第22話:熾火(おきび)、爆ぜる
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「そこを通せ。……死にたくなければな」
アレスの冷徹な声が、血の匂い漂う廊下に響いた。
前方には十数人の白装束の兵士たちが立ち塞がり、その背後からはさらに増援の足音が迫っている。
「ガキが、舐めるな! 殺せ!」
兵士たちが一斉に魔力を練り、鋭い氷の礫や炎の槍を放つ。
「危ないっ!」
グラウスが岩の盾を展開しようとしたが、それよりも速く、アレスが動いた。
アレスはルナを左手で抱き寄せ、右手一本で布に包まれた『インフェルノエンブレイド』を鞘に入れたまま振り抜いた。
ドォォォォォン!!
放たれたのは、魔法ですらない純粋な「圧力」。
アレスが修行で培った圧倒的な筋力と魔力の放出が合わさり、迫りくる魔法の数々を正面から叩き潰した。
「な……魔法を物理的に打ち消しただと……!?」
驚愕に目を見開く兵士たち。その隙を、アレスは見逃さない。
「ルナ、目を閉じていろ」
アレスが地を蹴った。
速い。リヴァインやサキの目ですら追いきれないほどの踏み込み。
アレスは鞘を構えたまま、先頭の兵士の腹部に強烈な打突を叩き込む。防具ごと内臓を粉砕する衝撃。さらに、跳ね返る勢いを利用して旋回し、周囲の兵士たちの首を鞘の先端で正確に突き抜いていく。
「ぎゃあぁぁっ!」
「化け物……こいつ、本当に九歳か……っ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。だが、アレスの心は氷のように静まり返っていた。一歩、また一歩。ルナを抱えたまま、彼は確実に前進していく。その歩みの後には、一人として動く者は残らない。
◇
廊下の曲がり角。突如、天井が崩落し、さらに強力な魔力を持った上級兵士たちが降り立った。
「……逃がさん。グラトニー様の食事を邪魔する者は排除する」
上級兵士が巨大な土のゴーレムを召喚する。狭い廊下を埋め尽くす巨体。これには流石にアレスも足を止めた。
「アレス、下がれ! 物理が効かないなら俺が――」
グラウスが前に出ようとしたが、アレスはそれを手で制した。
アレスは剣を抜かない。代わりに、空いた右手に極小の、それでいて太陽のように眩い**「白光の火球」**を生成した。
「……圧縮が足りない」
アレスが指先に力を込めると、火球はさらに小さく、針の先ほどにまで凝縮される。
シュンッ――!
放たれた一閃は、ゴーレムの胸部を容易く貫通した。直後、内部から爆発的な熱量が膨れ上がり、巨大な岩の塊を内側からドロドロの溶岩へと変えて崩壊させた。
「……バカな。ただの火属性魔法で、私のゴーレムを融解させただと!?」
上級兵士が戦慄する。それは特別な魔法ではない。ただ、極限まで密度を高めただけの、圧倒的な「練度」の差が生んだ結果だった。
アレスは再び剣の柄に手を戻し、冷たい視線で兵士を射抜く。
「……邪魔だ。消えろ」
その一言に、生き残っていた兵士たちは戦意を完全に喪失し、散り散りに逃げ出した。アレスは代償を払うまでもない、この程度の雑作で「奥の手」を出すつもりは毛頭なかった。
アレスは震えるルナの肩を抱き直し、再び歩き出す。
「行くぞ。……まだ、食堂の方にカイルたちが残っているはずだ」
アレスの背中を見つめるリヴァインたちの瞳には、もはや「ライバル」への対抗心よりも、圧倒的な「畏怖」が勝っていた。




