再び
何かを忘れている感覚にも慣れ、真悠はマルと出会う前の生活にすっかり戻っていた。
季節は、早いもので11月。
去年の今頃は、珍しく雪が降ったんだっけ
そう思いながら空を仰ぐと、少し胸が鳴る。
また、いつものやつかと真悠は胸に手を当てるのだが、なぜかその後は、愛しく幸福な気分に包まれるのだ。
「よし!今日も頑張るぞー!」
真悠は、仕事場まで一気に駆け出す。
仕事場に着くと、みんなが色めき立っている。
「ねぇ、美香ちゃんどうしたの?」
「あ、真悠さん!実は、下の階のメンズ服専門フロアに新しいお店が入ったんですけど、そこの店長がまたすっごいイケメンで!!今こっちのフロアに挨拶にきてるらしいんですよ」
「へぇ……」
ミーティングが始まり、開始早々イケメンさんの紹介が始まると、まるで芸能人でも見るかのようにキャアキャアと女の子たちが騒ぎ出す。
黒縁のメガネをかけ、服屋の店長らしくオシャレな出で立ち、スッと背が高く、黒髪でパーマをかけているモデルの様な人。
以前の真悠だったら、一緒にキャアキャア騒いでいたと思うが、今の真悠にはまったく色恋に対して興味が無くなってしまったようだった。
仕事が終わり、アパートに帰宅するやいなや真悠はテレビを付ける。
とくに、見たい番組があったわけではないが、音がないと何か寂しい気持ちになるため、帰宅するととりあえずテレビを付けてしまう癖が付いてしまっていた。
テレビでは、冷え込んできて今から雪が降るらしい。
「今年も、11月に雪降るんだ……」
ドクンと心臓が高鳴る。
胸に手をやり、幸福感に浸っていると外から猫の凄いうなり声が聞こえ、驚いて外へ出る。
そこには、野良猫に襲われている猫……ではなく、今朝ミーティングで挨拶をしていたイケメンだった。
「大丈夫ですか?
また、お前なの?!シッ!!シッ!!あっち行きなさい」
また……?あれ?なんか、こんな事前にもあったっけ……?
ドクンといつもより大きく心臓が高鳴り、真悠は胸を押さえて、座り込む。
「どうしたんですか!!」
「……大丈夫、たまになるんです。
それよりも……ここで何してらっしゃるんですか?猫に人間が襲われるなんて事ありえませんよ」
彼は、笑いながら情けなそうに頭をかく。
「いやぁ、面目ない。
ここに今日から越してきたんですが、越してきた早々嫌われてしまったらしい……」
そこでようやくお互いに目を合わせると、メガネの奥に潜むキレイな翡翠色の瞳に、なぜか真悠の心が高鳴る。
そこへ、まるであつらえたかのように雪がひらひらと舞いだした。
ツーッと一筋の涙が溢れると、真悠の頭の中に今まで忘れていたマルとの思い出が流れ込んでくる。
目の前に居る彼は、髪の色こそ違えど、マルそのものだった。




