第16話:妹の電撃作戦
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不浄の森での実習を終えて数日。アレスが演習で見せた「一瞬で魔獣を消す謎の力」は、クラスメイトたちに拭い去れない恐怖を植え付けていた。
教室ではカイルやジャックさえもアレスを避けるような冷たい静寂が広がり、アレスもまた、それを望んでいるかのように一人で本を読み続けていた。
そんな中、レヴィアだけが一人、好奇心と「ある目論見」を持って動いていた。
「……あ、いたいた。こんにちは!」
学園の保護施設。庭の木陰で魔法の練習をしていたルナは、上から降ってきた明るい声に肩を跳ねさせた。
「……あ、あの、誰……ですか?」
「びっくりさせてごめん! 僕はレヴィア。アレスとはクラスメイトなんだ。……えーと、もしかして君、アレスの彼女さん?」
「……っ!!」
ルナは顔を真っ赤にしてフリーズした。
「……い、妹……です。アレスの、妹の、ルナです……」
「あはは、やっぱり! いや、アレスがあまりにかっこよくてストイックだからさ、あんな奴を一人占めしてる可愛い女の子がいるのかと思っちゃったよ」
レヴィアは木からひょいと降りると、ルナの隣に腰掛けた。少し寂しそうな顔で笑う。
「……でも、ちょっと心配なんだ。アレス、実力が凄すぎて、みんなから『怖い奴』だと思われちゃっててさ。今日もお昼休み、誰とも喋らずに一人でパンを食べてたんだ。僕は友達になりたいんだけど、彼、鉄壁のバリアを張ってるみたいで」
ルナは、その言葉にハッと胸を突かれた。
大好きなお兄ちゃん。自分のために、復讐のために、外の世界で独りぼっちで戦っている。自分だけがその温もりを知っていて、外では苦しい思いをさせているのではないか――。
「……お兄ちゃん、本当は……優しいのに……」
「そうだよね。……誰か、クラスのみんなに『アレスは怖くないんだよ』って教えてくれる救世主がいたらいいんだけどなあ。あ、ごめん! 独り言だよ」
◇
翌朝。教室にアレスが入ると、いつものように周囲がサッと静まり返った。
アレスがいつものように冷徹な顔で席につこうとした、その時。
「おーにーいーちゃーーん!!」
教室の扉が勢いよく開き、一人の少女が飛び込んできた。
アレスが贈った赤いリボンを揺らし、花が咲いたような笑顔で駆け寄るルナの姿に、クラス二十名の時間が止まった。
「ル、ルナ!? なんでここに……! 入るなと言っただろ!」
「だってお兄ちゃん、お弁当忘れてたよ! はい、これっ!」
アレスの「鉄の仮面」が、一瞬で崩れ去った。慌てふためくアレスの袖を引き、ルナはクラスメイト全員に向かって、満面の笑みでぺこりと頭を下げた。
「皆さん、おはようございます! アレスの妹のルナです! お兄ちゃん、口下手でちょっと怖い顔してるけど、本当はすっごく優しくて、私の自慢のお兄ちゃんなんです! 仲良くしてあげてくださいね!」
ルナは言いながら、アレスを「研究対象」として見ていたリーネやサキ、ノエルの三人を、一瞬だけ**「笑っていない瞳」**で射抜いた。
「え、あのアレスが……妹にはあんなにタジタジなのか?」
「なんだ、ただの極度のシスコンかよ。怖がって損したわ」
カイルやミナたちがクスクスと笑い声を上げる。ジャックも「お兄ちゃん、大変だな」と親近感を込めて肩をすくめた。教室の氷が目に見えて溶けていった。
◇
放課後。ルナを送り届けた帰り道、アレスは廊下で待ち構えていたレヴィアを見つけた。
「……お前だな。ルナに余計なことを言ったのは」
「バレた?」
レヴィアは悪戯っぽく笑い、壁に寄りかかる。
「でも、成功だっただろ? おかげで、君がこの場所に少しだけ馴染めた」
「……お前、ルナに何を吹き込んだ。あいつが外の人間を助けるような真似をするはずがない」
アレスの問いに、レヴィアは沈む夕日に照らされながら、この上なく優しく、完璧な「親友」の笑顔を浮かべた。
「さあ? 僕はただ『お兄ちゃんを救えるのは君だけだ』って言っただけだよ。……愛の力って、本当に何でもできちゃうんだね、アレス」




