第6話:泥に塗れた牙
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ヴァルフレアの屋敷が焼け落ち、両親を失ってから一ヶ月。
アレスとルナは、辺境の断崖にある荒れ果てた廃屋に身を寄せていた。かつての貴族の生活は遠い夢の彼方だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!!」
夜明け前、アレスは泥にまみれ、重い石を背負って険しい山道を往復していた。
九歳、十歳と成長を待つ余裕などない。あのルシフェルの圧倒的な力を前に、魔法だけで勝てるとは思えなかった。
(あの剣を抜いた時、俺は重さに耐えられなかった。……次にあの剣を手にする時、片手で振り回せるだけの力がなきゃ、復讐なんて口にする資格もない)
前世の知識を掘り起こし、効率的な筋力トレーニングと、徹底的な剣の素振りを日課にする。細かった腕には少しずつ引き締まった筋肉がつき、手のひらはマメで潰れては固まり、鋼のように硬くなっていく。
そんな兄を、ルナは献身的に支え続けた。
「お兄ちゃん……。もう休んだ方がいいよ。手が、血だらけだよ……」
夜、アレスが素振りを終えて戻ると、ルナが冷たい水を用意して待っていた。
ルナはアレスの傷だらけの手を取り、丁寧に包帯を巻いていく。その際、彼女は包帯を巻くふりをして、アレスの指先にそっと唇を寄せた。
「……ルナ?」
「ううん、おまじない。……私、お兄ちゃんがいればいいの。お兄ちゃんだけが、私の世界だから」
ルナの瞳には、かつての無邪気な妹の面影はなく、兄への崇拝と、どこか不穏な熱を帯びた光が宿っていた。
修行は身体だけではない。アレスは自分の内に眠る「普通の炎」の操作も極限まで磨いていた。
(今は、黒い力を出すことはできない。なら、この炎を誰よりも鋭く、誰よりも速く放てるようにするだけだ)
指先から放つ極小の炎で、百歩先の木の葉を射抜く。
それは、貴族が学ぶ華やかな魔法とは対極にある、急所を一撃で貫くための「殺しの魔技」だった。
アレスはその重みを感じながら、彼女の背中を静かに叩いた。
(……ああ。お前だけは、この命に代えても守り抜く。そのための力が、例え地獄に魂を売らなければ手に入らないものだとしても)
復讐への渇望と、妹への歪な愛情。二人の日常は、静かに、けれど確実に「普通」から逸脱し始めていた。




