120話 侵略の巨竹林と、鉄槍筍と豚バラの極濃オイスター炒め
神の庭の巨大なカルデラを背にして、俺たちは新たな大陸の地を踏みしめていた。
なだらかな斜面を下りきった先で俺たちを待ち受けていたのは、見渡す限り青々とした竹林だった。
「随分と立派な竹だな。日本の孟宗竹より二回りくらい太いんじゃないか?」
俺が竹の幹をコンコンと叩いていると、クロが鼻をクンクンと鳴らした。
『ニャ! ミツトメ、あっちから人間の匂いと……なんだか困ってるような声が聞こえるニャ』
クロの案内に従って竹林を少し進むと、開けた場所に十数軒の木造家屋が並ぶ小さな集落が現れた。
だが、その集落の光景は異様だった。家々の床下や土壁を突き破るようにして、黒光りする巨大なタケノコが無数に生えまくっていたのだ。
ちょうど俺たちが集落に入った瞬間。
メキメキッ……ドバァァンッ!!
一軒の民家の床板を派手にぶち破り、巨大なタケノコが顔を出した。
「ああああっ! また床が! 今日だけで三回目だぞ!」
村人たちが頭を抱えて座り込んでしまう。
【ナビ:マスター、あの植物は凄まじい成長速度を持っています。地下の根から次々と新芽を出し、物理的な障害物を貫通して成長しているようです】
「旅の方、見苦しいところを見せたな」
村長らしき初老の男が、ため息をつきながら近づいてきた。
「この鉄槍竹は、春になると一日で数メートルも伸びるんじゃ。しかも先端が鉄のように硬くてな、家を建てる場所を少しでも間違えると、あっという間に床や壁を串刺しにされてしまう。切っても切っても生えてくるし、村を捨てて逃げるしかないかもしれん……」
「なるほどな。雑草や竹の根絶やしが難しいのは、目に見える地上部分だけをどうにかしようとするからだ」
俺は腕を組み、ニヤリと笑った。
「竹ってのはな、地下で地下茎っていう根っこを縦横無尽に張り巡らせて、そこからタケノコを出すんだ。だから、村の周りにその地下茎が侵入してこないように物理的な壁を埋め込んでやればいい」
俺はインベントリから、キャタピラ式の小型重機――自走式トレンチャーと、分厚い黒色の高密度防竹シートのロールを取り出した。
「いいか、竹の地下茎は意外と浅い場所(地下30〜50センチ)を這って進む。だから、村をぐるりと囲むように深さ1メートルの溝を掘り、この貫通不可能な特殊ポリマー製の防根シートを垂直に埋め込むんだ!」
俺はトレンチャーのエンジンを全開にし、チェーンソーのような刃で村の周囲の地面をズババババッ!と一直線に掘り進めていく。
できた深い溝に防竹シートを落とし込み、土を被せてしっかりと踏み固めた。
「これで完成だ。鉄槍竹の地下茎が村に向かって伸びてきても、このツルツルのシートにぶつかってUターンしていく。もう村の床下からタケノコが生えてくることは絶対にないぜ」
「お、おおおっ! なんという見事な土木作業! これで夜も安心して眠れますじゃ!」
村人たちが歓喜の声を上げ、俺の周りに集まってきた。
「さて、仕事の後は報酬の時間だな」
俺は、村人たちが切り落として山積みにしていた、床を突き破るほど硬い鉄槍筍をいくつか貰い受け、皮を剥き始めた。
『ニャア……ミツトメ、そのタケノコかじったらエグくて舌がピリピリしたニャ』
クロが不満そうにペッペと舌を出している。
「当たり前だ。掘り立てのタケノコには強烈なアクが含まれてる。こいつを抜かないと、エグくて食えたもんじゃない」
俺は大きな鍋にたっぷりの水を張り、タケノコを入れる。
そこへ、インベントリから取り出した米ぬかを一握りと、鷹の爪を一本放り込んだ。
「米ぬかに含まれるカルシウムがえぐみ成分と結合して中和し、酵素が硬い繊維を柔らかくしてくれる。唐辛子は殺菌と味の引き締め効果だ。これでじっくりと煮立てて、そのまま冷ますんだ」
数時間後。
しっかりアクが抜けたタケノコを水洗いして切ってみると、包丁がスッと入り、トウモロコシのような甘い香りが漂ってきた。
「よし、完璧な下茹でだ。こいつを最高のオカズに仕上げるぞ」
熱した中華鍋に、分厚くスライスした豚バラ肉を投入する。
ジュワァァァァッ!
豚の脂がたっぷりと溶け出したところに、乱切りにしたタケノコとおろしニンニクを加え、強火で一気に炒め合わせる。
タケノコの表面に豚の脂がコーティングされ、テリテリに輝き始めたところで、味の決め手だ。
「ここでオイスターソースと、少量の醤油、酒、砂糖を回し入れる!」
ボワァァァァッ!!
鍋肌でオイスターソースが焦げ、濃厚な海の旨味とニンニク、豚肉の香ばしさが混ざり合った、破壊的なまでの飯テロ臭が竹林に響き渡った。
仕上げに香り付けのごま油を数滴垂らし、皿に豪快に盛り付ける。
「完成だ! 特製鉄槍筍と極厚豚バラのニンニクオイスター炒めだ!」
『ニャアアアッ! 匂いだけでご飯が三杯いけるニャ!』
クロがたまらず、熱々のタケノコと豚肉を一緒に口に放り込んだ。
シャキィィッ……ジュワァァァァッ!!
――――ッッ!! ニャ、ニャムゥゥゥゥッ!!
クロの瞳孔が開き、尻尾がピンッと直立した。
『な、なんニャ、このタケノコの食感!? 床を破るほど硬かったはずなのに、シャキシャキとした心地よい歯応えになってるニャ! しかもエグみが全くなくて、ほんのり甘いニャ!』
シロも羽をパタパタさせながら分析する。
『ピロロロッ! 見事なアク抜きです。さらに、豚バラの濃厚な動物性の脂と、オイスターソースの旨味が、タケノコの繊維の隙間に完璧に染み込んでいます!』
俺も、タケノコと豚肉を一緒に口に放り込み、ホカホカの白飯を掻き込んだ。
「……っっかぁぁぁ!! うんまァァァッ!!」
シャキッとしたタケノコの心地よい歯触りの直後、豚バラの強烈な脂の旨味と、オイスターソースの濃厚なコクが口の中を支配する。
アクを抜かれたタケノコは、まるで極上のスポンジのように旨味ソースを吸い込んでおり、白飯を無限に泥棒する最強のオカズに化けていた。
「こりゃあ、たまらんな。いくらでも食えちまう」
厄介者だった鉄槍筍は、設備屋の防竹シートによって集落の脅威から外され、適切な下処理によって極上の食材へと生まれ変わった。
青々とした竹林の夜は、オイスターソースの焦げる暴力的な匂いと、満足げに白飯を掻き込む俺たちの咀嚼音と共に更けていくのだった。
【第120話:完】
収穫: 竹林の集落の防衛、鉄槍筍の確保。
知識更新: 竹の被害を防ぐには、周囲に深さ1mほどの溝を掘り「防竹シート」を埋め込んで地下茎を遮断するのが一番。タケノコのアク抜きは、米ぬかと唐辛子と一緒に煮ることで科学的にエグみを中和できる。
現在の気分: シャキシャキのタケノコに豚バラ肉の脂、そしてオイスターソース。中華の王道だが、これほど白飯に合うオカズもそうそうない。大満足だ。




