第21話:静寂を裂く号砲
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「校長が、王都の中枢へ呼び出されたらしい」
そんな噂が学園を駆け巡った日の夜。アレスは拭い去れない嫌な予感に支配され、寮の窓から外を眺めていた。王都全体を包む空気は粘りつくように重く、不自然なほどに風が止まっている。
隣のベッドでレヴィアが「校長がいないなら、今夜は羽を伸ばせるね」なんて軽口を叩いているが、アレスの耳には届かない。その指先は、隠してある『インフェルノエンブレイド』の冷たい感触を求めていた。
その瞬間――。
学園を覆っていた世界最高峰の防御結界が、乾いた音を立てて消失した。
間髪入れず、夜空を覆い尽くすほどの巨大な「逆向きの結界」が展開される。内からも外からも接触を拒絶する、巨大な鳥籠の完成。
悲鳴が上がる間もなく、正門が巨大な漆黒の雷によって粉砕された。
暗闇の中から現れたのは、白装束に身を包んだ異形の魔導師たちの軍勢。そして、その中心で一人、巨大な肉の塊を咀嚼している小柄な少年がいた。
「……あは、美味しそうな匂い。この学園にいる『苗床』は、みんな僕が食べていいんだよね?」
ワールドエンド幹部、“暴食”のグラトニー。
彼が指を鳴らした瞬間、白装束の兵士たちが一斉に寮へと雪崩れ込んだ。
「……来たか」
アレスは迷わずクローゼットから、魔法の布に包まれた『インフェルノエンブレイド』を掴み、夜の廊下へと飛び出した。
◇
廊下はすでに地獄と化していた。寝間着姿のまま逃げ惑う生徒たちが、兵士たちの冷酷な魔法によって次々と惨殺されていく。
「お兄ちゃん!!」
悲鳴の主を探すまでもない。アレスは最短距離で保護施設へと駆け込んだ。
扉を蹴破ると、そこには腰を抜かしながらも、必死に護身用の魔法を構えるルナの姿があった。その目の前では、一人の兵士が鎌を振り上げている。
「死ね――」
「消えろ」
アレスが、魔法の布に巻かれたままの剣を振るう。
抜刀すらしていない。ただの打突。だが、放たれた衝撃波だけで兵士の身体が粉々に砕け散り、背後の壁までまとめて吹き飛ばした。
「お兄ちゃん! 良かった……怖いよ、お兄ちゃん!」
「……大丈夫だ。ルナ、俺から離れるな」
アレスは震えるルナを強く引き寄せた。三年前のあの日、助けられなかった父と母の記憶が脳裏をよぎるが、今の彼には手に馴染む重みがある。
「アレス! 無事だったか!」
背後から、リヴァイン、グラウス、そしてレヴィアが合流する。彼らは、アレスが「鞘のまま」一撃で敵を粉砕した光景に絶句しながらも、必死に戦況を飲み込もうとしていた。
「あいつら、平気で生徒を殺してやがる……! 許せん!」
グラウスが拳を握りしめ、地面を唸らせる。
「……落ち着け。これだけの規模だ、敵は本気でこの学園を潰しに来ている」
リヴァイン(アクレイド)が冷たく分析するが、その指先はわずかに震えていた。
さらにそこへ、武器を手にした女子たちも駆け込んできた。
「……何よ、この魔力。学園のセキュリティが完全に死んでるわ」
リーネ(クロムウェル)が真っ青な顔で魔導書を開き、サキは弓を番えながらアレスを見た。
「アレス……あんた、今の何? 魔法も使わずにどうやって……」
影の中からノエルが姿を現し、アレスが抱える「布に包まれた剣」を凝視する。
「……その剣。……恐ろしい、鼓動がしてる」
クラスの主力がアレスの元に集結した。だが、廊下の先からは、グラトニーが放った「兵士」とは明らかに格の違う、ドロリとしたプレッシャーが近づいてくる。
「ねえ、アレス……どうする?」
レヴィアが不安げにアレスの顔を覗き込む。
アレスはルナを背中に庇い、漆黒の剣を静かに握り直した。
「……決まっている。出口を探しながら、目の前の『ゴミ』を掃除するだけだ」
かつてアレスを恐れ、あるいは憐れんだクラスメイトたちが、今、彼の背中に「希望」を見出し始めていた。
閉ざされた学園という檻の中で、アレス・ヴァルフレアの本当の戦いが幕を開けた。




