新しい生活
めでたく、真悠の家の猫となったマルは、缶詰と真悠の愛情ですっかり元のふわふわな毛並みに戻っていった。
マルとの生活は、今までの1人で寂しかった真悠の心に癒しを与え、充実した日々となっていくはずだった……しかし、試練は訪れる。
トイレの躾をどうしたら良いのか分からない。
そんなの試練でもなんでもないよ!と思うであろうが、真悠にとっては大試練この上ないのだ。
帰宅後に、部屋を見てカーテンの裏、タンスの脇、至る所におしっこやらあるのは正直ガッカリさせられる。 休みの日に家に居る時に粗相されると、さらにガッカリである。
今日も、帰宅するとテレビの裏、カーテンの所にシミができていた。
「はぁ……マルちゃん……」
マルは、真悠に与えられたご飯にがっついていたが、真悠のため息が聞こえたのか、まるで心配するかのように足元にすり寄ってくる。
今日こそは怒らないと!と思い、キッとマルを見つめるが、翡翠色のクリッとした瞳に見つめられ頭を傾げられると、可愛すぎて何も言えなくなってしまう。
「もぅ、ずるいなマルは。
マルが人の言葉が分かって話せれば良いのになぁ……」
そんな事、化け猫でもない限り無理だとわかっていてもついそんな事を考え、ため息をついてしまう。
マルはジッと真悠を見つめていたが、食べかけのご飯を思い出したのかキッチンへと戻っていった。
ご飯を食べた後、マルはいつもの様に真悠の膝の上に座りくつろいでいたが、ベットに入る頃になるとカーテンの裏に行き外をしきりに見つめていた。
「マールー?寝るよ?マルちゃん?」
マルは呼ばれても、ジッと外を見つめていて、結局、真悠が眠りについてもマルは、ベットの中に入ってはこなかった。
その次の朝に、事件は起きた。
今日は仕事は休みだったが、いつもの癖で目覚ましをかけていた真悠は、いつもの様に手だけで目覚ましを止め、マルが寝ている方へ顔を向けふわふわした毛に顔を埋めた……はずだった
ん?なんか……固い?
うっすら目を開けると、真悠の目の前には見ず知らずの美少年が寝ている。
驚いて飛び起き、ベットから落ちてしまった真悠に、美少年は寝ぼけまなこをこすりながら真悠を見て笑う。
「おはよう、真悠。
ところで、なんで床に転がってるの?新しい遊び?」
「だ!!だれ!?」
知らない人が、自分と同じベットに居るのだ、ビックリするよりも怖くて腰が抜け動けない。
そんな真悠を見て、美少年はキョトンとして言った。
「僕、マルだよ?だって、真悠が(人の言葉が分かって話せたら良いのに)って言ったから、僕は神様にお願いしたんだ」
何言ってんの?この子は
真悠じゃなくても、大抵の人はそんな不思議な事を、ハイそうですかと受け入れられるわけがない。
しかしマルは、猫である。
猫だから、そんな真悠の心情など理解できるわけがなかった。
「真悠、僕、お腹すいたょ…真悠がいつもカンカンって叩くやつが食べたいなぁ」
真悠は、マルにいつもはキャットフードをあげているが、気分がいい時には、特別に缶詰をカンカン鳴らしてあげているので、マルは、カンカンという音がすると、どこに居てもすっ飛んで来るのである。
真悠は、喋り続けている美少年をジッと見つめ、黙って猫じゃらしを掴むとポイとキッチンの方へ放り投げた。
すると、猫じゃらし目がけ真悠を飛び越えキッチンへ走って行き、真悠の元へ猫じゃらしをくわえて持ってきたのである
「何?何?ごはんの前に遊ぶの?」
男の子は、真悠をキラキラした瞳で見つめたその瞳は、いつも真悠が見ているマルの瞳と同じだった。
真悠は、男の子の背中に目をやると、×の傷があるのを確認した。マルを助けた時に、ノラ猫に×の傷を付けられてしまい、その傷が消えずに残っていたのだ。
しかし、それを見てもなかなかこの男の子がマルという事実を受け止められるわけがないが、あまりにも真っ直ぐな瞳で見てくるので、真悠は受け止めざるを得なかった。
そうして、奇妙なマルと真悠の生活が、新たに始まる。




