 我にもその茶色い塊を食わせろ!』

 横で暴れるクロにも一つ放り投げてやる。


【ナビ:マスター。不動産交渉から新規事業のコンサルティング、さらには看板メニューの開発まで。前世の知識と魔法の完璧なシナジーですね。コンサル料を請求しても良いレベルです】


「俺は美味い唐揚げとビールが飲みたかっただけさ」


 俺が自分の分の唐揚げをかじり、召喚した冷たいビールを流し込んでいると、松葉杖をついた主人が深々と頭を下げてきた。

「このご恩は一生忘れません。この唐揚げを名物にして、家族三人で必ずこの宿を立て直してみせます!」


 夕暮れ時。

「おじちゃん、また絶対に来てね!」と大きく手を振る少女に見送られ、俺たちは宿を後にした。

 面倒なトラブルだったが、あの家族が新しい場所で笑って暮らせるなら、たまにはお節介せっかいを焼くのも悪くない。


 商業都市メルトンの裏通りには、やがて「絶品の揚げ鳥を出す宿」として大行列ができることになるのだが、それはまた別の話だ。


【第19話:完】

 収穫   : 宿屋の家族の笑顔、揚げたての唐揚げ。

 知識更新 : フライドポテトと唐揚げは、異世界の商業ギルドをも屈服させる。

 現在の気分: 揚げ物とビールの組み合わせは、やっぱり正義だ。

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