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ちゃぶ台返し

「さあ、どうする下界の者よ、いかに君が強くとも世界の理には勝てぬのだ!」


 オーディンが良く通る低い声で俺を嘲る、余裕の表情だ。

 全く以て気にくわない。

 何が神だ、俺の邪魔ばかりしやがって。

 この世界は俺の恋心を邪魔して楽しむゲームか?

 そういうゲームじゃねぇからこれ!


 え?違うよね?


 まあ良い、俺のやることは決まっている。

 見敵必殺サーチアンドデストロイ、そして見女必落サーチアンドデストロイだ!


「まるで既に勝利したかのような表情だな」


 俺は顔を苦く歪めたままオーディンを嘲る。


 その言葉を聞きオーディンは嘆息する。


「そうは思っていない、妖精王の命すら奪わずに無力化するその圧倒的な力。私でも勝てないかもしれない。だが私の能力を聞いて表情を変えた君は、私に対する対抗策を持たないのでは無いか?ならば少なくとも対等に話ができると考えたわけだよ。」


 頬から滴が落ちる、これは不味いかもしれない。


「お前が復活しても諦めるまで殺し続ければ問題ない話だ」


「無駄だ、幾億回殺されようとも私の心は折れぬ。」


 キリとした目付きでオーディンは俺を睨み付ける。


 幾億殺されても、などと口では言っているが、1000を待たずにオーディンの精神を破壊させることは容易に可能だろう。

 だがそれには少なく見積もっても数日はかかる、今日中には終わらない。

 更に言えば、実のところ神界支配の雑用をオーディンに押し付けようと考えているから、オーディンの精神を壊すのは問題なのだ。

 仕方がない、別な手段で脅そう。


 俺はオーディンに背を向けて階段をてくてくと降りて王座から離れる、右手にブラブラと剣を持ったまま。

 そして王座の間にいる兵達の方を向いたままオーディンを振り返らずに告げる。


「お前、さっき俺が兵達を殺すのを止めたよな?」


 剣を振り上げる、オーディンの顔は見えない。


「彼等を人質にするつもりか?ならば既に幾人か殺しているはずだ、人質は複数人いる場合見せしめをした方が効果が高い。つまり君は彼等を殺す気が無い。よって彼らの命は交渉するに足り得ない、君も私も彼らの命を奪う気が無いのだからな。」


 オーディンが人質作戦の穴をすらすらと挙げ論破する。


 全く、俺の人道主義がばれていなけりゃ、あるいは人死にを気にしなけりゃいくらでも策はあるんだが。

 俺の人道主義っぷりにも困ったものだ。

 だが、女の子口説くのに血染めの道を歩くってのも何か違うだろう?

 女の子を口説くためなんだから、もっと爽快で、胸の空くストーリーがいいんだがなぁ。

 仕方がない、オーディンにも一度、力を見せつけねばならないらしい。


「わかったよオーディン、舌戦はお前の勝ちだ」


 俺はため息を吐きながら、剣を鞘へと戻し、両手を挙げ降伏のポーズをとる。


 ちらと後ろを見るとぱぁぁっと表情が明るくなったアイレスが見えた。






 私は思わず彼の行動に疑念を抱く。

 現状、彼と私は五分五分の状態のはずだ。

 いや、むしろ私の方が不利と言っても間違いはない。


「いったい、どう言うことだ?」


 彼に問いただす。

 すると彼は不敵な笑みを浮かべこう言った。


「だから、完勝だけは諦める」


 背筋に悪寒が走る、なんだ、この寒気は。

 人を殺すことを厭う彼が打つ手はもうないはずではないのか。

 何か、見落としているのか?

 少なくとも、彼の後ろの戦乙女が肩を落として地べたに這いつくばるっているのは関係ないだろう。


 彼は挙げていた両手を下ろし、散歩でもするかのように私の座る王座へと近づこうとする。


 今の彼を近づけてはいけない、先程の彼とは違う。

 理由はわからない、だが魂が警鐘を鳴らしている。


「守護方陣、展開せよ!」


 叫ぶ、王座の間が光に溢れる。

 私の声に応えて複雑な紋様を描いた1000を越える魔方陣が、王座の周囲に展開される。

 ヴァン神族との戦に備えて描かれたそれは、オーディン自身の持つグングニールの一投でさえも防ぎきるであろう数であった。


 眩しすぎて彼の姿すら視認できない。

 だが、これだけの守護方陣があれば彼も近づくことは出来ないだろう。


「何をしようとしたかは分からぬが、これで手も足も・・・」


 パリン、パリンと音が聞こえる。

 彼が先程居た方向の光が弱まる、いや、闇が強くなる。

 音は断続的に続いて止まらない。

 それどころか、音は徐々に大きくなっている。

 闇が一層深くなる。


 彼が、近づいてくる。


 私は思わず叫ぶ。


「グングニール!」


 立ち上がり、右手を挙げ、神槍グングニールを召喚する。

 グングニールを振り上げ、いつでも投げつけられる準備をする。


 パリン


 王座の周囲に展開していた最内の守護方陣が砕ける。

 彼の手が見える。


「死ねぇぇえええ!」


 私は叫びながら盾も、鎧も、籠手すら装備していない無防備な彼に対して、全力でグングニールを投げつけようとする。

 と、彼の人差し指が槍の先端を押さえていた。

 彼は私の持つグングニールを横に退け私の肩をドンッと押す。

 私が直接纏っていた方陣がパキパキと音をたて、砕ける。

 目線が低くなる、彼に押された衝撃で思わず王座に座り込む。


 悔しい、私にもっと力があれば。


 思わず目を瞑り歯を噛み締め、死を覚悟する。


 例えリサシテーションがあろうが、死は文字通り死ぬほど痛いのだ。


 王として雄々しく在ろうと思っていたにも関わらず恐怖に負けるとは何という様だ。

 私は更に強く歯を噛み締め、死に負けぬよう目を開く。



 彼は右手で背の剣を握り、左手で顔を覆って頬をヒクヒクとさせていた。


 何故、剣を抜かないのだ?

 何を顔を隠して頬を痙攣させているのだ?


 彼の目線が上下に動く。

 急に先程の苦虫を潰したような顔以上に渋い顔をして私の肩を強く掴む。

 俯いたと思ったら、数秒経ってから彼は呟いた。


「俺は別に、やろうと思えば兵達を殺すことだって厭わないし、死ぬ人数が問題ならお前の家族を人質にとっても良い。殺すこと自体が嫌ならお前を永久に監獄送りにしたり、殺さずに磔にしたり達磨にしても良い。いくらでもお前を無力化する方法なんてあるんだ。」


 彼が一息で言い切って一歩後ずさる。


 何故今さらそんなことを?

 彼があえて兵達を殺していないことも分かっているし、私の家族を人質に取るにしたって、その可能性だけを伝えても仕方ない。監獄送りの意味はわからないが、拷問の話だってもう話したではないか。


 私は彼の真意を探ろうと彼の顔色をうかがう、やはり何故か余裕がない。

 そして私が先程感じていた悪寒も消えていた。

 もしや想定外の問題が発生したのか?

 何はともあれチャンスだ、私は彼に華奢な指を突きつけながら言う


「ふはは、下界人破れたり! そのような言葉を弄しても・・・あれ?」


 私の、甲高い声、が響いた。






 俺に指を突きつけた後、変化が解けていることに気づいてわたわたとしている、小さく華奢な体になったオーディンを見ながら、俺は顔をひきつらせていた。


 いかん、どうしよう、まさかオーディンが変化方陣をつかって男装していた女性キャラだったとは。

 誰得なんだよその設定は、いや女の子が増えるから俺得ではあるんだが。

 それより知らなかったとはいえ女の子キャラを斬り殺してしまうなんてオンナスキーとして屈辱の極みだ。

 いや、公式設定集にすら載ってなかったこんな設定、知らないのは仕方がない。ノーカウント、ノーカウントだ!


 しかし次善策で、オーディンを精神崩壊させた後に王をアイレスにすげ替えて丸投げ作戦をしようとしたら、オーディンが女の子とは、どうしろと言うのだ。

 女の子の目をベタ塗り(cf.レイプ目)に変えるなんて紳士の風上にも置けん行為、するわけにはいかん。

 くそ、どうすればいい?

 王座の間で無敵のオーディンを屈服させるにはどうすれば・・・


 王座の間では無敵・・・?

 そうか、発想を逆転させれば良いんだ!


 俺の頭に白熱電球が灯る。

 俺に不敵な表情が帰ってくる。

 即興でストーリーを練り上げる。

 上手く行くかは運否天賦だが分は悪くない。


 さあ、ショータイムだ!





「いかん、このままでは私が女であることがばれてしまう」


 天界の王が女性では威厳の問題や戦の時に前線に出にくい等の弊害が出てしまうのだ。

 誰かに見られていないかと思い周囲を確認するが、残った守護方陣のお陰で彼以外には見られていないようだ。

 私は冷静になって変化方陣を中空に描き、纏い直す。


「ふう、これでひと安心か」


「なに勘違いしてやがる!」


「ひょ?」


 気を抜いているところに怒鳴り付けられたために、思わず間抜けた声が出る。


「俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ!」




 彼の言葉が聞こえたと思ったら、私は鈴蘭の草原に立っていた。

 周りを見る、先程まで大広間にいた兵達が居た。

 いや、それだけではない、宮殿に居た住民のほとんどが鈴蘭の草原に集まっている。

 居ないとすれば彼と、彼に付き従っていた哀れな戦乙女ぐらいだ。


 何が起きたのだ、何故私は鈴蘭の草原にいる。

 あるいはここは鈴蘭の草原ではなく、死の先にあるという世界なのだろうか。

 周囲を見渡す、天界と現世を繋ぐゲートが見える、遠くには私の宮殿が見える。

 どうやら、私の知る鈴蘭の草原のようだ、だが何故突然ここにワープしたのだ?

 原因として考えられるとすれば彼しかいないが、ワープさせる理由がわからない。


 私はそんなことを考えながらぼんやりオーディン宮殿を眺める。

 すると突然



 ドゴォォォォォオオオンンンンン!



 オーディン宮殿が、吹っ飛んだ。

 私は呆然とそれを見ているしかなかった。






「なんてことを! なんてことをするんですか貴方はぁぁぁ!!!」


 俺に首根っこをつままれているアイレスが、俺をポカポカと叩く。


「いや、王座の間があるから無敵なら、王座の間が無くなれば良いかなって」


 俺は右目を瞑りウインクしながら舌を左側に出す。


 そう、俺は王座の間をオーディン宮殿もろとも吹っ飛ばしたのだった。


 アイレスが涙目になりながら俺に不平を告げる。


「だからって、宮殿ごと吹き飛ばす人がどこにいますかぁ!」


 俺はにっこりと笑って自分を指差す。


 アイレスの体から、力が抜けた。


オーディンは女の子という天啓が降りてきたので女体化してみた。

後悔は後で悔やむから後悔なのだ。

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