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第1話 異世界転生

初めまして、作者のチタコロです。数ある作品の中から目にとめていただき、ありがとうございます!本作は、どん底から這い上がる剣と魔法の物語を描きたくて書き始めました。少しでも「面白いな」と思っていただけたら、ブクマや評価で応援いただけると励みになります!それでは、本編をどうぞ。

第1話 異世界転生

 その日、男はいつも通りに朝を迎えた。

 

 特別なことなど、何一つない。

 昨日と同じ天井。昨日と同じ空気。そして、明日もまた繰り返されるであろう、色彩を欠いた退屈な日常。

 

 男は、冷え切った部屋の天井をぼんやりと見上げながら、胸に溜まったおりのような後悔を反芻する。

(……結局、自分は誰の記憶にも残らずに消えていくのか)

 

 前世の彼は、波風を立てず、誰にも迷惑をかけない代わりに、誰の心にも触れない人生を送ってきた。自分を必要としてくれる場所などどこにもない。そんな空虚な確信が、彼から生きる気力を奪っていた。

 

 ――そして、その瞬間は何の前触れもなく訪れた。

 

「……っ!?」

 

 突如、胸の奥を焦がすような鋭い痛みが走る。

 息が止まった。視界が激しく歪み、心臓が肋骨の内側を叩き壊さんばかりに暴れている。

 

(なんだ……これ……熱い……)

 

 助けを呼ぼうと手を伸ばすが、指先一つ動かない。

 次第に視界は暗転し、意識が遠のいていく。その底知れぬ暗闇の中で、たった一つ、異質なものが見えた。

 

 赤い炎のような、揺らめく光。

 

 死の淵で、その光だけが狂おしいほどの熱を放っている。まるで別世界から誰かがこちらを覗き込んでいるような、そんな異様な圧。その熱こそが、すべての魔法を無に還す“地獄の炎”の源流であったことを、この時の彼はまだ知らない。

 

 ◇

 

 暗い。

 ただ自分の意識という粒だけが、底のない奈落へ落ちていく。

 その空白の時間のなかで、不意に声が響いた。

 

『……燃えているな。すべてを無に還す、呪いの種火が』

 

 それは誰の声でもなく、自分の声でもなかった。

 暗闇の奥で、あの赤い炎が爆ぜた気がした刹那、世界は崩れるようにほどけ、凄まじい光と音が男を飲み込んだ。

 

 ◇

 

 目を開けたとき、男は泣いていた。

 理由はわからない。ただ、肺に流れ込んでくる空気があまりに生々しくて、勝手に涙が溢れたのだ。

 

「元気な男の子ですよ。……名前は、アレス。アレス・ヴァルフレア様」

 

 慈しむような女性の声。アレス。それが、この世界で新しく与えられた自分の名だった。

 

 ◇

 

 ヴァルフレア。炎を司る貴族の名家。

 王都を離れた静かな領地で、アレスは父レオニス、母エリシアの深い愛情を受けて育った。前世で「誰にも必要とされなかった」彼にとって、温かい食事と家族の笑い声があるこの生活は、それだけで眩しすぎる奇跡だった。

 

 成長するにつれ、アレスはこの世界のことわりを知っていく。

 炎、水、地、雷。四つの魔法が力を象徴する世界。

 自分もいつか、この家族を守るために普通の“炎”を灯せるようになるのだろうか。

 

 けれど、眠りにつくたび、魂の奥底で何かが囁く。

(自分は一度、死んでいる。あの暗闇の中で、何かを拾わされた)

 

 ある夜。

 窓の外に広がる星空を見上げながら、アレスは胸に手を当てた。

 

 理由のない焦燥。

 理由のない、懐かしさ。

 

 小さな胸の中で、消えそうに、けれど確かに熾火おきびが揺れている。

 

「……燃えてる」

 

 その火種が、やがて漆黒の剣と出会い、理性を食らう絶望の炎へと変貌することなど、今はまだ夢にも思わなかった。


第1話をお読みいただきありがとうございました。主人公アレスが転生先で手にしたのは、温かい家族……と、何やら不穏な「熾火」でした。「すべての魔法を無に還す」という力が、平和なヴァルフレア家でどう暴発するのか(あるいは制御するのか)、次話から少しずつ物語が動き出します。ぜひブックマークや評価で応援いただけると、執筆の励みになります!

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