128話 温室村のスケール障害と、特大エビの極上特製マヨネーズ和え
鳴き風の峡谷を越えた俺たちは、見渡す限り砂と岩が広がる荒野のオアシスに築かれたグラスバレーへと到着した。
ここは村全体が巨大なガラスドームで覆われており、本来なら一年中快適な温度が保たれた楽園のような場所らしいのだが……。
「……あ、暑い。まるで真夏のサウナじゃないか」
俺は額の汗を拭い、たまらず上着を脱いだ。
『ニャァァ……暑いニャ。毛皮を着てる我には地獄ニャ。干からびてミイラになっちまうニャ……』
クロが舌を出し、日陰の石畳にペターッと張り付いている。
『……マスター。このドーム内の気温、異常に上昇しています。私の羽も熱を溜め込んでしまい、少し息苦しいですね』
シロも、美しい羽を少し浮かせて体温を逃がそうと苦労していた。
村の広場へ向かうと、村長をはじめとする住民たちが、巨大な青い石柱を囲んでへたり込んでいた。
石柱の表面には、鍾乳洞の岩のように真っ白でカチカチの分厚い殻がびっしりとこびりついている。
「旅の方、ひどい暑さで申し訳ない。この村を冷やしてくれていた氷精霊の御柱の魔力が、とうとう尽きてしまったようなんじゃ……」
村長が嘆くように言う。
俺が白く変色した石柱に近づくと、頭の中にナビの無機質な音声が響いた。
【ナビ:冷却塔の表面をスキャン。魔力の低下はありません。しかし、表面に厚さ数センチに及ぶカルシウム・マグネシウムの結晶化を確認。これにより熱交換率が80%低下しています】
「なるほどな。村長さん、こいつは魔力が尽きたんじゃない。ただのスケールだ」
俺は腕を組み、分厚い白い殻をコンコンと叩いた。
「ビルや大型施設のエアコンには冷却塔ってのがある。水を蒸発させて熱を奪う仕組みだが、水の中のミネラル分が蒸発せずに残って結晶化すると、こういうカチカチの石になっちまうんだ。このスケールが分厚い断熱材の役割を果たして、柱の冷気が外に伝わらなくなってるんだよ」
前世で建築物環境衛生管理技術者(ビル管)の勉強をした時、冷却水の水質管理とスケール障害については徹底的に頭に叩き込んだ。
「石みたいに硬い水垢は、力任せに削ると本体を傷つける。こういう時は酸の力で溶かすのが設備屋の基本だ」
俺はインベントリから、業務用の酸性スケール洗浄剤を取り出し、柱の表面にたっぷりと散布した。
シュワシュワ……と音を立てて、白い殻が少しずつ溶けて柔らかくなっていく。
「そこへ、この高圧洗浄機で一気に吹き飛ばす!」
ババババババッ!!
高圧の水流を当てると、酸で脆くなったスケールがボロボロと崩れ落ち、中から透き通るような美しい青い氷結晶の柱が姿を現した。
その瞬間、柱から凄まじい冷気が解放され、サウナのようだったドーム内に、冷たく心地よい風が吹き抜けた。
「お、おおおっ! 涼しい! 御柱の魔力が復活したぞ!」
村人たちが歓喜の声を上げる。
だが、剥がれ落ちたスケールの塊の中から、ゴソゴソと巨大なハサミを持った魔物が這い出してきた。
冷たい水とミネラルを好む魔物――冷泉特大エビだ。スケールの層の中に巣食っていたらしい。
「シロ、クロ! 飯の邪魔をする奴は片付けるぞ!」
『涼しくなったので本来の動きができます。雷撃!』
『ニャハハ! 暑苦しい殻ごと凍らせてやるニャ!』
シロの雷とクロの氷魔法が特大エビの動きを止め、俺がパイプレンチで硬い殻を的確に砕いて、見事に食材として確保した。
「さて、ドームも涼しくなったし、最高のエビ料理をご馳走してやるよ」
俺は手に入れた冷泉特大エビの殻を剥き、透明感のある極太の身を取り出した。
「いいか。エビをプリプリの食感にするには、この下処理が命だ」
俺はボウルにエビの身を入れ、そこにたっぷりの片栗粉と塩、少量の水を揉み込んだ。
「片栗粉の細かい粒子がエビの表面のシワに入り込み、臭みや汚れを完璧に吸着してくれる。これを水で洗い流せば、信じられないくらい臭みのない、透き通ったエビになるんだ」
綺麗に洗ったエビの水分を拭き取り、卵白と片栗粉で薄く衣をつける。
「そして油でサッと揚げる。エビは火を通しすぎるとすぐに硬く縮んじまうから、高温で短時間が鉄則だ」
ジュワァァァァッ!!
衣がサクッと揚がったエビを油から引き上げ、いよいよ特製ソースと絡める。
「ソースは、たっぷりのマヨネーズにレモン汁。そして世界樹のシロップを練り込む!」
酸味のあるマヨネーズに、世界樹のシロップの暴力的なまでに深く高貴な甘みが加わり、究極の甘酸っぱい特濃ソースが完成する。
そこに揚げたてのエビを放り込み、ボウルの中でザックリと和えた。
「完成だ! 特製冷泉特大エビの極上エビマヨ世界樹シロップ風味だ!」
『ニャアアアッ! 甘酸っぱくていい匂いニャ!』
クロが、マヨネーズがたっぷり絡んだ極太のエビに噛み付く。
サクッ……プリィィィッ!!
『――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!!』
クロの瞳孔が限界まで開き、ヒゲがピンと伸びた。
『な、なんだこのエビの食感は!? 噛んだ瞬間に弾け飛ぶくらいプリップリニャ! そしてこのソース……! マヨネーズのコクとレモンの酸味を、シロップのすっごい甘さが完璧に包み込んで、無限に食べられる味になってるニャァァ!』
シロも嬉しそうに羽を揺らす。
『見事な下処理です。片栗粉による洗浄効果で臭みが一切なく、純粋なエビの甘みだけが引き立っています。ソースとの絡み具合も絶妙ですね』
俺も、極太のエビマヨを口に放り込んだ。
「……うんまァァァッ!」
サクッとした薄衣を破ると、弾力のあるエビの旨味が弾ける。
マヨネーズの酸味を世界樹のシロップのコクがまろやかにまとめ上げ、一口食べればビールや炭酸水が止まらなくなる、最強のオカズに仕上がっていた。
「プハァッ……! 涼しい場所で食うエビマヨと冷たいエール。生き返るな」
温室村の熱中症の危機は、ビル管資格で学んだ冷却塔のスケール除去知識によって見事に解決された。
心地よい冷気に包まれたガラスドームの中で、俺たちは甘酸っぱいエビマヨをアテに、最高の休息を満喫するのだった。
【第128話:完】
収穫: 温室村の冷却機能復旧、冷泉特大エビ。
知識更新: 冷却設備にこびりつく白い石は、酸性洗浄剤で溶かして高圧洗浄で落とすのが正解。エビは片栗粉と塩で揉み洗いすることで、汚れと臭みが取れて究極のプリプリ食感になる。
現在の気分: エビマヨの甘酸っぱさとプリプリ感は、疲れた体にしみわたる。世界樹のシロップ、調味料として有能すぎるな。




