121話 水没都市の大渋滞と、豚肩ロースブロックと黄金卵の極上スパイス角煮
竹林の集落を後にした俺たちは、豊かな水脈に恵まれた湖畔の都市『アクアリア』へとたどり着いた。
だが、街の様子はおかしい。本来なら美しい石畳が広がるはずの市街地が、膝の高さまで完全に水没していたのだ。
「こいつは酷いな。大規模な水漏れか?」
『ピロロロッ。マスター、上空から神眼で確認しましたが、湖から街を抜けて川へ続く古代の排水ゲートが完全に詰まっています。水が排出されず、街へ逆流しているようです』
白き神の鳥であるシロが、パタパタと羽ばたきながら俺の肩に降り立って報告してきた。
【ナビ:地下水門の構造をスキャン。長年の流木とヘドロの蓄積により、物理的な閉塞状態を確認。ゲートの開閉機構も重度のサビにより完全に固着しています】
頭の中に直接響くナビの分析結果を聞き、俺は顎を撫でた。
「なるほどな。配管でも排水溝でも、水回りのトラブルの9割は詰まりだ。そして、それを物理的にぶち抜くのが設備屋の仕事だ」
俺は水没した地下水門へと向かい、巨大な鉄のゲートを確認した。ナビの言う通り、長年のサビと流木がガッチリと噛み合い、手で押したくらいでは微動だにしない。
だが、現場の知恵は単純なパワーを超える。俺はインベントリから手動式巻き上げ機と、スプレー型の浸透防錆潤滑剤を取り出した。
サビついたギアの隙間に潤滑剤をたっぷりと吹き付け、天井の強固な梁と水門を太いチェーンで繋ぐ。
「滑車と歯車のてこの原理を組み合わせたチェーンブロックなら、人間の腕力だけでも数トンの重さを軽々と持ち上げられるんだよ!」
俺がチェーンをガラガラと引き始めると、潤滑剤が浸透した水門が「ゴキッ……ゴゴゴゴッ!」と重い音を立てて持ち上がり始めた。
ゲートが開いた瞬間、街に溜まっていた水が凄まじい勢いで排水路へと吸い込まれ、あっという間に市街地の水が引いていった。
水没から救われた街の人々は歓喜し、お礼としてこの湖畔の特産品である黄金湖の新鮮な卵を大量にプレゼントしてくれた。
「よし、極上の卵が手に入ったな。今日は俺のインベントリに眠っている豚肩ロースブロックと、世界樹のスパイスを使って、最強の煮込み料理を作るぞ!」
俺は分厚い豚肩ロースブロックを大きめの角切りにし、熱したフライパンで表面にしっかりと焼き色をつける。
「肩ロースは赤身と脂身のバランスが最高だが、筋が多い。だからこそ、表面を焼いて旨味を閉じ込めた後、弱火でじっくり煮込んでコラーゲンをゼラチンに変えるんだ」
深い鍋に豚肉を移し、醤油、酒、砂糖、そして先日手に入れた世界樹のスパイスを放り込んでコトコトと煮込む。
その間に、もらった黄金湖の卵を茹でる。
「沸騰したお湯に卵を入れ、正確に6分30秒。その後すぐに氷水で急冷する。こうすることで、白身はプリプリ、黄身はトロトロの完璧な半熟卵になる!」
煮上がった豚肩ロースの鍋の火を止め、そこへ殻を剥いた半熟卵を静かに沈めて、余熱で味をじっくりと染み込ませる。
「完成だ! 特製豚肩ロースブロックと黄金半熟卵の極上スパイス角煮だ!」
『ニャアアアッ! お肉が真っ黒に輝いてるニャ!』
クロが、熱々の豚肉と卵を一緒に口に放り込む。
トロォォォッ……ジュワァァァァッ!!
『――――ッッ!! ニャムゥゥゥゥッ!! な、なんだこの柔らかさは!? 分厚いブロック肉だったのに、舌の上でホロホロと崩れて脂の甘みが爆発するニャ!』
クロが尻尾をピンと立てて絶叫する。
『そしてこの卵! 味が染み込んだ白身を噛み破ると、中から黄金色の黄身がトロリと溢れ出して、お肉の脂と世界樹のスパイスの高貴な香りを完璧に包み込むニャァァ!』
シロも嬉しそうに羽を揺らす。
『ピロロロッ! 素晴らしい調理工程です。スパイスの芳醇な香りが、豚肉特有の重さを消し去り、洗練された一皿に昇華させていますね』
俺も一口食べ、豚肩ロースの圧倒的な旨味と半熟卵のコクに思わず息を吐いた。
「……うんまァァァッ!」
スパイスの香りが豚肉の脂と見事に調和し、無限に白飯が食える最強のオカズが誕生していた。
水が引いて活気を取り戻した街の夜風を感じながら、俺たちは極上の角煮とビールの宴を存分に楽しむのだった。
【第121話:完】
収穫: 水没都市の復旧、黄金湖の卵。
知識更新: 重い水門や重量物はチェーンブロックを使えば人力で持ち上がる。豚肩ロースブロックは焼き色をつけてから煮込むと至高の角煮になり、半熟卵は6分30秒の茹で時間が絶対の正義である。
現在の気分: 豚の脂と半熟卵の黄身の融合は、もはや犯罪的な美味さだ。残ったタレは明日の昼飯に白米にかけて食おう。




