135話 加工ギルドの管内閉塞と、屑野菜の極上パリパリ春巻き
霧の峠町を下り、見渡す限りの畑が広がる大規模農業都市『ベジタ』へとやってきた俺たちは、街の中心にある巨大な野菜加工ギルドの前で足を止めた。
建物の裏手にある排水エリアから、泥水と野菜の切れ端が溢れ出し、周囲がひどい水浸しになっていたのだ。
「ああ、もう最悪だ! 魔導ディスポーザーの排水管が完全に詰まっちまった! このままじゃ加工ラインがストップしてしまうぞ!」
作業着姿の職員たちが、逆流する泥水に膝まで浸かりながら頭を抱えていた。
『……マスター。地下の排水管の奥で、大量の有機物が強固に絡み合い、物理的な栓を形成しています』
白き神の鳥であるシロが、俺の肩から水浸しの地面を見下ろし、静かな声で状況を教えてくれた。
「粉砕機を使ってるのに詰まる、ね。……なるほど、原因の予想はつくぜ」
俺は職員たちに声をかけ、排水管の入り口を見せてもらった。そこには、細かく砕かれたはずのタマネギの皮や、トウモロコシのヒゲ、セロリの筋などが大量に浮いていた。
「やっぱりな。粉砕機ってのは便利だが、繊維質の強いゴミを流すのは絶対にNGなんだ。タマネギの皮や硬い筋は、刃で砕かれずに管の中で絡み合って、あっという間に巨大な詰まりになっちまうんだよ」
前世の設備屋時代にも、キッチンのディスポーザーに枝豆の殻やトウモロコシの芯を突っ込んで配管を詰まらせる客が後を絶たなかった。
「こういうガチガチの詰まりに、水圧や薬品は効かない。物理的に引きずり出すのが一番だ」
俺はインベントリから、先端に螺旋状の金具がついた長いワイヤー――『ワイヤートーラー』を取り出した。
「こいつを管の奥に突っ込んで、ハンドルを回す! すると先端の金具が回転しながら、詰まりの原因である繊維の塊にガッチリと食い込むんだ!」
グリグリとワイヤーを押し込み、手応えがあったところで一気に引き抜く。
ズルルルゥゥッ!!
管の奥から、ヘドロと一緒に巨大な繊維と野菜クズの塊が引きずり出された。その瞬間、溜まっていた汚水が渦を巻いて、嘘のようにスルスルと排水管へと吸い込まれていった。
「おおおっ! 水が引いた! 助かった、これで仕事が再開できる!」
職員たちが歓喜の声を上げる。
「旅の設備屋さん、本当にありがとう! お礼と言っちゃなんだが、ここの加工ラインで出た基準に満たない野菜ならいくらでも持っていってくれ。見た目は悪いが、家畜の餌にするにはもったいない新鮮な野菜だ」
木箱に山積みにされていたのは、変形した大根やニンジンの分厚い皮、キャベツの硬い外葉、ブロッコリーの太い芯、そしてシイタケの石づきなど、文字通り捨てる部分ばかりだった。
「よし、こいつはありがたい。素人はこういうのをすぐ捨てるが、野菜の皮や芯の近くには、一番強烈な旨味と栄養が詰まってるんだ」
俺は木箱を担ぎ上げ、ニヤリと笑った。
「今日はこいつらを全部まとめて、極上の春巻きにしてやるぞ!」
俺は宿場の厨房を借り、もらった屑野菜を限界まで細かく千切りにしていった。
硬い芯も皮も、細かく刻んでしまえば全く気にならない。むしろ、その歯ごたえが最高のアクセントになる。
「熱した中華鍋にごま油を引き、ニンニクと生姜の香りを出す。そこへ屑野菜を全部ぶち込んで、強火で一気に炒める!」
ジャァァァァッ!!
野菜の水分が飛んできたところで、醤油、酒、砂糖、そしてたっぷりのオイスターソースで濃いめに味をつける。
「そして、ここが春巻きの命だ。たっぷりの水溶き片栗粉を入れて、餡に強めのトロミをつけるんだ」
炒めた具材が、トロトロで艶やかな『餡』に変わる。
「これをバットに広げて、完全に冷ます。熱いまま皮で巻くと、湯気で皮が破れちまうからな」
しっかりと冷えた餡を、インベントリにあった春巻きの皮で空気が入らないようにキッチリと巻いていく。
そして、160度の低温の油に投入し、じっくりと揚げてから、最後に火を強めて表面をカリッと仕上げた。
「完成だ! 特製廃棄野菜の極上パリパリ春巻きだ! 辛子と酢醤油を少しつけて食ってみな」
『ニャアアアッ! 黄金色で美味しそうニャ!』
クロが、熱々の春巻きに勢いよく噛み付いた。
パリッ……ザクゥゥッ、トロォォォッ!!
『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!!』
クロの瞳孔が丸くなり、ヒゲがピンと直立する。
『な、なんだこの皮の音は!? 噛んだ瞬間にパリッパリに砕けて、中からアツアツでトロトロの餡が大洪水みたいに溢れてくるニャ! お肉なんて入ってないのに、野菜のすっごい甘みとオイスターソースのコクが爆発してるニャァァ!』
シロも嬉しそうに羽を揺らしながら、小さく切った春巻きを啄む。
『見事な再構築です。廃棄されるはずだった皮や芯の強い繊維質が、細切りにされることで完璧な食感のアクセントとなり、オイスターソースの旨味を余すところなく吸い込んでいますね』
俺も、辛子をたっぷり塗った春巻きを口に放り込み、すかさず冷えたビールを流し込んだ。
「……っっかぁぁぁ!! うんまァァァッ!!」
パリッとした皮を破ると、オイスターソースの濃厚な旨味をまとった野菜の甘みが口いっぱいに広がる。
大根の皮やブロッコリーの芯のシャキシャキとした食感がたまらなく心地よく、辛子のツンとした辛味が油の重さを綺麗にリセットしてくれる。
「プハァッ……! 屑野菜だけでここまでビールが進むオカズになるんだ。料理の工夫ってのはすげぇな」
加工ギルドを停止させた配管の詰まりは、設備屋のワイヤートーラーによって無事に解消された。
大量に出た廃棄野菜は極上の春巻きへと姿を変え、俺たちはサクサクの音を響かせながら、大満足の宴を続けるのだった。
【第135話:完】
収穫: 加工ギルドの排水管修理、大量の廃棄野菜(皮や芯)。
知識更新: ディスポーザーに繊維質の強い野菜クズを流すと、刃に絡まって致命的な詰まりを起こす。春巻きの餡は片栗粉で強めのトロミをつけ、完全に冷ましてから巻くことで、揚げる時に皮が破れずパリッと仕上がる。
現在の気分: パリッとした皮とトロトロの熱い餡。辛子酢醤油の酸味がたまらない。残った屑野菜の餡は、明日の朝に白飯の上に乗せて中華丼にしてやろう。




