悪夢を見る
「うち、あんたに伝えておきたいことがあるんや」
ジュディアが恥ずかしそうに話しかけてくる。
なんだろう、もしかして愛の告白だろうか。
そういえば、俺はガードの言葉とFQ17の仕様から、盗んだ彼女の心を奪い取られたと考えていた
しかし、ジュディアに直接確認はしていない。
心なんて持ち物じゃないから奪えないよな、安心した。
「どうしたんだ?」
俺はにこやかに尋ねる。
「うち、この人と結婚するん」
ジュディアの隣には、アサシンをジョブとする身体中に包帯を巻いた、例のあいつが立っていた。
視界がぐにゃりと歪む、地面に立っている感覚がなくなる。
彼女がにこやかに笑いかける。
「あんたには世話になったから、結婚式に出席して欲しいんやけど」
「うわぁぁぁぁああああ!!!」
俺は布団を蹴飛ばしながら目を覚ます。
周りを見渡す、かえでの俺の部屋だ、周りには誰もいない。
「なんだ、夢か」
ドク、ドク
トラウマを刺激され、俺の心臓が鳴っている。
「くそ、こんな夢を見たのも、寝る前に変なものを見たせいだ」
俺は昨日見たものを思い浮かべようとして、やめる。
誰が好き好んであんな場面を思い出したいだろうか。
それよりも問題はジュディア攻略だ。
のんびりしていたら、悪夢が正夢になってしまう。
俺はさっさとシャワーを浴びて、服を着替えようとする。
服を出そうと冒険者鞄のメニューを開く。
諸君、長編RPGをクリアしたことはあるだろうか。
そのようなゲームでは、大抵最終ステージに着く頃には恐ろしい数のアイテムが集まっている。
つまり、アイテム欄を開くと膨大な数のアイテムが表示されるのだ。
この中から特定のアイテムを探すのは大変な作業であることは体験済みだろう。
そして、昨日彼が買った服の数は、ゆうに1000を越えていた。
ずらりと並ぶアイテムの服の欄。
いかん、このままでは使うアイテムも上手く探せない。
俺はひーこら言いながら、大量の服を鞄から出してから折り畳む作業に追われ、午前中を終えるはめになった。
「無駄に時間をとられてしまった」
かえでで昼食をとってからラグナに来た俺は、夢が現実となっていないことを確かめるため、ジュディアを探してまたも街をさまよっていた。
しばらく彼女を探していると、ラグナの大通りでふらふらと歩くジュディアを見つけた。
俺は彼女に駆け寄る。
「昨日は大変だったな、ちゃんと眠れたか?」
俺がにこやかに話しかける。
だが、ジュディアは怪訝な表情でこう言った。
「あんた、誰や」
わかっていた、その可能性があることも分かっていたさ。
誰かに心を許すには理由がある、その理由をなくすのに手っ取り早い方法が記憶を奪うことだ。
心を返すために、記憶を奪う、だがそれは本当に心を返しているのか?
違う、そんなのは心を奪っているのと一緒だ。
そんなことになったのは誰のせいだ。
ガードか、世界か、運命か。
いや、きっと俺もその一翼を担っていたのだ。
俺は最初の一手から失敗したんだ。
この世界はもうゲームじゃないんだ、失敗してもリセットは利かない。
どこに行ったかわからない、彼女の心を彼女に返そう。
彼女に俺との記憶は無い。
だから新しく、ゼロから始めよう、ジュディアとの異世界生活を。
とか重苦しく考えてはいるが、結局やることはただのナンパである。
俺が難しい顔でそんなことを考えていると、ジュディアも同じように難しい顔をして尋ねてきた
「あんた、昨日うちが何しとったか知っとるん?」
どうやら昨日の記憶が無いということには気づいているようだ。
俺は昨日あったことを説明しようと口を開く。
「昨日、ゴブリンの洞窟攻略をしようとしてたメンバー不足の俺を、君が見かねて手伝ってくれたのさ。」
俺が彼女をゴブリンキングから助けたことは言わない、何故かって?
後からいけしゃあしゃあと”あなたを救ったんです”なんて語っても信じて貰えないか、効果が薄い。
ガードめ、まさかそこまで見越して・・・ぐぬぬ。
それに俺のレベルが27だと勘違いしている彼女が俺のマッチポンプに気づきかねない・・・あれ?
レベル27ってのも忘れてるんだから俺が高レベルなことばらしても問題無いんじゃ・・・。
俺はそのことに気付き、考えていたでっちあげのストーリーを変更する。
「ふーん、そうなんかぁ。そういえばうちの持ってた転移石無くなってたんやけど、やっぱうちら逃げ帰ったん?」
「いや、洞窟は制覇したよ。だが君が足を挫いてしまって、時間も時間だったから念のため転移石で帰ったんだ。」
俺は転移石を使った理由を適当にでっちあげる。
好都合にもジュディアは転移石のことよりも洞窟を制覇したことに食いついた。
「クリアしたん!? だってあそこの洞窟、レベル60ぐらいが適正やろ、あんた相当強いんやねぇ」
「それほどでもない。それより財宝の回収がまだなんだ。手伝ってもらう約束をしてたんだが」
俺は謙虚なナイトを演じ、昨日取り付けた約束を持ち出す。
だが彼女は申し訳なさそうな顔で俺に謝る。
「そうなんか! でも悪いんやけど明日から暫く攻略の先約があるんや」
そうなのか、それは残念・・・先約?
「あー、失礼かとは思うのですが、どんなメンバーなんですか?」
思わず敬語で尋ねる。
ドク、ドク
朝起きた時のように、心臓が鳴る。
「なんで敬語なん? まあええわ、ソードマンと、プリーストと、あとマジシャンやね」
ドク、トク、トク
心臓が落ち着いていく。
良かった、ジュディアの攻略クエストが始まったわけではないようだ。
「そうか、4人パーティーで前衛一人で大丈夫なのか?」
俺は気を抜いて、パーティのバランスの悪さを指摘する。
あわよくば、俺が参加することもできるだろう。
そんな下心ある心配に対し、彼女は思い出したように付け足した
「そういや、アサシンも来るらしいわ、身体に包帯巻いた変な奴なんやけどね」
俺は計画がガラガラと崩れていく音を聞いた。
なんか割とシリアスになってしまった。
やってることはただのナンパなのに




