134話 霧の峠町の芯出しと、極厚ハムの絶品クロックムッシュ
港町を後にし、俺たちは標高の高い山道を進んで、濃い霧に包まれた峠の町『グルイエ』にたどり着いた。
ここは酪農と小麦の栽培が盛んな町だが、町の中央にある巨大な粉挽き用の風車小屋から、「キュルルルッ!」という耳を劈くような悲鳴が鳴り響いていた。
風車小屋を覗くと、粉挽き職人たちが頭を抱えている。
「ダメだ、風車は回っているのに、動力を伝える革ベルトが滑ってしまって臼が回らない。これじゃあ小麦粉が作れないぞ……」
『マスター。風の力は十分に届いていますが、動力を伝達する部分でエネルギーが著しくロスしているようです』
白き神の鳥であるシロが、俺の肩で静かに状況を分析する。
「ああ、いわゆるVベルトの滑りってやつだ。ちょっと見せてみな」
俺は風車の動力部である巨大な二つの滑車を確認した。
「長年の使用でベルトが伸びきってる上に、二つの滑車の芯がズレてる。これじゃあベルトが片減りして、空回りして悲鳴を上げるのは当然だ」
俺はインベントリから芯出し用のレーザーポインターとスパナを取り出した。
「設備屋の基本中の基本だ。モーターとファンを繋ぐ滑車は、ミリ単位で真っ直ぐ平行に直す。そして、テンショナーを回して、ベルトがパンと張る適正なテンションに調整するんだ」
俺がボルトを締めて二つの滑車の位置をピタリと合わせると、耳障りな異音は嘘のように消え去り、風車の動力はスムーズに石臼へと伝わり始めた。
ゴリゴリと力強く小麦が挽かれ始め、職人たちは大喜びで俺に挽きたての小麦で作った山型パンと、この町の特産である極厚の燻製ハム、そして熟成チーズをどっさりと持たせてくれた。
「よし、冷え込む霧の町には、アツアツで最高にカロリーの高いパン料理が似合う。今日はクロックムッシュを作るぞ」
俺は厚切りにした山型パンに、マスタードを軽く塗った。
「クロックムッシュの要は、なんといってもベシャメルソースだ。この前のカニクリームコロッケで作ったソースの応用だな」
バターと小麦粉を炒め、牛乳で滑らかに伸ばした濃厚なソースをパンにたっぷりと塗る。その上に極厚の燻製ハムと、削った熟成チーズを乗せ、もう一枚のパンで挟み込む。
「さらに、一番上のパンにもベシャメルソースをたっぷり塗りたくり、その上からもう一度チーズを山盛りに乗せる!」
これを、熱した極厚の鉄板に乗せ、上からガスバーナーで一気に炙り上げる。
ゴォォォッ!!
チーズがグツグツと泡立ち、焦げたバターとホワイトソースの暴力的な香りが霧の中に広がっていく。
「完成だ。特製極厚ハムととろけるチーズの絶品クロックムッシュだ」
『ニャアアアッ! チーズが滝みたいに垂れてるニャ!』
クロが、熱々のパンにガブリと噛み付いた。
サクッ……トロォォォッ!!
『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!! アチッ、でも最高ニャ! サクサクのパンから、ハムの肉汁とチーズの塩気が溢れてきて、濃厚なホワイトソースが全部をトロトロにまとめてるニャ!』
シロも嬉しそうに羽を揺らしながら、小さくちぎったパンを啄む。
『素晴らしい層の構築です。カリッと焼けたパンと、ソースの水分、ハムの旨味が三位一体となり、冷えた体を芯から温めてくれますね』
俺も、チーズが糸を引くクロックムッシュを口に頬張った。
「……うん、美味い!」
香ばしく焼けたチーズの壁を破ると、中から熱々のベシャメルソースとスモークハムの旨味が爆発する。
一口ごとに強烈な満足感が押し寄せ、濃いめに淹れた熱いコーヒーとの相性はまさに無敵だった。
滑車の芯出しで町の動力を取り戻した俺たちは、霧の晴れゆく峠町で、極上のホットサンドを心ゆくまで堪能するのだった。
【第134話:完】
収穫: 霧の峠町の風車修理、山型パン、極厚の燻製ハム、熟成チーズ。
知識更新: Vベルトの滑りは、滑車の芯出しと適正なテンション調整で直る。クロックムッシュは、パンの間に挟むだけでなく、上部にもベシャメルソースとチーズを乗せてこんがり焼くのがたまらなく美味い。
現在の気分: サクサクのパンから溢れる熱々のソースとチーズ。濃いコーヒーと一緒に流し込むと、冷えた体がポカポカ温まる。こういう高カロリーな朝食も最高だな。




