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第26話:壁を穿つ咆哮

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  「あはは……あはははは!!」

 レヴィアエンヴィーの皮を被った顔が、陶器が割れるようにひび割れた。

 その亀裂から溢れ出すのは、魔力というよりは、もはや実体化した「悪意」そのものの黒泥。

嫉妬しっとだよ。持たざる者が、持つ者へ向ける純粋な呪いだ。……それさえあれば、君たちの薄っぺらな友情ごっこなんて、一瞬で溶かせるんだよ!」

 エンヴィーの背後から、漆黒の触手のような影が何本も噴き出す。それは食堂の天井を突き破り、周囲の空間そのものを腐食させていく。

「みんな、下がれ……っ! これは、もう……!」

 リーネが叫ぶが、その声すら震えている。先ほどまでの連携魔法が、エンヴィーから放たれる圧倒的な「質の差」の前に、霧散していくのが分かった。

「まずは君からだ、リヴァイン。君のその誇り高い血筋ごと、僕が飲み込んであげる」

 黒泥の刃がリヴァインの喉元へ迫る。

「……っ、ここまで、か……」

 剣を構え直す力すら残っていない。リヴァインが死を覚悟し、目を閉じた――その時。

 ――パキィィィィィィィン!!

 世界が凍りついたような、硬質な音が響き渡った。

 それは食堂の窓が割れた音ではない。学園全体を覆い、外部との連絡を一切遮断していた「敵の結界」が、強制的に粉砕された音だった。

「……誰だい、僕の遊び場を壊す無粋な奴は」

 エンヴィーが顔を歪め、空中に空いた「穴」を睨みつける。

 そこには、一人の老人が浮いていた。

 金縁の眼鏡を光らせ、手にした古ぼけた杖を一度だけ地面に突く。

「……我が庭で、これ以上好き勝手させるわけにはいかんな」

 校長の静かな声。だが、それは物理的な衝撃波となって食堂を駆け抜け、エンヴィーが展開していた黒泥を瞬時に霧散させた。

「校長……先生……!」

 グラウスが、安堵のあまり膝をつく。

「遅くなってすまない、諸君。……よく、耐え抜いた。誇りに思うぞ」

 校長が地面に降り立つ。その足が地に着いた瞬間、学園全体の魔力が一変した。

 校長の周囲に展開された幾何学的な魔法陣が、まるで太陽のように輝き、エンヴィーの「進化」すらも色褪せさせる。

「ふうん……。結界を『外側から素手でこじ開ける』なんて、とんだ化け物爺さんだね」

 エンヴィーは不敵に笑うが、その頬を冷や汗が伝っている。

「これ以上は分が悪いや。……アレス、君の『おままごと』な仲間たちに感謝しなよ。彼らが時間を稼がなければ、君の首は今頃僕の手の中にあったんだから」

 エンヴィーの体が闇に溶け始める。

「……次は、君のすべてを僕がいただくよ。じゃあね、出来損ないのクラスメイト諸君!」

 漆黒の霧が晴れた時、そこにはもうレヴィアの姿も、エンヴィーの気配もなかった。

 しんと静まり返る食堂。

「……終わった、の?」

 ミナが呟き、その場にへたり込む。

 カイルも、サキも、ノエルも。皆、武器を落とし、ただただ荒い呼吸を繰り返した。

 校長は、ゆっくりと歩を進める。

 瓦礫の山の中、ルナに抱かれたまま、光を失った瞳で横たわるアレスの元へ。

「学園長……お兄ちゃんを、助けて……お願い……っ!」

 ルナの悲痛な叫びに、校長は静かに目を閉じ、アレスの胸に手を置いた。

「……案ずるな。この少年を死なせるには、世界はまだ、彼に支払わせるべき代償を残しすぎている」

 朝日が、崩れた壁の隙間から差し込む。

 アレスという一人の少年を救うために、持たざる者たちが繋いだ「不屈の連鎖」。

 その長い夜が、ようやく明けようとしていた。

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