出会い
誰かが僕をを起こしている。僕の体を揺さぶっている。誰だろうか?シズかな、アキ先輩かな、はたまたライとか?
なんにせよ、起きよう。
重たい瞼を押し上げると、目の前には、知らない人の顔。
「う、わあああああ!?」
「おお!?おい、落ち着け!」
ぐっと身体を引き寄せられた。
「大丈夫だ、俺はお前に危害を加えたりしない。」
目の前の青年は、漆黒の髪で、見た目の年齢や、顔立ちがあまりにも整っていることはイルアと変わらなく、だが、厳しそうな目元と、眉間の皺が怖そうなイメージを引き立てた。
「あ、すみません…えと、あなたは…?」
「俺はサリア・アグネルアだ。ここの教会の神父をしている。」
「神父…??」
部屋をみわたすと、壁にひっそりと十字架がかけられており、その周りにには、蝋燭もおいてあった。
「お前は、うちの教会の庭に倒れていてな。そこを俺がここに連れてきた。」
「助けてくださってありがとうございます。」
「寝かせただけだ。礼を言われる程じゃない。」
サリアは近くの机に置いてあったマグカップを僕の手に持たせる。
「ココアだ。甘いのは平気か?」
こくんと頷けば、彼は、少し満足そうに笑った。
するとたちまち彼の怖い印象など消え去り、優しげな人という雰囲気だけが残る。
「それで、お前はなんであんなとこに倒れていた?家はどうした?」
本当の事をいって、信じて貰えるだろうか?
「ぇっと、あの、信じて貰えないと思うんですけど…」
「何だ?」
「僕、天使に飛ばされてきた違う世界で死んだ人間なんです。」
「…そんな嘘をついてどうする?」
やっぱり、そうなるよな。未だに自分でも信じられないもん。
すると、ポスンと頭に手を乗せられた。
「まあ、普通の人間ならこう言うだろうな。」
「え?」
彼は、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
「安心しろ、俺はお前の話を信じてる。俺も、少し特殊だからな。」
「特殊、ですか??」
彼の身体全体をじっくり見てみても、そんな所は見当たらなかった。
「見た目じゃ分からないと思うぞ。」
彼は、僕が寝ていたベッドに腰を下ろす。
「知りたいか?」
こくこくと頷くと、頭をピンと弾かれた。
「秘密だ。」
彼は、ひらりと立ち上げり、部屋を出て行った。が、すぐ戻ってきて、ドアから顔を覗かせると、
「案内してやるから来い。他の世界から来たなら、ここに帰る場所は無いだろう?」
彼の厚意に甘えることにした僕はそっと床に降りて、彼の後を着いていった。
「で、ここが、祈り場だ。」
一通り教会の中を見終えると、気づいた事があった。この教会はとても広い。なのに、
「なんで、誰もいないんですか?」
そう、一人もいないのだ。僕達ふたりを除いて。
「あぁ、それは俺が特殊と言ったのは覚えてるな?そのせいで、俺は、国からこの教会に軟禁されてるんだ。」
「その特殊さって、危険なんですか?」
「いや別に。だが、権力を持つ者から見れば脅威かもな。お陰で、信徒でもないのにここで毎朝毎晩祈って生活している。ここ数年、俺の存在を確認する役人ども以外には誰ともあってはいない。」
何ともなさそうに言っているが、とても辛かったと思う。僕は、友人達がいたから一人では無かったが、それでも辛かった。
「大変ですね…」
「いや、そうでもないな。話し相手はいたし。」
「え、でもここ数年他の人とはほとんど会ってないって…」
「ああ、人とは会ってない。」
「??じゃあ、誰と…?」
謎は深まる一方だった。
「それも、今は秘密だな。」
彼は、遠くを見て息をふうっと吐くと、庭にあるテーブルに僕を連れ出した。
丸い小さなテーブルを挟んで2つのイスがあり、それの一つに彼が腰掛けるのを確認してから僕も腰掛けた。
「建物内の様子は覚えられたか?」
やんわり首を振る。
「すいません。広すぎて…」
「独り暮らしには広すぎる。掃除が大変だ。」
「そうなんですか…」
思わず相槌を打つと、思いっきり変な顔をされた。
「おい、冗談だ。俺は基本的に自分が使う部屋以外は掃除しないからな。」
「そ、そうなんですか?」
冗談を言う人には見えなくて、つい信じてしまった。
「はあ…そんなにお堅く見えるか?俺」
彼は、頬杖をつきふてくされたように口を尖らせた。
「いえ、えっと、その…」
「あとその煩わしい敬語も止めろ。一緒に住む気じゃ無かったのか?」
「あの、そのことなんですけど、本当に良いんですか?」
「どういうことだ?」
彼の目がすっと細められる。この顔は、物凄く威圧感がある。
「拾ったばかりの身元が分からない子供を自分と同じとこに住まわせるなんて、嫌だと思うんですけど…」
「身元は、違う世界なんだろう?」
「そもそもなんでそれを簡単に信じられるんですか?」
彼は、更に眉間の皺を深くする。
「成る程。要するに、お前は俺が信じられないのか。無理もないが。」
彼は、頬杖に使っていない手の人差し指で机をトン、トンと叩く。
「信じてないとか、言うわけでは無いんですが…」
「お前は天使に飛ばされたと言ったな。その時、天使にチャンスの話をされなかったか?」
「何故それを!?」
「それは後で話す。兎に角、お前はチャンスを受けてこの世界に来たんだろう。」
「…厳密には、少し違うんです。」
「というと?」
「僕は、チャンスを断りました。きっぱり断ったんです。」
彼は机を叩いていた指を止め、身を乗り出す。
「それなら何故ここに来たんだ?」
首を激しく横に振ってから、口を開いた。
「分からないんです。僕は、もう生きてたくなくて、それで、チャンスは受けないって言ったんです。なのに、天使に、そっちに行かないで、生きて欲しいって言われて、そしたら、目の前が光に包まれて気がついたら、ここに…」
彼は、背もたれに体重をかけ、イスの後ろの二本の脚でイスを支えると、親指の爪をかんだ。
「どういうことだ?天使が選択に口出しする事は禁忌だぞ。そんなバカな真似をする奴がいるとは思えない…ましてや、本人の選択を無視してチャンスを受けさせるなど、言語道断だ……」
ブツブツと呟き始めた彼に、居心地が悪くなってそっと話しかける。
「あの、それで、この話がどうしたんですか?」
「そうだ、話しがそれたな。チャンスは、基本的に善良な人間以外に与えられないんだ。それも、本当に苦労した奴でだ。だから、俺はチャンスを受けたお前は悪人どころか善人と判断した。だからお前をこの教会に置く事にしたんだ。だが…」
またしても呟き始めた彼にまた話しかける。
「そもそも、なんでそんなに天使に詳しいんですか?」
「俺は特殊だと言ったろう?詳しく教えるつもりは無かったんだがな、お前には教えるべきかもしれない…」
彼は左目にそっと手をかぶせて何かを呟いたかと思うと、その手をとって、目を開いた。
「な!?」
その目には先程まではなかったリングが移っており、燦然と輝いていではないか。
「それは一体…」
「これはリング・アイと言って、エンジケーションの象徴だ。これを持っているものは、エンジケーターとして、天使と接触し、話す事が出来るんだ。」「エンジケーション?エンジケーター?」
聞き慣れない単語だ。
「天使との意志疎通、エンジェルコミュニケーションを略してエンジケーション、天使との意志疎通者、エンジェルコミュニケーターを略してエンジケーターだ。」
「出来るんですか…そんなこと…」
「俺みたいに、生まれつきこの目を持っていればな。だから俺はここで一人暮らしていても寂しくないんだ。」
驚きで言葉も出なくなった俺をよそに彼は、目を元に戻し、平然と話し続ける。
「まあ、そんなことで、俺はお前がここにいても良いと、いやむしろいてほしいと思っている。お前はどうだ?ここには、いたくないか?」
「いえ、僕もおいて貰いたいです。」
「決定だな。ならその堅苦しい敬語を抜け。」
「わかりました。」
「本当かよ…」
やれやれと溜め息を突かれた。




