妖精王と戦う
「やめ、やめて、やめてください! そんなことしたら天界が大変なことに!」
アイレスが俺を止めようと俺に縋り付く。
「うるせぇ! 世界がやる気だってんなら俺にだって考えがあるんだよ!」
俺はDV夫のように手の甲で彼女をはたきつつ告げる。
今、俺はアイレスを連れてオーディン宮殿の王座の間に向かっている。
何故なら、ジュディア攻略に天界の協力が必要だからである。
では、何故王座の間に向かっているのか、それは
「女性を攻略するためにオーディン宮殿を攻略するなんて前代未聞ですから止めてください!」
そう、オーディン宮殿を落とし、天界での実権を手に入れるためである。
「俺にとっちゃ天界の権力より女の方が大事なんだよ、良いから黙って着いてこい」
「うう、わかってたけどこの人無茶苦茶だぁ・・・」
アイレスは肩を落としながら黙って俺に着いてきた。
オーディン宮殿の門にたどり着く。
涙目のアイレスの姿を見てただならぬ様子を感じたのか、俺に対して門番が誰何する。
「貴様、何者だ、何をしにここに・・・」
「あ、あのですね、この人は」
アイレスがどうにか場を抑えようと俺と門番の間に入る。
俺はアイレスを横に押しのけ、足を止めずにそのまま進む。
「と、止まれ!」
門番が焦って手に持った槍をこちらへ向ける。
ヒュンッ
俺はGMソードを背中から抜き放ち、そのまま剣を縦に振る。
「こっちゃ忙しいんだよ。黙って消えてろ!」
俺がそう言い捨てると、門番は縦に真っ二つになり、光になって消えた。
「ああ、罪も無い門番が・・・主神オーディン様、お許しください」
「今からそいつをぶっ飛ばしに行くんだ、許されるわけないだろ」
俺はアイレスに突っ込みつつ、門を見上げる。
優に20mはある巨大な門だ。
全くもって不愉快極まりない。
俺は鼻を鳴らし、門を睨みつける。
アイレスはそれを門が開けられなく、困っていると思ったらしい。
「流石に、神界の誇る最硬の門であるオーディン宮殿の門は通れまs」
「うぉぉぉぉ!!!」
俺は抜き放ったままの剣を構え、裂帛の気合を込め、振り抜く。
ザンッ!
ゴゴゴゴゴォォォォォ!
オーディン宮殿を守る門がGMソードによって切り裂かれ、崩れ落ちる。
「」
アイレスが呆然としている。
俺は動かないアイレスの腕をとり、玉座へと続く幅100mはあろうかと言う廊下をズンズンと進む。
フォフォフォーン
楽器の音が聞こえる。
一体何の音だ?
アイレスに尋ねようと、後ろを見るとアイレスは青い顔をしていた。
「これは何の音だ」
「ぜ・・・全軍突撃の合図です」
アイレスがそう言うと、それを待っていたかのように四方八方だけでなく上方からも城兵達が飛び出してきた。
その数は巨大な廊下を埋め尽くさんばかりである。
俺は目を細め、不敵に笑った。
「うわぁぁああああ!」
「馬鹿、お前邪魔だ、どけろ!」
「ひぃ、俺はここで死ぬんだぁ・・・」
阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえる。
俺は始め、無人の野を行くが如く進行方向に居る城兵を光にしながら突き進んでいた。
しかし、あまりにもあっさりと光となって消えていく戦友の姿を見た城兵はすっかりモラルブレイクを起こした。
今や俺の進行方向にいる城兵は我先にと道を開けようと脇に寄ろうとしている。
まさに人間モーゼ状態である。
ちらりとアイレスの方を見る、目から光が無くなっている。
可哀想に、嫌なことがあったんだな。
俺は生暖かい目で彼女を見やった後、再び進軍を開始した。
「待てぇい!」
腕を組んだ男が王座の間の入り口に立ち、腹に響くような声を廊下に響き渡らせる。
アイレスの体がビクリと跳ねる、息してたんだ。
俺は不良よろしく声がした方を睨みつける。
古代風の鎧を纏った筋肉ムキムキの大男
神級第2位の超高位神格者であり妖精の国の王でもある男神、フレイである。
「ここより先は主神オーディンにのみ許された神域、何人も許可なく入ることは許さん」
フレイはアイレスと俺を睨みつける。
アイレスの体が縮み上がる。
俺はフレイの睨みを受け流し、嘲笑を浮かべる。
「良い機会だ、統治するから上位の神は屈服させなきゃならん。俺は手を出さないから攻撃して良いぞ、自分が諦められるような最高の攻撃をしたまえ」
なんたる屈辱、なんたる侮辱!
下界のただびとたる男にこれほどまでに侮られるとは。
体が焼けるように熱い。
良いだろう、最高の攻撃だ、貴様が言ったのだからな。
後悔する暇もなく、魂ごと消し飛ばしてくれる。
俺は腰に差した剣を鞘ごと取り出し、目の前に持ってくる。
柄と鞘をそれぞれ持ち、ゆっくりと鞘から剣を引き抜く、剣身が見えたところから炎が舞い上がる。
かつて世界を焼き尽くした神剣、レーヴァティンである。
城兵達が廊下から逃げ出す、レーヴァティンの力はこの廊下にいる全ての生命を燃やし尽くすほど強力なものだと誰もが知っているのだ。
鞘を投げ捨てる。
あふれ出るレーヴァティンの炎は、それを持つ右腕すらも焼いていた。
既に配慮をすべき城兵達は居なくなっていた。
男の傍には戦乙女がへたり込んでいるが、所詮は下界人に付き従う愚か者。
消し飛ぶことも致し方ない。
レーヴァティンを上段に構える。
男は腰に手を当て、黒く光る剣をだらりと下げ、受けをとる気すら見せない。
俺はそんな男に対し、怒りよりもむしろ憐憫の情を覚えた。
「はぁぁぁあああああ!」
気合いを込める、レーヴァティンに魔力を吸われる。
剣の纏う炎は轟々と音を立てつつ俺の体すら埋め尽くし、もはや前も見えない程である。
憐れな男と戦乙女を想い、一瞬目を瞑る。
そして意を決し、目を見開く。
「魂の、その残滓すら残ると思うなよ」
俺は手に持った剣を、その予期される威力と相反するようにゆっくりと
振った。
オーディン宮殿に、ここが天界であるにも関わらず、地獄が顕現する。
振られた剣から放射状に炎が広がり、地面が溶けて蒸発する。
敷石を剥がしながら広がる波は俺に恐ろしい速度で近づいてくる。
俺は余裕の表情を崩さない。
ちらと後ろを見る。
恐怖で目の焦点があっていないアイリスがいる。
やばい、忘れてた。
「ジムガード!」
俺はアイレスを指定しながら叫ぶ。
アイレスを中心に球状のバリアが展開される。
バリアを炎が避けるが、展開される前に入った炎がアイレスの髪を少し燃やす。
地面にシミが広がる。
廊下全面の床が、アイレスのいる場所を除いてスープに変わる。
炎が徐々に引いていく。
フレイの顔が見える。
向こうも俺が立っていることに気づいたのか、驚愕の表情を浮かべた。
べちゃり
男が溶岩のスープと化した廊下に一歩を踏み出す。
陽炎が揺らめくのが見える。
血の気が引く、背筋から恐ろしいほどの寒気を感じる。
遠くに、男の隣にいた戦乙女がへたり込んでいるのが見える。
「何故、あの娘が生きている」
俺は声を震わせ、尋ねる。
べちゃり
男の纏う陽炎が、また揺らめく。
「GMが、連れを守れない訳無いだろう」
べちゃり
王座の間に、俺の元に、一歩、一歩と近づいて来る。
思わず後ずさる。
男が何を言っているのかがわからない。
だが、圧倒的な死の恐怖だけが俺を支配していた。
「何故、溶岩の上を歩ける!」
鼻水と涙を垂れ流しながら叫ぶ。
べちゃり
体がビクリと跳ねる。
黒い髪、黒い服、黒い剣を携えた彼が、また一歩俺に近づいてくる。
「GMに、床ダメージがあるわけ無いだろう」
べちゃり
溶岩の、跳ねる飛沫すら見える。
足の力が抜ける。
へたりこむ。
だが、彼から目を逸らせない。
「どうやって、お前は生き残った」
べちゃり
「GMが、死ぬわけ無いだろう」
べちゃり、べちゃり
遂に彼は俺の目の前に
「つかまえた」
やっとまともに主人公の強さを表現できた気がする。




