第2話:魔法学園アストラリア訪問
第2話です。
アレスが初めて魔法学園を訪れます。
そして、彼の運命を大きく変える“剣”との出会いが―。
アレスが六歳になった頃。
ヴァルフレア家に、一つの節目が訪れていた。
「そろそろ行く時期だな。アレス、準備はいいか」
父・レオニスの声は静かだが、どこか誇らしげだった。
目的地は、魔法学園アストラリア。この世界の魔法体系を司る最高峰の学府である。九歳からの入学を前に、名門貴族の子息として事前の手続きと面談に向かうことになったのだ。
王都アストラリアは、想像を絶する光景だった。
石造りの街並みには魔力が呼吸するように巡り、炎が灯る街灯、水が流れる装飾、風を孕んで踊る建物の布が、幻想的な輪郭を描いている。
「……これが、魔法の世界」
前世の科学技術とは異なる、理を超えた文明。
だが、見上げても終わりの見えない学園の巨大な門をくぐった瞬間、アレスの肌を刺したのは、洗練された美しさではなく、吐き気を催すほどの「魔力の重圧」だった。
訓練場では生徒たちが魔法を放っている。
空を裂く炎、地を穿つ雷。そのどれもが強力で華々しい。
けれど、それらを見つめるアレスの胸の奥で、あの「熾火」が嫌な反応を示していた。
(……消したい)
ふと、そんな衝動が脳裏をかすめる。目の前の魔法を、すべて無に還してしまいたいという破壊衝動。
「……ほう。見学か」
低く重厚な声に、アレスの思考が遮られた。
そこに立っていたのは、魔法学園校長、ゼルヴァニウス・クロウ。
存在そのものが一つの巨大な魔力の塊のような男。彼が歩くだけで、周囲の空気がガラスのように凝固する。
「なら、少し案内しよう。ヴァルフレアの若き熾火よ」
抗いがたい圧に押されるように、アレスはその後を追った。
案内されたのは、学園の中央広場。そこには、数多の英雄や天才が挑み、敗れてきた「遺物」が眠っていた。
漆黒の剣、インフェルノエンブレイド。
地面に深く突き刺さったその剣は、光を吸い込むようにどす黒く、不気味な沈黙を守っている。
「選ばれた者にしか反応せぬ、意思を持つ器だ。……試してみるか」
校長の言葉に、訓練中の上級生たちが鼻で笑いながら挑戦する。だが、剣は微動だにしない。魔力を注いでも、力任せに引いても、大地の根の一部であるかのように拒絶を貫いている。
やがて、校長の鋭い視線がアレスに向けられた。
「お前もやるか。何かを感じているのだろう?」
アレスは無言で歩み寄った。
剣の柄に手をかけた瞬間――。
ドクン、と。
心臓が跳ねた。
熱い。沸騰した血液が全身を駆け巡る。
視界が真っ赤に染まり、周囲の音が消失した。
(……欲しいか。すべてを焼き尽くし、無に還す力が)
脳内に直接、ドロリとした邪悪な声が響く。理性が、端からボロボロと崩れていくような感覚。
「……っ!」
アレスが力強く引き抜くと、あの日見た「赤い光」が剣身を駆け抜けた。
ズズ……と重い音を立てて、伝説の剣が地面から離れる。
静寂。
広場にいた全員が、息をすることさえ忘れてその光景を見届けていた。
アレスの手の中で、剣が「もっと理性を差し出せ」と言わんばかりに脈動している。
「……抜いたか」
校長の言葉が、魔法のようにアレスの理性を繋ぎ止めた。
ゼルヴァニウスはアレスから剣を取り上げ、再び地面へと突き立てる。
「今の貴様では、その火に食い尽くされる。この剣は、入学の日まで私が預かっておこう。……死にたくなければ、それまでに己を鍛えろ」
◇
帰り道、アレスの右手はまだ熱に震えていた。
あの剣は、自分を選んだのではない。自分という器を「食う」ために呼んだのだ。
雑踏の中、一人の男とすれ違う。
顔はフードで隠れていたが、口元だけが歪に、愉しげに笑っていた。
(……あれは)
振り返った時には、男の姿は人混みに消えていた。
胸に残る違和感と、手に残る理性を削る熱。
平穏だったはずの二度目の人生に、黒い影が落ち始めていた。
読んでいただきありがとうございます!
ついにアレスと“インフェルノエンブレイド”が接触しました。
ここから彼の運命は大きく動いていきます。
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