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おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


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134/138

134話 霧の峠町の芯出しと、極厚ハムの絶品クロックムッシュ

 港町を後にし、俺たちは標高の高い山道を進んで、濃い霧に包まれた峠の町『グルイエ』にたどり着いた。

 ここは酪農と小麦の栽培が盛んな町だが、町の中央にある巨大な粉挽き用の風車小屋から、「キュルルルッ!」という耳を(つんざ)くような悲鳴が鳴り響いていた。


 風車小屋を覗くと、粉挽き職人たちが頭を抱えている。

「ダメだ、風車は回っているのに、動力を伝える革ベルトが滑ってしまって臼が回らない。これじゃあ小麦粉が作れないぞ……」


『マスター。風の力は十分に届いていますが、動力を伝達する部分でエネルギーが著しくロスしているようです』

 白き神の鳥であるシロが、俺の肩で静かに状況を分析する。


「ああ、いわゆるVベルトの滑りってやつだ。ちょっと見せてみな」

 俺は風車の動力部である巨大な二つの滑車(プーリー)を確認した。

「長年の使用でベルトが伸びきってる上に、二つの滑車の(アライメント)がズレてる。これじゃあベルトが片減りして、空回りして悲鳴(鳴き)を上げるのは当然だ」


 俺はインベントリから芯出し用のレーザーポインターとスパナを取り出した。

「設備屋の基本中の基本だ。モーターとファンを繋ぐ滑車は、ミリ単位で真っ直ぐ平行に直す。そして、テンショナー(張力調整ボルト)を回して、ベルトがパンと張る適正なテンションに調整するんだ」


 俺がボルトを締めて二つの滑車の位置をピタリと合わせると、耳障りな異音は嘘のように消え去り、風車の動力はスムーズに石臼へと伝わり始めた。


 ゴリゴリと力強く小麦が挽かれ始め、職人たちは大喜びで俺に挽きたての小麦で作った山型パンと、この町の特産である極厚の燻製ハム、そして熟成チーズをどっさりと持たせてくれた。


「よし、冷え込む霧の町には、アツアツで最高にカロリーの高いパン料理が似合う。今日はクロックムッシュを作るぞ」


 俺は厚切りにした山型パンに、マスタードを軽く塗った。

「クロックムッシュの要は、なんといってもベシャメルソースだ。この前のカニクリームコロッケで作ったソースの応用だな」

 バターと小麦粉を炒め、牛乳で滑らかに伸ばした濃厚なソースをパンにたっぷりと塗る。その上に極厚の燻製ハムと、削った熟成チーズを乗せ、もう一枚のパンで挟み込む。


「さらに、一番上のパンにもベシャメルソースをたっぷり塗りたくり、その上からもう一度チーズを山盛りに乗せる!」

 これを、熱した極厚の鉄板に乗せ、上からガスバーナーで一気に炙り上げる。


 ゴォォォッ!!

 チーズがグツグツと泡立ち、焦げたバターとホワイトソースの暴力的な香りが霧の中に広がっていく。


「完成だ。特製極厚ハムととろけるチーズの絶品クロックムッシュだ」


『ニャアアアッ! チーズが滝みたいに垂れてるニャ!』

 クロが、熱々のパンにガブリと噛み付いた。


 サクッ……トロォォォッ!!

『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!! アチッ、でも最高ニャ! サクサクのパンから、ハムの肉汁とチーズの塩気が溢れてきて、濃厚なホワイトソースが全部をトロトロにまとめてるニャ!』


 シロも嬉しそうに羽を揺らしながら、小さくちぎったパンを啄む。

『素晴らしい(レイヤー)の構築です。カリッと焼けたパンと、ソースの水分、ハムの旨味が三位一体となり、冷えた体を芯から温めてくれますね』


 俺も、チーズが糸を引くクロックムッシュを口に頬張った。

「……うん、美味い!」


 香ばしく焼けたチーズの壁を破ると、中から熱々のベシャメルソースとスモークハムの旨味が爆発する。

 一口ごとに強烈な満足感が押し寄せ、濃いめに淹れた熱いコーヒーとの相性はまさに無敵だった。

 滑車の芯出しで町の動力を取り戻した俺たちは、霧の晴れゆく峠町で、極上のホットサンドを心ゆくまで堪能するのだった。


【第134話:完】

 収穫: 霧の峠町の風車修理、山型パン、極厚の燻製ハム、熟成チーズ。

 知識更新: Vベルトの滑り(鳴き)は、滑車の芯出し(アライメント調整)と適正なテンション調整で直る。クロックムッシュは、パンの間に挟むだけでなく、上部にもベシャメルソースとチーズを乗せてこんがり焼くのがたまらなく美味い。

 現在の気分: サクサクのパンから溢れる熱々のソースとチーズ。濃いコーヒーと一緒に流し込むと、冷えた体がポカポカ温まる。こういう高カロリーな朝食も最高だな。

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