↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんは異世界を気ままに一人旅することに決めました  作者: おのののののの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
132/136

132話 新設倉庫の結露と、霧幻豚の極厚二度揚げとんかつ

 温泉街テルマでしっかりと疲れを癒やした俺たちは、街道をさらに進み、農作物や交易品が集まる活気ある商業都市『セレス』へと到着した。

 だが、街の広場にある巨大な倉庫の前では、商人たちが頭を抱えて座り込んでいた。


「ああ、おしまいだ……。せっかく新しく建てた鉄屋根の立派な大倉庫なのに、なぜか中が水浸しで、最高級の小麦が全部カビちまった!」

「雨なんて一滴も降っていないのに、天井からポタポタと水が落ちてくるんだ。きっと、古い木造倉庫を取り壊したせいで、木の精霊が泣いて呪いをかけているに違いない……」


 商人たちが嘆き悲しむ様子を見て、俺は少し首を傾げた。

「雨漏りじゃないのに天井から水が落ちてくる、ね。ちょっと中を見せてもらってもいいか?」


 俺たちが薄暗い倉庫の中に入ると、ムワッとした異常な湿気が体を包み込んだ。

 そして確かに、外はよく晴れているというのに、高い鉄製の天井からはポタポタと水滴が絶え間なく落ちてきている。


『……マスター。この倉庫内に精霊の呪いや魔術的な干渉は感じられません。ですが、空気がひどく淀んでいて、息苦しいほどの湿気ですね』

 白き神の鳥であるシロが、俺の肩で羽を少し膨らませながら、透き通るような声で状況を伝えてくれた。


 その直後、頭の中にナビの無機質な音声が響く。


【ナビ:倉庫内の空気環境をスキャン。室温と外部の鉄板屋根の温度差により、屋根の裏側で空気中の水蒸気が飽和状態(露点)に達しています。重度の結露(けつろ)が発生しています】


「やっぱりな。精霊の呪いなんかじゃない。ただの結露だ」

 俺は倉庫の入り口に立つ商人たちを振り返り、優しく声をかけた。


「冬に暖房をつけてお湯を沸かすと窓に水滴がつくだろう? あれと同じことさ」


 俺は天井を指差した。

「この倉庫は頑丈さを求めて『鉄の屋根』にしたんだろうが、鉄は熱しやすく冷めやすい。夜になって外の空気が冷えると、屋根の鉄板もキンキンに冷える。そこに、昼間に温められた倉庫内の湿った空気がぶつかると、空気が冷やされて抱えきれなくなった水分が水滴になって現れる。それが雨みたいに降ってきてるんだよ」


 前世の建築現場でも、断熱を怠った鉄骨のプレハブ小屋なんかでよく起きるトラブルだ。

 だが、それにしても湿気が異常すぎる。ただの結露にしては量が多すぎるのだ。


 俺が倉庫の奥へと足を踏み入れると、暗がりの中で「ブヒィィィッ!」という鳴き声と共に、全身から濃密な霧(水蒸気)を噴き出している巨大な豚の魔物が現れた。


「こいつは『霧幻豚(むげんとん)』か。湿気の多い暗がりを好む魔物だな。こいつが吐き出す霧のせいで、倉庫内の湿度が限界突破してたってわけだ」

『ニャハハ! 豚肉が向こうからやってきたニャ!』


 霧幻豚が、目くらましの高圧スチームを噴き出しながら突進してくる。

『この程度の霧、神風の敵ではありませんね』

 シロが純白の翼を大きく羽ばたかせると、一瞬にして倉庫内の霧が吹き飛ばされ、視界がクリアになった。

 すかさずクロが足元を氷の魔法で滑らせ、俺が特大パイプレンチを振り下ろして、見事に極上の『豚肉』を確保した。


「さて、原因の魔物は退治した。あとは倉庫の結露対策だな」


 俺はインベントリから、背負い式のタンクとスプレーガンを取り出した。

「結露を防ぐには、冷たい外気と暖かい内気の間に壁を作ってやるのが一番だ」


 俺はスプレーガンを引き、天井の鉄板の裏側に、モコモコと膨らむ発泡ウレタンを断熱材として隙間なく吹き付けていった。これで鉄板の冷たさが倉庫内の空気に直接伝わることはない。

 さらに、壁の上部と下部に換気扇(ベンチレーター)を取り付け、空気の流れを作って湿気がこもらないようにした。


「これで完璧だ。もう二度と天井から水が降ってくることはないよ」

「おおおっ……! 魔法のような手際だ! 旅人さん、本当にありがとう!」

 商人たちが安堵の涙を流して喜んでくれた。


「さて、仕事の後は待ちに待ったメシの時間だな!」


 俺は倉庫の裏の広場でカセットコンロを取り出し、手に入れた霧幻豚の肉を解体した。

 見事なサシが入った分厚いロース肉のブロックだ。


「今日はこいつを、厚さ3センチの『極厚とんかつ』にしてやる。だが、これだけ分厚い肉だと、普通に揚げたら中まで火が通る前に外の衣が真っ黒に焦げちまうんだ」


 俺は肉の筋を丁寧に切り、塩コショウをしてから、小麦粉、卵、パン粉をしっかりとまぶした。

 鍋にたっぷりの油を注ぎ、温度計でまずは160度の低温に設定する。


「分厚いカツの鉄則、その一。低温でじっくり揚げるだ」

 静かな音を立てる油の中に極厚の肉を沈め、数分間揚げる。衣がまだ薄いキツネ色の状態で、俺はカツを油から引き上げた。


『ニャ!? ミツトメ、まだお肉の中が赤いんじゃないかニャ? もう食べるのかニャ?』

 クロが不思議そうに首を傾げる。


「いや、ここからが分厚い肉を最高に美味くする最大の魔法……余熱調理だ」

 俺は油を切ったカツを網の上に乗せ、そのまま3分間放置した。


「油から出しても、肉の表面は熱い。その熱が、ゆっくりと時間をかけて肉の中心へと伝わっていく。油の中で無理やり火を通すんじゃなく、肉自身の熱で優しく火を入れるから、パサパサにならずにジューシーに仕上がるんだ」


 3分後。休ませたカツを、今度は190度に熱した高温の油にドボンと投入する。

 ジュワァァァァァッ!!


「仕上げの二度揚げだ! 高温で一気に表面の水分を飛ばすことで、衣がサックサクになり、余分な油も落ちるんだよ!」

 約1分後、見事な黄金色に輝く極厚とんかつを引き上げる。


 ザクッ、ザクッ。

 包丁を入れると、衣の小気味よい音と共に、ほんのりと桜色を残した完璧な火入れの断面から、キラキラと輝く肉汁が溢れ出してきた。


「完成だ! 特製『霧幻豚の極厚二度揚げとんかつ』だ!」


『ニャアアアッ! 衣のいい匂いニャ!』

 クロが、すり鉢で擦った白胡麻と濃厚なソースをたっぷりかけた分厚いカツに噛み付く。


 ザクッ……ジュワァァァァッ!!

『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!!』


 クロの瞳孔が限界まで開き、全身の毛がブワッ!と逆立った。

『な、なんだこのサクサク感と柔らかさは!? 衣がすっごく香ばしいのに、中のお肉は歯がいらないくらい柔らかいニャ! 噛むたびに、甘い脂と肉汁が大洪水みたいに溢れてきて、ソースの酸味と絡み合って最高ニャァァ!』


 シロも嬉しそうに羽を揺らしながら、小さく切ったカツを上品に啄む。

『見事な温度管理と熱伝導の計算ですね。余熱を使ったことでタンパク質の凝固が緩やかに進み、肉の旨味である水分が一滴も外に逃げていません。まさに至高の火入れです』


 俺も、ソースをたっぷりつけたカツを口に放り込み、大盛りの白飯を勢いよく掻き込んだ。

「……っっかぁぁぁ!! うんまァァァッ!!」


 ザクッとした衣の食感の直後、霧幻豚の濃厚で甘い脂が口いっぱいに広がる。すり胡麻の香ばしさとソースのコクがそれを引き立て、白飯が無限に消えていく。

 付け合わせのシャキシャキの千切りキャベツが口の中をさっぱりとさせ、すぐさま次の一口へと俺を誘うのだ。


「プハァッ……! やっぱり、仕事の後の極厚とんかつと白飯は、全人類を幸せにするな」


 新設倉庫を悩ませた結露問題は、設備屋の知識による断熱と換気の基本によって見事に解決された。

 活気を取り戻した商業都市の片隅で、俺たちはサクサクの極厚とんかつを心ゆくまで堪能し、また新たな旅への活力を養うのだった。


【第132話:完】

 収穫: 倉庫の結露対策完了、霧幻豚の極厚ロース肉。

 知識更新: 鉄板屋根の結露は、断熱材(ウレタンフォーム)の吹き付けと換気扇の設置で温度差と湿気を解消すれば直る。分厚いとんかつは低温揚げ→網の上で余熱調理→高温でサッと二度揚げの工程を踏むことで、絶対に失敗しない極上のジューシーさに仕上がる。

 現在の気分: ザクッとした衣と溢れる肉汁。これに炊きたての白米があれば、何も言うことはない。キャベツの千切りもいい仕事をしてるぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。