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第24話:雷鳴、そして裏切りの微笑

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第24話:雷鳴、そして裏切りの微笑

 食堂を包んでいた爆炎が消え、静寂が戻る。

 膝を突き、肩で息をするアレス。その手元から、主の限界に呼応するように『インフェルノエンブレイド』が零れ落ちる。それを拾い上げる力さえ、今の彼には残っていなかった。

「お兄ちゃん……! お兄ちゃん!!」

 真っ先に駆け寄ったのはルナだった。震える手でアレスの体を抱きしめ、怪我がないか、冷たくなっていないかを確認するように何度もその名を呼ぶ。

「……大丈夫だ、ルナ。少し……使いすぎただけだ」

 アレスが掠れた声で答えると、他の仲間たちも吸い寄せられるように集まってきた。

「アレス……君ってやつは。あんな怪物を一人で倒してしまうなんて」

 リヴァインが、かつての高慢さを捨ててアレスの横に膝を突く。その手には、アレスの体力を少しでも回復させようと、アクレイド家に伝わる癒やしの魔力を込めていた。

「おい、アレス! 生きてるか! 無茶しやがって……。お前が倒れたら、俺たちはどうすればいいんだよ!」

 グラウスが大きな手でアレスの背中を支える。そこには確かな信頼と、戦友を想う熱い感情が宿っていた。

「アレス君、これ飲んで! 聖水よ!」

 ミナも泣きながら鞄を漁り、カイルやジャックも「お前、最高にかっこよかったぜ」と、不器用ながらも温かい視線を送る。

 食堂には、間違いなく「絆」があった。三年前、すべてを失ったアレスが、地獄の修行の果てにようやく手に入れた新しい居場所。

 ――その温かな空気を、レヴィアの冷たい声が切り裂いた。

「……すごいや、アレス。本当に幹部を倒しちゃうなんて。ねえ、今の真っ黒な力……あれ、なんなの?」

 いつもの、屈託のない笑顔。だが、その瞳だけが感情を失ったガラス玉のように無機質だった。

 アレスは仲間に支えられながら、途切れ途切れの声で答えた。

「……分から、ない。……俺にも、この力の……正体は、まだ……」

 その答えを聞いた瞬間。

 レヴィアの顔から、人間らしい感情がすべて消え失せた。一秒の静寂の後、彼はククッ、と喉を鳴らし、そして――腹の底から響くような歪な声で笑い出した。

「あはは……あはははは! なんだ、自分でも分かってないんだ。最高だよ、アレス。無知なまま、その呪いを振るってたわけだ」

「……レヴィア? 何を言って――」

 グラウスが不審に眉を潜めた、次の瞬間だった。

 ドゴッ!!

 激しい雷光を纏ったレヴィアの蹴りが、アレスの腹部を正確に捉えた。

「ガハッ……!?」

 ただでさえ限界だったアレスの体は、木の葉のように吹き飛ばされ、食堂の壁に激突した。

「お兄ちゃん!!」

「レヴィア、貴様!! 狂ったのか!!」

 激昂したグラウスが拳を振り上げる。だが、レヴィアがパチンと指を鳴らすと、目にも止まらぬ雷撃がグラウスとリヴァインを同時に貫いた。

「あはは! 無駄だよ。君たちの魔法の出しプロセスは、この数ヶ月で全部『見た』からね。アクレイドの氷も、グラウスの土法も、もう僕のコレクションの一部なんだ」

 レヴィアが腕をまくると、そこには不気味なワールドエンドの紋章が浮かび上がっていた。

「僕はワールドエンド、大罪を司る七人の一人――“嫉妬”のエンヴィー。 この学園で、君たちの魔法をコピーして回るのが仕事だったんだ。アレス、君は最高の『検体』だったよ」

 エンヴィーは、壁際で血を吐きながら立ち上がろうとするアレスを見据え、その瞳に「他者の才能への渇望」を隠そうともせずに笑った。

「さあ、最後にもう一度見せてよ。あの地獄の炎をさ。僕がそれを使えるようになったら、ボスに褒めてもらえるんだ」

「……ふざけるな」

 アレスが、ふらつきながらも壁を背に立ち上がった。

 地獄の炎はもう出ない。それに、もし使えば目の前の『怪物』にヴァルフレアの禁忌さえ奪われてしまう。アレスは焼け爛れた右手に、残った全魔力を集中させた。

 シュウゥゥ……!

 手のひらに灯ったのは、地獄の黒ではなく、ヴァルフレア家が代々受け継いできた「普通の炎」。針のように細く、けれど今までで一番鋭い、自らの努力だけで磨き上げた光。

「……あの剣には頼らない。……偽物の貴様に、ヴァルフレアの炎は重すぎるはずだ」

「……へぇ。まだ抗うんだ、親友アレス。いいよ、その『普通の魔法』も、僕が美味しく食べてあげる!」

 裏切りの雷鳴が轟き、アレスの正統な炎が燃え上がる。

 学園の残骸の中、かつての親友同士による、本当の決戦が幕を開けた。

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