第19話:束の間の青空
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学園の休日。王都アストラリアのメインストリートは、陽光に照らされ、多くの人々で賑わっていた。
そんな人混みの中で、ひときわ目立つ一団がいた。
「おい、アレス! こっちこっち! この串焼き、最高に美味いんだよ!」
食べ歩きの串を手に元気よく手を振るのはレヴィアだ。
「……レヴィア、はしゃぎすぎだ。公衆の面前で見苦しいぞ」
アクレイド家の嫡男として育ったリヴァインが冷たく言い放つが、その手にはちゃっかりと、レヴィアに勧められた王都名物のスイーツが握られている。
「まぁいいじゃないか。たまの休日だ、英気を養うのも修行のうちだろう」
グラウスが豪快に笑いながら、アレスの肩を軽く叩く。
三人の輪から一歩引いたところで、アレスは居心地が悪そうに周囲を見渡していた。
三年前まで、自分にとって王都は「復讐の手がかりを探す場所」でしかなかった。けれど今、こうして騒がしい連中と並んで歩いていると、街の景色が以前よりも色彩豊かに見えてくる。
ふと、アクセサリーショップの前を通りかかると、店内に見覚えのある姿があった。
「あら。その死んだような目で選ぶなら、せいぜい呪いの魔導具を掴まないように気をつけることね、アレス」
最新の魔導触媒を物色していたリーネと、退屈そうに弓の弦を弄っていたサキだ。
「アレスも妹へのプレゼント? 奇遇だね! ルナちゃんにはこっちの青いリボンの方が似合うよ、絶対!」
サキがニカッと笑い、勝手に品定めを始める。
「……俺が自分で選ぶ。放せ」
即答したアレスに、レヴィアたちが一斉に笑い声を上げる。その喧騒の向こうでは、カイルとミナがジャックに特大のわたあめを無理やり食べさせている姿も見えた。
四人はその後、噴水広場での大道芸を見物したりと、ごく普通の学生らしい時間を過ごした。
夕暮れ時。王都を一望できる高台の公園で、四人は並んで座った。
オレンジ色に染まる街並みは美しく、戦いや復讐のことなど、今だけは忘れてしまいそうなほど穏やかだった。
「……まさか、僕が君たちみたいなのと街を歩くことになるとはね」
リヴァインがポツリと呟く。
「俺もだ。アレス、お前には最初、不穏な空気を感じていた。……だが、今は違う。お前は、信頼に値する男だ」
グラウスが真っ直ぐな瞳でアレスを見据える。
アレスは無言で、遠くの地平線を見つめていた。
自分は復讐者だ。いつか、この幸せな日常を壊す時が来るかもしれない。
けれど、今、隣で笑っているこいつらのことを、嫌いだとは思えなかった。
「ま、これからもよろしくな、みんな! 卒業しても、ずっとこうして遊ぼうぜ!」
レヴィアが明るく、眩しい笑顔で拳を突き出す。
アレスはその拳をしばらく見つめた後、小さく、誰にも聞こえないような声で「……ああ」と答えた。
その直後。
アレスの腰にある『インフェルノエンブレイド』が、鞘の中で「ギィッ……」と、獲物を見つけた飢えた獣のように鳴った。
(……なんだ?)
一瞬、あの惨劇の夜と同じ、ドロリとした不快な魔力の残滓を感じた。街の喧騒に紛れて打ち込まれた、目に見えない“楔”の気配。
「ほら、帰るぞ! ルナちゃんがお腹空かせて待ってるぞ!」
レヴィアが腕を引く。アレスは背筋を走った悪寒を胸の奥に仕舞い込み、仲間たちと共に、温かな光の差す学園へと歩き出した。




